2025.12.15
Kan Sano「KORG Products」インタビュー

ソロ活動に加えてバンド活動も積極的に行っておられるKan Sanoさん。年明けには「Mental Sketch Solo Piano Tour ’26」と銘打った全国ツアーも控えており、これからますます忙しい日々が続きそうです。
そんなKan Sanoさんについては、これまで数々の専門メディアで、音楽との関わりやご自身の作品についてのインタビュー記事が掲載されていることもあり、逆にメーカーでないとできないようなもの=コルグ製品についての思い出や印象を語って頂くことにして、事前にKan Sanoさんに弾いてみたいコルグ製品のリクエストを募って、その中で社内にあるものをかき集めて取材に挑みました。
当初の予定時間を遥かにオーバーする長時間に渡る取材中も、ずっと楽しそうに演奏し、時に熱く語って頂いたKan Sanoさんの飾らないお人柄が、皆さんに伝われば幸いです。
microKORG(2002年発売)
──まずKan Sanoさんと言えば、microKORGということで...。
Kan Sano(以下KS): microKORGは僕が初めて自分でちゃんと買ったシンセなんです。当時、バークリー音楽大学に行ってた20歳ぐらいの頃なんですけど、友人がmicroKORGを使っていたのが気になって、自分もすぐお店に行って買いました。それまでは先輩のシンセを借りたりとか、その場しのぎでやっていたんですけど、microKORGは小さいし持ち運び便利、値段もお手頃で。当時、学生でお金は無かったですけど、手が届くシンセだったんですよね。でも音はすごくいいし、いまだに使っています。
──ステージでよく見かけるやつですか?
KS: そうです。今はライブでサポートのメンバーに使ってもらってるんですけど、僕がリハーサルの時に音作りをして、それをフレーズを決めて弾いてもらっています。もう20年以上使ってますかね。
──かなり初期に買われたってことですか?
KS: たぶん発売してすぐだと思います。学校でアンサンブルの授業があってセッションしてたら、一人がmicroKORGを持ってきてその時初めて見て、みんな「これはなんだ?」みたいになって。そこが始まりですね。
──嬉しいですね、バークリーでセッションに使われるという。
KS: 当時、アンサンブル・ルームにはTRITONもあって、学校ではよく触っていました。
──音作りされるということで、エディットして使っているとは思いますが、プリセットで好きな音があったら教えてください。
KS: プリセットにも好きな音色がいくつかあって、それをよく使ってましたけど。
KS: 初期のアルバムは結構使っていると思います。 『2.0.1.1.』とか『Fantastic Farewell』というアルバムはこの音を使っています。MS-2000も持っていますが、同じような音がそちらにも入っていて、大体どっちかで使っていました。
MS2000(2000年発売)
MS2000(販売終了)
──この流れでMS2000に行きましょう。
KS: 2006年に上京して東京で音楽活動を始めたんですけど、バークリーを卒業したエンジニアの知り合いが先に東京にいてそこで再会したときに「MS2000、いらない?」って言われて「え、いいんですか!?」って譲り受けたシンセです。
microKORGと似たような音色が結構入ってるんですけど、何ですかね? 音の太さなのか…なんかフィジカルな感じがすごく気持ち良くて。ただ結構サイズが大きいのでライブというよりは主に制作で、初期の作品では結構使ってましたね。その頃はソフトシンセを全然使ってなかったので、シンセも全部オーディオで録っていて。なのでMS2000とかいつもオーディオで録って曲を作ってました。
最初にmicroKORGを買って、その後MS2000を手に入れて、その後MS-20(オリジナルは1978年発売)を手に入れるんですけど、(製品の発売順と)逆順に手に入れていったっていう(笑)
これもやっぱりカットオフとか、ツマミを触りながら弾くのも楽しくて、レコーディングの時はそうやっていつも使ってました。あとこのベンドもすごく使いやすいです。
KS: これのボコーダーもファースト・アルバム(『Fantastic Farewell』)で使っています。「Music Overflow」という曲でボコーダーを初めて使ったんですけど、なんか懐かしいですね。音色に記憶が思い出が詰まってるというか、この音色はあれで使ったな、みたいなのを弾いていると思い出します。MS2000は演者側に操作パネルがちょっと向いてるのもなんかいいんですよね。お客さんからは見づらいかも知れないですけど、こっちからするとなんか嬉しいですね。
MS-20(1978年発売)
写真はMS-20 FS(2020年発売、販売終了)/ MS-20 mini 製品情報
──では次はMS-20でお願いします。
KS: 僕のはオリジナルの方ですね(※ここではMS-20 mini(2013年発売)を用意)。これはめちゃめちゃイカつい音が鳴るんですよ。でも僕も全然使いこなせないんです。MS2000もずっと使っていて、他のシンセもそこぐらいからアナログ・シンセとか古い機材にも興味を持つようになって、色々見ていく中でMS-20が気になって...という感じです。でもいまだにちゃんと使いこなせてなくて。
実際にレコーディングで使ったことはまだないんですけど、こうやってツマミをいじりながら、ああでもないこうでもないって、まだ探っている段階です。でもやっぱり物としてのかっこよさに惹かれて買っちゃいました。
──ちなみにガチャガチャ(ガシャポン)も発売されたんですが、ご存知ですか?
