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2017.06.16

D.A.N.「minilogue」インタビュー Powered by CINRA.NET

具体的に書き出したビジョンを、ここまで叶えてきた

もちろん、D.A.N.の高い音楽性が評価されたことは大前提としてあるにせよ、彼らが素晴らしい人たちに恵まれ、素晴らしい環境で音源制作やライブ活動ができているのはなぜでしょうか。高校時代のバンド活動と今とではなにが違うと、本人たちは意識しているのでしょうか。

川上 :ひとつは、3人編成になってすぐ、これからの予定をめっちゃ細かく立てたことだと思います。「いつまでに、こういう人に出会って、こういうリリースをする。そうしたらきっと、『FUJI ROCK』のROOKIE A GO-GOに出られる。そして、ここまでには、恵比寿LIQUIRDROOMでライブをやる」みたいな。具体的なビジョンを紙に書き出し、そこに向かうまでの道筋を三人でかなり考えました。

時間もなかったし、親に対しても、「こういうビジョンがあって、音楽でやっていきたいんだ」っていうのを見せないと、なかなか納得してもらえなかったので。しかも書き出したものに関しては、ROOKIE A GO-GOの出演にしろ、LIQUIDROOMのワンマンにしろ、叶えることができました。それは自分たちの自信につながっています。

 

櫻木の作業卓には、恵比寿LIQUIDROOMのステッカーが貼られている



2014年、自主制作でリリースした100枚限定の音源『D.A.N. ZINE』は、CDと手製のZINEを組み合わせたものでした(既に完売)。作品の届け方、自分たちの見せ方に対しても、「他のバンドとは違うものしよう」という意識が強く感じられます。

川上 :まさにそのつもりでやっていました。まだD.A.N.のことを誰も知らない時期だったので、どう自分たちを見せるか、どういう姿勢でやっているかというのを、ZINEとCDを組み合わせることによって「世界観」として打ち出したかったんです。それに、音源そのものがファイル化され実体がなくなりつつある今だからこそ、「いかにモノとしての価値をつけるか?」ということも考えましたね。

 

部屋のインテリアからも、「モノ」へのこだわりが感じられる



1曲10分以上の曲を作り出してしまった理由とは

さて、そんな彼らの、前作からおよそ1年ぶりとなる新作『TEMPEST』がリリースされます。タイトル曲のエディットバージョンを含む4曲入りのミニアルバムで、1stアルバム『D.A.N.』をよりミニマルに研ぎ澄ましたような、アブストラクトかつドープな仕上がりです。

櫻木 :先行リリースした“SSWB”は、リズムは抑揚を抑えてキープさせたまま、そのうえに山下達郎さんのようにポップなメロディーを乗せたものが作りたかったんです。そういうバランスの音楽ってあまりないのかなと思って。

 


 
櫻木 :2曲目“Shadows”はブレイクビーツを下敷きに、僕がいろんなノイズを足して「SFっぽさ」を意識してみました。タイトルにもなった“Tempest”は……形容しがたい楽曲に仕上がりましたね。でも、そこが気に入ってます。異国感というか、「ここはどこなんだろう」みたいな雰囲気になったなって。

市川 :“Tempest”は、いろんなアレンジを試していくうちに、どんどん長くなっていって。音数自体はどんどん減っていって、ファーストよりミニマルになったからこそ、10分以上の長い尺になったような気がします。

ファーストは、精神性こそミニマルだったんですけど、音的には結構レイヤーしているし、展開も複雑に変わっていくアルバムだったんですよね。今回は、聴いていると、だんだん時間感覚すらわからなくなってくるようなミニマルミュージックに仕上がったと思います。


 

D.A.N.『TEMPEST』ジャケット( Amazonで見る



 
櫻木 :どの曲も一貫して、「よりシンプルにしたい」という気持ちがありました。今回、ミックスにAOKI takamasaさんが入ってくれたことで、音響的にも立体感が加わり、バンドの生々しさを抽出してくれて。レコーディングエンジニアは早乙女正雄さんなんですけど、ドラムとベースの骨格がものすごくリッチで。余計なことをしなくても、素材を並べただけで存在感たっぷりに録ってくれたんですよね。

D.A.N.って、ヒップホップやテクノ、R&Bなど様々な電子音楽に影響を受けていて、そこに「バンド」というフォーマットを使ってアプローチしていくやり方なんですね。一方、AOKIさんは「テクノ畑」の人なので、その視点からバンドサウンドを構築してくれてる。お互い、まったく反対の立場からクロスオーバーしているからこそ、より面白い音楽になったんじゃないかなと思います。


 



次の夢は「海外」。歌詞は、英語か日本語、どちらを選ぶ?

『TEMPEST』は、ボーカルもソウルフルで官能的。音数が少なくミニマルなトラックになったからこそ、そこに絡みつく歌声の存在感もより大きくなっているのが印象的でした。歌詞は繊細かつリリカルな言葉が並び、まるで映画のストーリーが描写されているかのようです。

櫻木 :確かに、ボーカルは官能的というか、エロい感じにしたくて(笑)。そこは目指したところです。歌詞については、実は今回唯一プレッシャーを感じたんですよ。音に関しては絶対的な自信があるんですけど、歌詞は前作を出してから予想以上に褒められてしまった分、「次はどうしよう」と思って。

好きなのはKIRINJIやスピッツ、宇多田ヒカルさんの歌詞です。スピッツは、小中学生の頃によく聴いていたんですけど、今聴き返すと、本当にすごいなって。抽象的なんだけど、鋭い言葉も優しい言葉もあって、1曲のなかにいろんな要素や感情が同居しているんですよね。

 

壁に貼られている写真



 
これまで、自分たちが描いた理想のビジョンを実現してきたD.A.N.。今後はどのような展望を抱いているのでしょうか。

櫻木 :近いところでいうと、海外でリリースをして、ライブをすること。いろんなところへ行ってみたいですね。でも歌詞に関しては、ずっと日本語で歌っていきたい。やっぱり自分が日々使う言葉で歌うのがナチュラルだし、一番感情が入り込めると思うので。

川上 : 変に海外に寄せても、多分意味ないと思う。自分たちが一番純度の高いと思うものを作り続けたいですね。

櫻木 :うん。今後も変わらず、自分たちがやりたい音楽、聴きたい音楽を作り続けると思います。

市川 : そうだね。そのうえで、有無を言わせないような圧倒的なライブがやりたいです。