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2014.04.01

世武裕子「KROME」インタビュー

 

映画館で映画音楽に目覚め、パリに映画音楽を学び、帰国後は映画のみならず、CMや映像音楽も多数手掛けている作曲家/ピアニストの世武裕子。
超絶技巧の演奏テクニックと類まれなる作曲能力により、活動のフィールドは映像音楽に留まらず、自身の音楽作品も次々とリリース、そして烈火のごとく激しい楽曲や美しく澄んだ楽曲など常にカラフルなステージを展開。そんな彼女が手にした1台がKROMEだ。
「KROMEでライブ・アレンジの幅が広がった」と言う彼女の音楽観などを伺ってみた。

掲載日:2012年11月14日

ストラヴィンスキーやプーランクがお好きなんですね?

そうなんですよ、昔から。

いわゆる音楽一家のようなご家庭だったんでしょうか?

全然そんな一家じゃなくて、どちらかと言うと無趣味な家で、音楽はほとんど誰もやっていませんでしたし、聴いてもいないような家でした。

でも、そうした環境でどうしてストラヴィンスキーなどを知ったのでしょうか?

それはピアノを習い始めてからですね。

先日のライブ(*1)で演奏された「伝説のトリプルプレイ」のコードとか、響きの感じにストラヴィンスキーやコープランド(*2)のような香りを感じまして…今、そういう和声使ってる人少ないですよ。

少ないんですか?(笑)

(*1)先日のライブ:2012年9月に開催されたコルグ/KID新製品発表会で行われた世武裕子ライブ。この時、世武さんはKROME(88鍵モデル)を駆使した超絶技巧の演奏を服部正嗣氏(Dr)とデュオで披露し、観衆を大いに沸かせました。
動画Part1
動画Part2

(*2)コープランド:アメリカの作曲家。アメリカの古謡をベースにした、親しみやすい「アメリカ音楽」を創作したことで有名。バレエ音楽『ビリー・ザ・キッド』『ロデオ』『アパラチアの春』や、「市民のためのファンファーレ」(EL&Pによるカバーも有名)など代表曲多数。

いわゆる擬古典主義的な響きの感じですよね。

そうですね、そこのギリギリのところが好きです。この辺の響きが流行ると面白いですね。

特にキーボードの人には弾いて楽しい響きかも知れませんよね。

それはそうかも知れません。色々なものがあるっていうことが良いと思うんですよ。

話しは前後しますが、その後ジョン・ウィリアムズ(*3)の音楽に。

好きですね~。映画館に観に行きまして、あのブワーッと広がる音楽を聴いた瞬間に「天才や!」って思いました。

(*3)ジョン・ウィリアムズ:アメリカの作曲家/指揮者。特に映画音楽では膨大な作品を残し、中でもスピルバーグ作品での音楽で有名。また、1984年のロサンゼルス・オリンピック以降、米国で開催のオリンピック(1996年アトランタ、2002年ソルトレイクシティ)のテーマ曲も作曲。1980~1993年にはボストン・ポップス・オーケストラの指揮者を務め、退任後に名誉指揮者となる。近年では映画『ハリー・ポッター』シリーズのテーマ曲を作曲。

あの左右いっぱいにバーン!って広がるオーケストレーションですね。

そうそう、そうです(笑)。すごく好きですね。

すごく独特ですよね。

あの人みたいに才能を持っている人ってなかなか映画界でも出てこないじゃないですか、あそこまでできる人って。

そのジョン・ウィリアムズの音楽に触れて、「私も映画音楽の作曲家になろう!」って思われたのですね?

ジョン・ウィリアムズはかなりコマーシャルな人だと思うんですけど、そういう音楽を聴いた時に感動する部分と、ストラヴィンスキーなどを聴いた時に感動する部分は、私の中では実はあんまり変わらないんですよ。何て言うか、すごく絶妙なバランスなんですよね。そのバランス感が私はすごく好きです。そこをバランスできる人って、とても自由というか、どこへでも泳いでいけるんですよね。

その時に映画音楽の作曲家を目指そうと思われたのですね?

ジョン・ウィリアムズのような音楽が書けたら素晴らしいんですけど、でもどちらかと言うと映画が好きですから、最初は映画監督になりたかったんです。

えっ?そうなんですか!

音楽はそれまで何となく「やらされていた」感があって、小さい頃から音楽があった所為で友だちとも遊べないし、何もできませんから、どちらかというと恨んでいたぐらいだったんですよ(笑)。そんな中で映画っていうのは、全然そういうポジションじゃなくて、「これは純粋に楽しんで良いものだ」っていうのがあって、それで何かしら映画に関わる仕事に就きたいと。その流れで監督になりたいって、当時思ったんです。

その頃はどんな映画をご覧になっていたんですか?

