2026.01.30
KORG MUSEUM

岐阜県・中津川市。日当たりの良いのどかな風景の中に、私設のコルグ・ミュージアムがあります。事前予約で観覧できるこのミュージアムは海外からの訪問者も多く、世界中から注目を集めています。
本家コルグよりもコルグ製品が揃っていて、しかもとても良好なコンディションで保存されているので、旧製品を復刻する際にはコルグが逆に製品をお借りする、そんな逆転現象も生まれるほど。
このミュージアムを始めたきっかけは何なのか。そしてこれだけの製品を集めた人は一体どんな人物なのか。私たちが知りたかったことをお尋ねする取材をミュージアム館長の石川秀樹さんに打診したところ快諾して頂き、ちょうど中津川名物「*栗きんとん」真っ盛りの時期に現地を訪問してきました。
*岐阜県に伝わる銘菓。
現在は展示品の整理を行うために休館中だそうで、2026年の春にはミュージアムを再開したいとのこと。このインタビュー記事を読み終わった皆さんがここを訪れるきっかけになれば幸いです。(取材日:2025年11月7日)

石川秀樹館長
──楽器、音楽との出会い、影響を受けた音楽は?
石川: 音楽との出会いで言えば最初、家で音楽を聴く環境はテレビぐらいでした。小学校の低学年ぐらいで初めてレコードが聴ける環境になったところで、聴きやすいもの=ポール・モーリア、映画音楽、クラシックの名作などから始まっています。ポール・モーリアなんか本当にレコードがすり切れるぐらい聴いていましたので、美しい音楽がやっぱり良かったんでしょう。
その後4つ上の兄がラジオを聴くようになって、そこで初めてシンセが出てくるわけなんです。1978年くらいだと思うんですけど、兄がピックアップしたのがヴァンゲリス(※『炎のランナー』『ブレードランナー』などの音楽を担当したギリシャの音楽家、故人)、ジャン・ミッシェル・ジャール(※フランスを代表するシンセサイザー奏者)。この二人です。
アルバムとしては、ヴァンゲリスだと『スパイラル』。ジャン・ミッシェル・ジャールだと『軌跡(Équinoxe)』。後者はミュージアム入口にジャケットを展示していますが、あのあたりで初めて自分の中にシンセが入ってきて、そこからシンセサイザーの音楽が始まり、ハマるものが決まった感じです。
楽器との出会いは(その後の)YMOまで行かないと。たぶんジャン・ミッシェル・ジャールとヴァンゲリスではシンセを買おうというところまで行かなかったと思います。やっぱりYMOが出てきて、しかも出ただけじゃなくてライブをやったこと。あれが大きいです。
1980年の4月でしたけど、その時に兄が「シンセが欲しい」みたいな話になって、初めて1台買ってもらったのがスタートになりました。ちなみに楽器との出会いということで言えば、たぶん『軌跡』の帯でシンセサイザーを初めて画像で見たのが最初です。
それ以前の楽器なんか全然。小学校で普通にリコーダー吹くとかハーモニカ吹くとかその程度しかやってない状態でした。高校時代にはブラスバンドでバリトンサクソフォンを担当しましたが、未だにキーボード弾けないし、音楽作ってないし、ほぼ何もやってない人間なんです。でも、中学時代には同級生とモノシンセ3台にリズムマシンでYMOのコピーはやりましたね。

その『軌跡』のレコードの帯にはMSシリーズの広告が掲載されており、この広告が楽器との出会いとのこと。
──中津川とのご縁は?
石川: 石川家は中津川のここが実家であり、昔から住んでいます。江戸初期に中津川に来て、苗木藩で武士をしていました。文久3年(1863年)から現在の住所におります。母屋の建物は天保7年(1836年)築で、ミュージアムの建物は明治41年(1908年)築で以前は養蚕の作業場でした。
高校を卒業してから東京に出ていたんですが、父親が体調を崩して、兄はちょっと帰れない感じだったんで、自分が帰ってここに入ったのが今から25年以上前くらいかな。
──本業は何をされていますか?
石川: 自動車部品工場に勤めています。元々は建築設計とかインテリア・デザイン専攻だったんですけど、こっちに帰ってくるにあたって、ちゃんと資格も取っていなかったし、地元に帰ってきてデザインの仕事ができるという状態じゃなかったんです。だからそこは割り切って工場勤めをしています。

