2014.04.01
世武裕子「KROME」インタビュー
フランスには何年ぐらいいらっしゃってたんですか?
だいたい4年ぐらいです。学校自体は2年だったんですけど。映画音楽の学校だったんですが、初年度は学内の試験の審査員に楽理や和声の先生ばっかりで、映画関係者がいなくてビックリしたこともありました(笑)。翌年には映画関係者の審査員が増えてすごく絶賛されて良かったんですけど(笑)。まぁでも2年目の時は若干「こういうのはみんな好きかな?」ってことも考えて書いたところもあったんですけど(笑)。1年目はトリッキーなことを書き過ぎてたんですね(笑)。
実際にはどういうことを学ぶところなんですか?
学生は譜面を書ける人が前提で、その上で映画に音楽を付けるとしたらどうするのか、っていうことを学ぶところで、例えば既に発表されている映画の音楽だけを抜き取って、そこに全然違う音楽を作曲してはめ込むっていう授業もありました。もちろんそこには映像と音との関係も踏まえた上で作曲しなくちゃいけなくて、それを先生にプレゼンするんです。それを毎週やっていましたね。学生の中には既にプロの映画音楽の作曲家になっていて、さらに勉強したいっていう人もいました。基本的に作曲専門の人が多くて、演奏する人はいなかったです。だから試験になると「ヒロコ、ちょっとピアノ・パート弾いてよ」って言われて色んな人の曲のピアノ・パートを弾きました。
ピアノは何歳ぐらいから始められたのですか?
最初はオルガンだったんですけど、それと並行してですから4歳ぐらいでした。
1日何時間ぐらい練習するんですか?
だいたい8時間ぐらい。それでも少ないほうだったと思いますよ。コンクールに出るような人たちはもっとちゃんと練習していますから。私はサボってた方ですよ(笑)。
スポ根の世界なんですね。
かも知れません。みんなそうでした。その影響もあってか、練習する時はそういうオリンピックっぽいのも好きです。誰かと話している時に「私の音楽ってオリンピックっぽいけど、オリンピックってアマチュアだよね」って言ったら「でも、プロでも行かれないようなところを突き詰める究極のアマチュアがオリンピックだよね」って。良いフレーズですよね。
今も練習はされるんですか?
します。練習が十分だとライブでガーっと弾いてもしっくりしますし、やっぱりちょっと練習してないだけでも演奏に出ますからね。ライブはお客さんに観ていただくものですから、お客さんに楽しんでいただくのが何より大事なんですが、それと演奏家としてどうだったかは、またちょっと別だったりするじゃないですか。そこのところはすごく気にしています。
じゃ、練習は毎日ですか?
基本的には毎日です。どんなに忙しくても練習する時間を作りますし、旅行に行っている時でもピアノを借りたりすることもあります。だから長期の旅行はできませんね。気が散っちゃって、観光どころじゃなくなってしまいますから…。
具体的にはどんなことを練習するんですか?
部分練習とか、あとはペダルを踏まずに弾くんです。ペダルを使うとごまかせますから。歌もそうですよね。練習の段階からリバーブ掛けなくても良いんですよね。それはライブ会場で掛ければ良いことですから。そこに持って行くためには、もうちょっとそうじゃない練習が必要ですよね。
フランスにいた時、カブリエル・ヤレドに「(僕は)自分が楽しむために音楽をやってるんじゃない」って言われたことがあるんですよ。「(君は)自分がこれを弾きたいから書いたんじゃない?」って言われて考えたんですけど、でも演奏者が楽しいと、お客さんは楽しくなりますから、そこが映画音楽を作っている時の自分と、ステージで演奏している時の自分と違っているところかも知れません。映画音楽の作曲って、自分で楽しむ音楽じゃありませんよね。でもそれはそれで私は好きなんですよ。自分の気持はまったく度外視し、自分が映画作品と一体化して音を鳴らすのも好きで、でも一方で自分の内側から込み上げてくるものをワーッと書くのも好きですから、どちらもやって行きたいですね。
映像音楽を作っている時の世武さんと、ステージで演奏している時の世武さんという2つの側面がありますが、その交点のようなものはあるのでしょうか?
ないですね。むしろ違う名義にしたほうが良いのかなって思うぐらい違います。映画音楽の時は、100%映画に尽くすことしか考えていません。自分の曲の場合は、自分が何を伝えたいかっていうことしか考えていません。そういう意味で完全に別モノですね。
ところで、先日のコルグ新製品発表会のご感想をお聞かせください。
まず、会場が元々映画館だったところでしたから、それが嬉しかったです。それと、PA環境がすごく良かったですから、演奏していて楽しかったですね。自分の弾いていることが、できるだけそのままの状態でお客さんに伝わること、それはとても大事ですから。それが分かるだけでもこちらのテンションはかなり上がりますし、そういう意味でも良かったですね。
その時もそうでしたが、世武さんのピアノ・プレイは、マシーンのようなと言いますか、ちょっと真似してみようとしてもどうしても無理だ!って思ってしまうほどの超絶技巧ですよね。
そうですか?ただレコーディングしてみると、自分のグルーブがおかしいのか何なのか、その原因はまだよく分かっていないんですけど、例えばクリックを使ってレコーディングするじゃないですか、そうすると私のグルーブ感がかなり狂ってしまって、一見私の演奏ってクリックに合いそうに見えるんですけど、私が全然合わなくて…。
意外ですね!
でもそうなんですよ。で、クリックがないとちゃんとメカニカルなフレーズもスラスラっと弾けちゃうんですよね、自分でもよく分からないんですけど(笑)。
何かに合わせようとすると…。
ダメみたいですね(笑)。クリックがあると、音楽を支配しているのがクリックになっちゃうんです。クリックを大前提に音楽が進行していくような。逆にそれがないと「わー!楽しい!」で音楽を進められますから、クリックがあるとその「楽しい!」がなくなっちゃうんですよ。だからライブはクリックがなくて嬉しいですね(笑)。
コピーできないですよね。ペダルは使えませんし…。
コピーして欲しいです!でも譜面がない(笑)。耳コピしてください(笑)。自分でもちょっと頑張らないと弾けない曲が好きだったりしますから、どんどんエスカレートしちゃいますね(笑)。
しかもダイナミクスも凄いですし。
それはありますね。
キーボードですとダイナミクスの付き方で好みが分かれたりすることもありますよね?
それは本当にそうです。そこはある意味で一番大切な部分ですね。