最初はほとんどアメリカ映画ばっかりでしたけど、高校生の頃から結構単館系の映画も観るようになって、フランス映画とかヨーロッパの映画とか、あとはアメリカのインディーズの映画とかを観るようになりました。

フランス映画というとやっぱり50~60年代のですか?

ヌーベルバーグとかクラシックも観ていましたけど、どっちかと言うとその時に新しかった作品が中心でしたね。音楽でもそうなんですけど、いわゆるクラシックよりも自分の生活にちょっと近いところにある映画とか音楽とかが好きなんです。

その辺は世武さんのPVにも反映されているような気がしますね、色調とか…。

そうかも知れませんね。あれは友だちで若手の映画監督の人に撮ってもらって、そういうコラボレーションをずっとできたら良いなって思っています。

撮影はフランスですか?

「75002」(*4)がフランス撮影です。「リリー」は如何に日本ぽさを排除するかを狙っていました。

(*4)「75002」:2012年6月発売のアルバム『アデュー世界戦争』に収録。

自転車のシーンが印象的ですよね。

ものすごく色んな人に見られました(笑)。前走しているトラックから撮っているんですが、そこからスピーカーでガンガンに曲を流して、それに合わせて歌いながら自転車で走るんですよ、パリ中心部の道の真ん中を。

映画を縦軸に色んな職の可能性を求めて行かれたんですが、やっぱり音楽の道に進まれるわけですね。

結果的にはそうですね。小さい頃からコンクールなどにずっと出ていて、色々大変で辛いんですけど、でも人前で演奏するのが好きなんですよね、私。映画音楽をやりたいって思った頃も、そこが私のバランスで、作曲もしながらステージで演奏することもないとダメなんです。将来は作曲だけになるのかも知れませんけれど、今はそれと並行してステージから音楽を届けたい、自分で表現したいっていうのがありますね。

その後フランスへ留学されますが、その経緯は?

日本のコンクールは「ちゃんと譜面通りに弾けているか」がすごく重視されているような感じがしたんです。ですから私みたいなタイプは絶対に2位タイプなんです。評価はされますが優等生タイプじゃないから、1位ではない(笑)。そのことを自分でもよく分かっていましたから、日本で学ぶよりも海外に行ったほうが良いんじゃないかって思ったんです。その間に映画『ベティ・ブルー』を観て、ヤレド(*5)の音楽に感動しまして、先生も薦めるフランスの学校(*6)に行くことに決めました。

(*5)ヤレド:ガブリエル・ヤレド。レバノン出身のフランスの作曲家。ブラジルの歌曲コンクールで優勝後、数々のフランスを代表する歌手のレコーディングに携わる。1970年代後半にゴダールの映画『勝手に逃げろ/人生』で映画音楽の世界に入り、以降映画音楽の作曲家として活躍。『ベティ・ブルー』の音楽で世界的作曲家に。映画音楽の他にもバレエ音楽なども手掛ける。

(*6)フランスの学校:パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科

留学中はオーケストラ曲も書かれていたんですよね?

そうです。とりあえず(各楽器の)特色だけ教えてもらって、あとは自分で書く感じで。譜面は留学する前からずっと書いていましたから、書くこと自体はその延長線上で、っていう感じでしたね。

オーケストラ曲になると和声学とか難しい世界があるんですよね?

ところがそこはあんまり何も感じなかったなぁ(笑)。

じゃ、わりとスイスイっと書けちゃうタイプなんですね。

そうかも知れません。昔からオーケストラの譜面を読むのは趣味だったんです。だから、だいたいどういう感じになっているかっていうことは分かってたんですね。

例えば作曲される時に煮詰まってしまうこととかはないんですか?

以前はほとんどありませんでしたけど、最近の方がありますね。今はやっぱりお客さんがいると思って書いていますから、「あ、ここはもうちょっと伝わりやすくしておきたいな」とかそういうことを考えるようになりました。

「分かりやすさ」みたいなものを音に落し込むのは、本当に難しいですからね。

そうですね。特に最近は歌を書いていると、どうしてもポップスというフィールドがあって成り立っている世界だっていう自覚が必要なんです。それがあってから曲を書かないと、「私は私だから」っていういわゆる研究者的な感覚でやっていると良くない。自分ではそこの商業的な部分と芸術的な部分の良いバランスを持っていると思っているので、それをいかに入口としてお客さんに伝えることができるか、っていうところで悩むことはあります。

歌を書くのは本当に難しいですよね。

歌を書く時は、自分が好きな曲は例えばなんで自分がフワーっとした気持ちになって好きなのか?っていうことを考えて、なるべくみんながその気持ちになりそうな雰囲気を大事にして書くというか、そういうのは大事にしてます。ただ、アレンジのところは自分らしさを貫きたいですから、土台をちゃんと分かりやすくして、細かいところは自分らしくやろうと。

そこの切り分けも含めて「バランス」っていうことですね?

そうですね。

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