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2016.08.31

中村一義「microKORG」インタビュー Powered by CINRA.NET

たった一人で傑作『金字塔』を作り上げ、外の世界に飛び出した中村一義が出会った100sという仲間
 
1997年にシングル『犬と猫/ここにいる』でデビューし、同年には1stアルバム『金字塔』を発表。まだベッドルームレコーディング(自宅録音)が主流ではなかった頃、「状況が裂いた部屋」にてたった一人作り上げたデモをもとに、セルフプロデュースにて完成させたこのアルバムは当時、多くの音楽メディア、評論家から絶賛を受けました。

中村 :オリジナル曲を作り始めてすぐは、もちろん曲も歌詞のクオリティーもよくなかったんですけど、1年8か月くらい経ったときに、<どう?>っていうフレーズが降りてきて。「あ、これは作れるぞ」と思って一気に作ったのが、“犬と猫”でした。『金字塔』は、今思うと、たった一人で作り上げたイカダみたいなものですね。「状況が裂いた部屋」から外の世界へ飛び出し、仲間と巡り合うための作品だった。

 


デビューから数年は一切ライブ活動をしていなかった中村さんですが、3rdアルバム『ERA』をリリースした2000年、デビュー以来初となるライブ出演を果たします。翌年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001』には、現在ではレキシの首謀者として知られる元SUPER BUTTER DOGの池田貴史さん(Key)、町田昌弘さん(Gt)、小野眞一さん(Gt)、玉田豊夢さん(Dr)、山口寛雄さん(Ba)とバンドを組んで出演し、同じメンバーで4枚目のアルバム『100s』(2002年)をリリース。以降、名義を「100s」に変更し、ソロ活動から本格的なバンド活動へとシフトしました。

中村 :デビュー当時からバンドは組みたかったんです。なかなかライブをやらなかったのも、心を通わせられるようなバンドメンバーと出会えなかったからなんですよね。100sのメンバーとは、2、3度セッションしただけでものすごくしっくりきました。年齢も近いから「こんな感じ」っていう感覚もすぐ通じて、友達みたいに仲良くなれたし、もちろんライバルとしての緊張感もあって。『トキワ荘』みたいな空気が出来上がっていきましたね。


音楽家人生の頂点に挑んだ『対音楽』を経て、見取り図のない海へと繰り出した中村一義と新たな仲間たち
 
そして2012年、10年ぶりにソロ活動を再開。ベートーヴェンと対峙したコンセプトアルバム『対音楽』が完成します。ベートーヴェンの交響曲第一番から第九番まで、およびピアノソナタ第八番のフレーズが全ての収録曲に組み込まれた本作は、今聴いても異様なほどのテンションがみなぎっており、ベートーヴェンに対する中村さんの並々ならぬ思いが詰めこまれていました。

中村 :「ついに、このときが来たか」という感じでしたね。音楽家としての自分のキャリアは、最後はベートーヴェンと対峙して終わるだろうなと思っていたので。ベートーヴェンは、自分にとって音楽の礎のようなもの。The Beatlesというルーツと向き合うことで、『金字塔』以降の自分の活動が決まったとしたら、The Beatlesよりもさらに遡ったところにあったのが、ずっと祖父が聴いていたベートーヴェンだったんです。特にアカデミックな教育を受けたこともないのですが、読書家の祖父から分厚い楽典を読まされたりはしていたんですよね。最初は「何のこっちゃ?」と思いつつも(笑)、読んでいるうちに(理論などが)身についていったのかもしれないです。

 

中村一義の制作デスクに置かれた小物。
『対音楽』のジャケットで使用されたマスクや「百式」のプラモデルなどが置いてある



それから4年後の2016年。Hermann H.&The Pacemakersのメンバーや、元BEAT CRUSADERS のマシータさん、100sの町田さんらと再びバンドを結成した中村さんは、ニューアルバム『海賊盤』をリリースしました。

中村 :『対音楽』を作り終えたときには、「これで音楽活動をやめてもいいかな」とも思ったんですよ。1997年の『金字塔』から始まって、100sを経て前作の『対音楽』で、一周回ったような感覚があって。でも、『対音楽』のプロジェクトが終わってから、100sのギタリスト町田昌弘と一緒にアコースティックツアーをやって。地方を回りながら、お客さんとコミュニケーションをしているうちに、少しずつ気持ちが変わっていきました。ちょうどそんなときに、Hermann H.&The Pacemakersと出会ったんですね。僕らとほぼ同時期にデビューした彼らも、辛い体験したり活動休止していた時期があって、「もう一度やろう!」っていうときだった。僕らと行き先が同じなんじゃないかと思って。それで、彼らとバンドを結成することになったんです。振り返ってみると、100sのときは、自分の中で『対音楽』を作るまでの見通しというか、見取り図みたいなものがあったんです。でも『対音楽』を作り終え、「海賊」として船出した先は、もう完全にまっさらな状態。進んでいくと色んな出来事が次々と起き、それに対して受けて立つ毎日です。90年代には、計画性を持ったサバイブが必要だったけど、これからの時代はもっとワイルドな活動が求められる気がしますね。

 



初のアニメタイアップ曲と朋友・町田昌弘の存在
 
そして今回、ニューシングル『世界は変わる』がリリースされます。アニメ『エンドライド』の第2期エンディングテーマであり、中村さん自身の活動とアニメの作品世界が絶妙にリンクした楽曲に仕上がりました。

 

中村一義『世界は変わる』ジャケット



中村 :『エンドライド』は、異世界と現実世界それぞれに住む青年の交流を描いた物語です。僕にとっての相方は誰か? といえば、やっぱり100s、アコースティックツアー、そして海賊と、ずっと一緒にやってきた町田昌弘なんですよね。海賊船の副船長みたいな存在です(笑)。あいつに持ち場を任せておけば安心、みたいな。最初はお互いぶつかり合ったこともあったけど、そんな局面を乗り越えてきたからこその「絆」があると思います。その上で、異世界と現実世界が交わる場所ってどこかなと考えてみたら、それは普遍的な空だったり、自然だったりするのかなと。その交わる地点を主人公はどんな気持ちで眺めているのか、思いを馳せながら作ったのがこの曲です。

 


『金字塔』というイカダに乗り込み、たった一人で大海原へ漕ぎ出した中村さん。今では巨大な「海賊船」の船長として、たくさんの仲間を率いて進んでいく存在になりました。

中村 :今年の8月10日、佐野元春さん主催のイベントに出演させてもらうことになりました。『THIS!』という、20年ぶりに開催される伝説のイベントです。佐野さんとは、2ndアルバム『太陽』(1998年)を出したときに対談させてもらってからのご縁で、ことあるごとに僕をステージに引っ張り上げてくれるんですよね。佐野さんと先日食事させてもらったときに、「お互い、活動の仕方が似てきたよね」なんて言ってもらえて。「いや、師匠が師匠だからですよ!」って答えたんですけど(笑)。僕も佐野さんのように、これから先も志を共にする人たちと、ずっと進んでいきたいなと思っています。