KS: いくつか持ってますよ!! MS-20当てました(笑)。microKORGも持ってます。あれいいんですよね、かわいい。
──ありがとうございます(笑)
KAOSS PAD 2(2002年発売)
KAOSS PAD 3(2006年発売)
KAOSS PAD 2(販売終了)
KAOSS PAD 3(販売終了) / KORG Collection KAOSS PAD 製品情報
──次はKAOSS PADシリーズです。2も3も使われましたか?
KS: もう圧倒的にKP2ですね。2がもうとにかく好きで、後にKP3も試しに買ってみて、 またKP miniとかも買ったんですけど、結局また2に戻って。ライブで使っていたんですけど、2010年代頃、当時僕はサポートを結構やっていてそれぞれの現場で使ってたので、機材を分けるために3、4台くらい持ってました。
──鍵盤のエフェクターとして使うのですか?
KS: そうです。キーボードに直接つないで、主に空間系のエフェクターとして、ディレイとかリバーブとかが入ったものを使っていました。右手で弾いて、左手でこれを触ってみたいな感じで使ってたんですけど、ライブ活動をしていく中で僕も歌う分量がだんだん増えていって、鍵盤にそこまでフォーカスしなくなっていったので、 だんだん使わなくなっていったんですけど、 鍵盤がメインでライブをやってた頃は結構これを使っていました。
鍵盤の左側にこれを上に置いてセッティングして使ってたんですけど、やっぱりエフェクトをかける時にこうやって触るので(※実際にやって頂いてます)、それがお客さん的にも視覚的にしっかり分かるのもいいなと思って、 エフェクトをかけているという感じが伝わるのが気に入ってました。
──プリセットのどのあたりを使われてましたか?
KS: いやーどこだったかな。でもディレイ系なんで10番台20番台とかが多かったか、21番、22番とか。とにかくディレイの音が凶暴ですよね。ガツッとしてパワーがあります。それが気に入ってましたけど。
──組み合わせて使った鍵盤の音はどんなものですか?
KS: やっぱりエレピが多かったです。エレピをちょっと上の方でキラキラ飛ばすときとか、ソロのときもちょっと変化をつけるために途中でこういうものを挟んだりとか、してましたね。これはやっぱり手で触ってかけてっていう、動作の面白さもあるし、その動作に対して音がすごくダイレクトに返ってくるので、そこが楽しかったです。
──KROSSシリーズはいかがですか?
KS: 元々こっち(※2013年発売のもの)を最初に買って、メインのキーボードの上にKROSSをセッティングして、パッドだったりリードだったり上物的なものを弾くのにいつも使ってました。音色の数が豊富なので、どんな現場でどんな音色を求められても、それなりに対応できるっていうのが便利なところです。
最近はこのKROSS 2をよく使ってるんですけど、ライブの現場に持って行くときにサイズ感と重さがすごくちょうどいい。現場で音を作るとかは難しいですけど、事前にしっかり準備して仕込んで持ち込むとすごく便利です。
──KROSS 2のFavoriteボタンは使われてますか?
KS: 全部使ってますね。大体バンクAにライブで使うものを入れてます。シンセ・ベースとかに太い音が結構入ってるんで、それをコード楽器代わりというか、エレピ代わりにちょっと弾いたりとか。
──エディットはどのあたりを行いますか?
KS: エフェクターもいろいろ入っているので、それをチェックして色々試しています。あとEQと、エフェクターの中にコンプ系とかも確か入っているから、そういうのも使います。僕はあまり説明書を読まないので、何度も触りながら試すんです。エレピはそのままプリセットのものを使っているやつもあったと思います。
KS: これをメインで使う場合、ピアノとかエレピをこれで出して、リードは違うキーボードでやるんですけど、キーボードを2台持って行くと現場によっては大変だったりするので、そういう時はエレピで弾いた後に、切り替えてリードにして、わーってソロ弾くみたいな使い方になってます。リードも結構パンチのある音が入っているんで、すごくコスパがいいというか。
──バンド活動でもKROSSを使われてますね?