このミュージアムの素晴らしいコレクションは、製品のみならず純正のケース、スタンドなどのオプション、さらにノベルティ、グッズまで非常に幅広いことにまず驚かされます。私たちコルグ社員でも知らないようなものが丁寧に保管されており、展示のレイアウトにはさすがデザイン専攻と思わせるセンスに溢れています。
──コルグ製品を集めるきっかけは?
石川: 10代の時に最初に買ったのはコルグのシンセで、M-500SPなんです。本来ならMS-10に行くのかと思いますが、これには理由があって。その時はあまりにも知識がなくて、アンプをどうしていいのかわからない。そこでどん詰まって、色々調べていたら「アンプ・スピーカー内蔵!!」。これなら良いと決まったのがM-500SPでした。
最初のシンセ買うときにコルグの1979年のカタログも見ているんですけど、コルグの格好良いカタログがぶっちぎっていたんです。製品のデザインもやっぱりすごく格好良い。シグマとかラムダとか全然ぶっちぎり。それがミュージアムに繋がっていくわけですけど。
後で聞いたところでは、当時はコマーシャルにすごく力を入れていたし、製品のデザインも極めつけのことをやっていたみたいです。それは美術学校に行ってデザインを勉強すると、なおさらシグマとか「よくこんなデザインの製品出せたな」ってなるんです。当時コルグは100人いるかいないかの中小企業みたいな感じで、それでこのデザイン。これは普通会議に掛けたら間違いなく却下されるようなものだろうと。本当にすごかったので、美術学校を卒業してからそういうすごい製品だけは手元に置きたいなっていうのがあって、シグマ、ラムダ、デルタ、この3機種を集め始めた。これがきっかけです。

M-500SP。M-500(micro-preset)にスピーカーが付いたモデル。M-500はビクターが販売したモデルもあり、そちらは左側の操作パネルがシルバーでした。
──ミュージアムを開くきっかけは
石川: 集め始めた頃はミュージアムの構想はもちろんなく、とりあえず最低限の物は手元に置きたいという感じでした。とか言っているうちに中津川に帰ることになって帰ったけど、仕事としてはもう割り切っていくしかないというのがあり、そうなると寂しいもので。要するにデザインとしての何かをやる、そういう方面のことをやりたいというのがあって。その時色々と考えて決めたのが「ミュージアムを作る」。25年前のことです。
当時、電子楽器のミュージアムはほとんどないような状態でしたし、たぶんコルグはミュージアムを持ってない。もしかしたら製品もあまり保存してないかもしれない気がしたので、だったら自分ができるかなというのがありました。
あとはネット・オークションが始まったタイミングです。楽器屋さんだけで集めることは不可能ですが、2000年ぐらいにオークションが始まり、これなら集められる可能性があると思ったんです。それから毎日ネットをチェックしました。コルグに関して、アナログ時代はコンプリートするつもりだったので、片っ端から全部。しかもミュージアムをやるからにはコンディションが良くないとダメだと思ったので、とにかく程度の良いやつを探すということをずっと続けて、徐々に集めて行きました。
他社のコーナーは当初構想にはなかったんです。ただデザイナー的な発想では、コルグが良いというのは良いのですが、他を見ていないのはあまり良くないなと。写真で見ていても実物を見ると違うというのは結構あるんです。ただし他社の製品に関しては、最初から集めるものを決めてこれだけ揃えていくことにして、今の状態になっています。

コルグ以外のコレクションも非常に充実。インタビューにもある「最初から集めるものを決めて」の選び方に石川館長の個性が反映されています。
──好きなコルグ製品は?
石川: ミュージアム開くきっかけでもあるんですが、シグマがすごいと言っている人が世の中に誰もいない。シンセってこれでいいんでしょうか?というのを突き詰めた一つの答えが、シグマに至っていると思うんです。
シグマは1979年の春に出たんですけど、その頃ローランドはPROMARS、ヤマハはCS20Mを出しています。3つ並べると37鍵盤、モノフォニック、2VCO仕様、値段は20万弱、それも全部一緒。一緒なのにコルグのシグマだけは180度違うことをやっている。このコントラストの凄さですね。
例えばシグマの譜面台。シグマを持っている人でも譜面台が格納されてるって知らない人がいるんじゃないかと思うんですけど、針金を曲げたやつの何百倍のコストがかかっているんだろう、その力の入れようですよね。本当にそれは凄いものなんで、もっと評価されるべきだし、 そこにコルグの哲学が詰まっている時代だと思います。
シグマは鍵盤の操作だけじゃなくて、ボタンまで含めて演奏を定義している製品なんです。そこまで含めてリアルタイムで様々な音色を作りながら演奏できる、そこがテーマのはずなんですけど、リック・ウェイクマン(※イエスなどの活動で知られる世界的キーボーディスト)だってそこまで使い込んではいないと思うんです。
そういうとこがあって、評価されていないなら自分がミュージアム作って評価すると話になってくるんです。好きなコルグ製品はシグマが筆頭でしょうね。あれがなきゃミュージアム作っていないです。あの時代の製品は本当にすごかったと思います。

