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2018.07.11

CRCK/LCKS「Grandstage & microKORG XL+」インタビュー Powered by CINRA.NET

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.37 Powered by CINRA.NET
CRCK/LCKS、誰もが認める「超絶テクバンド」の制作スタジオへ

インタビュー・テキスト: 黒田隆憲  撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
 


ジャズシーンを中心に活躍中の錚々たるメンバーが集まった5人組バンド、CRCK/LCKS(クラックラックス)。変拍子やポリリズムを導入した超絶的なアンサンブルの上に、とびきりポップなメロディーが乗った不思議なサウンドは、一度聴いたら病みつきになること必至。すでにリリースされている2枚のミニアルバム『CRCK/LCKS』『Lighter』はジャズ界のみならず、J-POPやインディロックシーンでも熱い注目を集めています。

現在は3枚目のミニアルバムをレコーディング中で、早くも新境地へ向かいつつあるという彼ら。その創造力は一体どこから生まれているのでしょうか。バンドの中心人物である小田朋美さん、小西遼さんに話を聞きました。

こちらの記事はCINRA.NETでもお読み頂くことができます。

CRCK/LCKS(くらっくらっくす)

2015年初頭にアメリカへの音楽留学から帰ってきた小西遼を中心に同年4月に結成。2015年6月より都内のライブハウスを中心にライブ活動を展開する。2016年に4月に1stEP『CRCK/LCKS』をリリース。斬新かつポップなサウンドで多くの音楽ファンやミュージシャン、音楽業界関係者から注目をされる。メンバーは自身のラージアンサンブル象眠舎の活動や挟間美帆との共演、あっこゴリラや韻シストのライブサポートなど多彩な活動で注目される小西遼。DC/PRGの活動やceroのサポート参加、ASA-CHANG&巡礼との共演にTVドラマやCMへの楽曲提供など多方面の活動を行う音楽家小田朋美。自身のリーダーアルバムを3枚発表しジャズシーンにおいて若手ナンバー1ギタリストとの呼び声も高い井上銘。くるりをはじめ様々なミュージシャンのライブサポートやアルバム参加で音楽ファンから熱い注目を集めるドラマー石若駿。2017年3月より、Shunské G & The Peasでの活動や菅田将暉、大比良瑞希のサポートとしても活躍する人気ベーシスト越智俊介が加入。2017年7月5日 2nd EPとなる『Lighter』をリリース。2017年8月20日『SUMMER SONIC 2017』出演。2018年2月からアイドルグループNegiccoの『SPRING 2018 TOUR~あなたの街に花束を~』にてライブサポートとして参加(2月25日梅田クアトロ、3月18日恵比寿リキッドルーム)。

2人の真逆な幼少期ーー親がピアノの先生だった小田と、アウトドア少年だった小西
 

母親がピアノ教室の先生をしていたこともあり、幼少期からピアノを習っていたという小田朋美さん。クラシック音楽に慣れ親しみ、バッハが好きだったそうですが、いつしか譜面どおりに演奏することよりも「作曲家になりたい」という気持ちのほうが強くなっていきました。一方、小西遼さんはボーイスカウトに参加するほどアウトドアが大好きな少年で、ピアノを習い始めたのは小学校6年生と割と遅いスタートでした。

小田(Vo,Key) :クラシックピアノを習いつつ、テレビから流れてくるJ-POPも聴いてましたね。「クラシック至上主義」みたいなものは全然なかったし、中学の頃はカラオケで歌うのが大好きでした。大学では作曲科を専攻したのですが、途中から「やっぱり歌いたい」と思って、在学中からライブハウスで歌っていたんです。

 

小田朋美



小西(Sax,Vocoder,Synth,etc) :小学生の頃は、2週間くらい家に帰らずキャンプに行ったり、パイロットになりたくて「宇宙航空青少年団」というパイロット育成団体に入ったりしてました(笑)。そのくせ、あまり集団行動は得意じゃなかったんですよね。

ある日、学校の音楽の時間に、隣の席のやつが手元を見ずにピアノを弾いているのを見て「あ、かっこいい」と思ったんです。それで母親に頼み込んで、ピアノ教室に入らせてもらいました。当時は水泳、塾、ボーイスカウト、そして「宇宙航空青少年団」に入っていたので、「どれか1つ辞めなさい」と言われて「宇宙航空青少年団」を辞めました。高いところが嫌いだからパイロットは無理だな、と(笑)。

 

小西遼



一方で小西は、ジャズも否定するほどの「クラシック至上主義」に傾倒していく
 

とにかく、好きになったものはとことん追求しないと気が済まない小西さん。クラシックピアノを習ううちに、小田さんとは逆に「クラシック至上主義」だった時期もあったそうです。