KS: 今のメンバーになって1年半くらいになるんですけど、いわゆるバンドというよりはみんなにサポートしてもらっている立場なんですけど。ソロでやる時もあるしバンドでやる時もあるんですが、やっぱりバンドでやるのは楽しいので。
普段制作の中では色々音色を使っていて、それをいざライブで再現するという時に たくさん音色が必要になる。そういうところでKROSS 2はやっぱり便利ですね。
──今後の活動予定はいかがですか?
KS: バンドではリリースはないんですけど、ライブは随時やってます。フェスにちょこちょこ呼んでもらっているので、春夏秋ぐらいは、大体そのバンドメンバーといろんなところに行ってます。KROSS 2は飛行機とか、どの現場にも関わらず持っていくので、去年はこれを持って台湾とかタイとかにも行きましたし(笑)
microX(2006年発売)
microX(販売終了)
──こんな製品もありました。
KS: 懐かしい。石田玄紀(※Kan SanoさんのサポートメンバーでSax、Flute、ギター、キーボードなどマルチにこなすミュージシャン)にあげちゃいました。僕のは白いモデルでした(※ここでは黒を用意。カラバリは黒、白の2色)。
やっぱり2010年代ですかね、セカンドもしくはサード・キーボードとして、ライブで一時期めちゃめちゃ使ってたんですけど、音色が豊富でこれも潜ってエディットすると細かく音も作れるんで、軽いし小さいしっていうところでも気に入ってました。
──ライブで使うには鍵盤が少ないのでは?
KS: 最初はもうちょっとあればって思ってましたけど、すぐ慣れました。感覚的にはmicroKORGに近いんですけど、microKORGより音色数が多いので、もっと色んなことができるというか。
リード系かパッド系か、それかなんかちょっと欲しいみたいな時とかに出したりとか。ベンドもあってリード系は弾きやすいです。あとはエレピ系の音にディレイとかをかけたのをセットしておいて、合間にフィル的に弾いたりとか、そういうのもやってました。
KS: 今日、久々に弾いたんですけど鍵盤が通常サイズなので、microKORGよりも弾き応えがすごくありますね。このサイズだと大きめのスーツケースにギリ入るんで、ツアー行くときはこれと、例えばmicroKORGと2つをスーツケースに入れて持って行ったり、そういうことをしてました。
microSTATION(2010年発売)
microSTATION(販売終了)
──次はmicroSTATION。ミニ鍵盤61キーのワークステーションです。
KS: これを使ってた頃は、すでにmicroKORGとかmicroXとかをめちゃめちゃ使って気に入っていたので、コルグから新しいちっちゃいシンセが出るといつも気になってたんですよね。その中でこのmicroSTATIONはすごくちっちゃいなと思って。
当時買った意図としては、ちょっとしたパフォーマンスが必要になった時にあると便利かもなっていうところで、具体的に言うとラジオのプロモーションで、ちょっと1曲やってくれませんか?ということがあって、その時にスタジオに持ってくるのにちょうどよかったんです。エレピの音がいいので、そこが決め手になった気がします。
──ミニ鍵盤の弾き辛さはありましたか?
KS: 細かいアプローチというか、弾き方は難しいですけど、 歌の伴奏だったりで、シンプルに弾く分には大丈夫でしたね。ペダルも挿せるし。
MONO/POLY(1981年発売)
──これは音が出るものが用意できなくてすみません。
KS: MONO/POLYではないんですが、Polysixは実は15年くらい前に弾いたことがあって。当時レッドブル・ミュージック・アカデミーのベース・キャンプでgrooveman Spotさんがセッションの講師として来てたんですけど、彼がPolysixを持ってきたんです。僕もそれを弾かせてもらってそれを録音してトラックを作ってみたいなことをしました。その時、色々ないろんなビートメーカーが来ていて、みんなこれで作ってましたが、その時やっぱり音の太さにビックリして。
あとコードをメモリーする機能があって、それも面白かったんですよね。その時は2泊3日だったかな?の音楽合宿だったんですけど、その時の記憶です。もう15年前ですけど、その時すでにもうだいぶ古いものだったんで、今本当になかなか見かける機会がないです。
こういう昔のシンセに色々興味を持っていく中でMONO/POLYも知って。でもちゃんと弾いたことはなくて、見たこともほとんどない気がします。MONO/POLYもPolysixもやっぱりこの側面が木になっているんですね。microKORGとかに受け継がれている部分ですよね。