コルグ・シグマ(Σ)。この時期に登場したシグマ、ラムダ(Λ)、デルタ(Δ)の3兄弟は、横から見た形が名前の由来だと言われている。シグマはアールの付いた操作パネルが特徴的。
──コルグに対するイメージ、思い入れなどをお願いします。
石川: イメージとしてはやっぱりオンリーワン、しかもナンバーワン。ナンバーワンって言ったらシンセサイザーが販売台数、世界一位はmicroKORGかM1かどっちかなんですよ。生産台数世界一がM1で、生産期間はmicroKORG。この時代、変化の激しい時代において、 20年超えてずっとロングランはありえない話です。
リズムマシンも日本で初めて作りましたし、シンセだって日本で初めて作ったし(※諸説あり)、 800DVなんて世界初のデュアルボイス。そんなすごいものもありながら、なおかつユニーク。コルグの製品がユニークだと感じている方は多いと思うんですけど、それはなぜかと考えると、私は加藤会長(※コルグ創業者・故 加藤孟)にあると思います。
見方が違うんです。 エンジニアでもないし、プレーヤーでもない。違う視点から見ていますから、その時点で発想が違うと思うんです。電子楽器メーカーに限らない話ですが、トップが設計者であることが多いのですけど、コルグはそうではない。ただ設計ができないんで、そこで設計する人がいる。その時に三枝さん(※コルグ相談役・三枝文夫)みたいな優秀な人が組んで、しかも三枝さんがユニーク。ここがポイントです。
「楽器というのは個性があって面白い」とおっしゃる方ですから、フィルターなんかトラベラー*という素敵な名前を付けられて、この辺からして普通じゃない。こういうセンスの方とペアになったことが奇跡で、ありえないような話なんです。この二人のコンビネーションから生まれる楽器というのが、ものすごく個性的でオンリーワンです。
*2つのツマミで音も自由に旅するように、ということから名付けられた。

トラベラーが特徴のminiKORG700Sと、800DV。800DVは700x2台分のシンセエンジンを搭載した「デュアルボイス」仕様で、海外向けには(700の「miniKORG」に対して)「MAXI KORG」という名前が付けられていました。
──ミュージアムのこれからについて。
石川: ミュージアムを見学された方は、こういった歴史とか背景があって、こういう魅力的な製品ができたということを見て頂くと、コルグに対する認識がさらに上がったり、より愛着が湧くと思うんです。コルグ製品の生まれた過程を知って欲しいと思っています。
弾ける人には弾いて頂いて、実際に耳で感じて欲しいです。例えばminiKORG700などアナログ・シンセの時代は、同じような回路にアレンジを加え、ずっと使っていることとか。そういうのも音を聞くと理解できますし。
ここまで25年間。とりあえず自分ができることはこういうことなんで、ここを本当に精一杯やって、あとは色々な人に見てもらって理解を深めて欲しいと思います。
──ありがとうございました。

ミュージアムの紹介
これからの訪問を楽しみにしている方へのネタバレにならない程度に、ここではぜひ見逃さないで欲しいところと、館内の雰囲気だけご紹介します。なお2026年春のリニューアル公開に向けて、現在展示の配置などを整理中とのことで、下記写真/説明と実際の展示品などが異なる可能性がありますが、ご了承ください。

ミュージアムにはデザイナー志望だった石川館長のこだわりが随所に見受けられます。KORG muséeとフランス語表記なのは、最初のキーボード製品である「Korgue」がフランス語表記だったため。ロゴの中に小さく「KORG Σ」とあるのは、このアイコンをシグマのパネルからデザインしたものだからだそうです。

館内への入口ではDr.KORGファミリーとMS-10がお出迎え。Dr.KORGは当時コルグが配布した「サウンドシンセサイズ入門( https://www.korg.com/jp/support/download/manual/0/134/2439/)」に登場するキャラクターですが、そこでは単色で描かれているため、彩色は石川館長のオリジナル。右側の格子戸の引手や外にある玄関マットも要チェック。

2Fに上がると本格的な展示が始まります。築100年を超える建物は、それだけで味わいを感じさせます。

所狭しと並ぶコルグ製品。右側はグッドデザイン賞受賞のものが集めてあり、このように何らかのテーマに沿って展示が整理されています。一見雑多に思えますが、説明を読むと製品仕様の変化の流れが理解できて、信じられないほどスーッと頭に入ってきます。

前述の「製品のみならず純正のケース、スタンドなどのオプション」のほんの一例ですが、miniKORG700の譜面立て、スタンド、ケースまで揃っているのはなかなか見られないです。このようにさりげなく製品の下に純正ケースが隠れていたりするので、細かいところまで見逃さないよう。

これはVC-10ボコーダーの展示ですが、例えばこの右上には「カタログからの抜粋」、左上には館長自ら本人に直接取材されたか、あるいは記事から拾ってきたと思われるPOP(これは「三枝氏の回想」)が添えられています。全てにこれらがあるわけではないですが、あるものについてはその製品がどういうものなのか、ユーザー目線だけでなく、作り手側からも知ることができます。

Tシャツ、キーホルダー、マグカップなど、ミュージアム・オリジナルグッズも充実。石川館長自らデザイン、ここでしか買えない貴重なものなので、来館の際はぜひチェックしてみてください。

取材のお礼にコルグからmicroKORG 20周年限定モデル「microKORG Crystal」のシリアル1番をプレゼントしました。2026年春の再オープン時にはどこかに飾られているかも知れません。
KORG MUSEUM
ホームページ
https://www.korgmuseum.com/
インスタグラム
https://www.instagram.com/korg_museum/
[YOUTUBE] 中津川 KORG MUSEUM で弾いてみた [ショート動画]
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