小西 :実は小学校のときの隣のクラスの担任が、平原綾香さんのお母さんだったんです。つまり旦那さんは有名なサックス奏者、平原まことさん。それもあって、学校にサックスとかを持ってきて、全校生徒に演奏してくれたりして。それを聴いて、「サックスかっこいい」と思って吹奏楽部に入り、“ルパン三世のテーマ”とかを演奏しているうちにジャズが大好きになってました(笑)。

最初はジャズとかもバカにしてたんですよ。親父からは「サックスやってるならジャズも聴け」と言われてチャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンを教えてもらっても、「こんなテキトーに演奏してる音楽なんか聴けねえ」とか思って(笑)。

でも結局、中学からスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)やPE'Zにハマって練習しまくりましたね。高校に上がった頃にはもう、自分で曲を作ったりライブハウスのジャズセッションに参加したりして。その縁で仕事をもらうようになり、高校の頃からレストランで演奏していました。

 

新作のレコーディングスタジオにて



小田 :クラシック至上主義ではなかったと言いながら矛盾するのですが、私は小さい頃、作曲家が世界で一番偉いと思っていたんです。「バッハやベートーヴェンの曲が、今も残っているなんてヤバイ!」って(笑)。

同じ芸術でも、たとえば絵画だったら、作品が残ったとしてもそれ1点だけじゃないですか。音楽は、「楽譜」というメディアを使っていろんな人が歌ったり演奏したり、そこでまたさまざまな形に変化して受け継がれていく。それを考えると、「音楽を作る」ってすごいことだなあと思ったんです。だから、作曲のほうに気持ちが向いていったんでしょうね。理論とかを習うよりも先に、とにかく自由に弾いて、自由に作曲することが楽しかった。

小西 : へえ! 俺は完全にロジカル人間だったよ。楽典とか理論書は読みまくったし、音がわかる前にすべて理論で理解しようとしてた。本当に正反対だね(笑)。

習い始めたのが遅かったのもあって、ピアノは超真面目に最初の1年間練習はしたんですけど、そのときの先生がガチガチのクラシック出身で。絶対音感とかを叩き込まれているうちにピアノがつまらなくなってしまって、それでジャズに傾倒していったところもあったかもしれないです。

ただ、スパルタだったおかげで、3年でショパンを暗譜で弾けるようになったし、そこでベーシックな技術を身につけられたのはよかったと思っています。キャンプをやるのとかと一緒で、とにかく新しいことを覚えるのが楽しくて仕方なかったんでしょうね。坂本龍一の譜面を買ってきて、「メジャー7th、クソお洒落な響きだな!」とか興奮していましたから(笑)。

 

小田の譜面。7thコードが連なっている



「弱さ」がコンプレックスだった小田と、漫画『BLUE GIANT』のように生きてきた小西
 

高校を卒業し、小田さんは東京藝術大学作曲科へ入学、小西さんは洗足学園音楽大学に入学し、バークリー音楽大学へ留学します。音楽一辺倒の学生生活になるかと思いきや、2人ともそうはなりませんでした。

小田 :私は大学に入る前に、哲学や心理学のような、音楽とは全然違うことをやりたいと思う時期があったんです。本を読むのが好きで、遠藤周作や、彼に影響を与えたヨーロッパの文学『ボヴァリー夫人』のギュスターヴ・フローベールなどを読み耽っていました。

彼らは「人間の弱さ」を徹底的に描いているんですよね。その頃の私は、自分のことをものすごく弱い人間だと思っていて、その弱さに対する罪悪感もあった。そんな自分を許したい、肯定したいという気持ちが、哲学や心理学、遠藤周作に傾倒した理由かもしれません。たとえばCRCK/LCKSの“パパパ!”の歌詞には、その頃の心境が少し反映されているような気がします。

 

「パパパ!」



小西 :そこは俺も一緒。高校のときに演劇にハマって戯曲を読んだり、寺山修司や野田秀樹、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、つかこうへい、筒井康隆の本を読み漁ったりしてた。それで「俺は、音楽がやりたいんじゃないんだ。自己表現がしたくて、そのためのツールとして音楽が必要だったんだ」と、高校時代に気づいたんです。

だったらなにかひとつ、人より秀でたものが必要だなと。でも日本の大学にいると自分が1番のサックス奏者だと思い上がってたところ、バークリーに行ったら、自分より上手いやつらがたくさんいて。「これは、サックス1本でやっていくのは無理だな」と思い知らされましたね。だからサックスを極めつつも、作曲や編曲などマルチでできるよう、全体的な基礎力を高めることにしたんです。

 



小田 :私も芸大に入って、短期留学したときとかに、めちゃくちゃすごい演奏家を目の当たりにしたんですよ。「譜面なんて関係ない」みたいな演奏を見て、楽譜の有効性に限界を感じてしまったというか。楽譜どおりに弾けただけでは全然ダメだとわかったし、人そのものが持っているエネルギーに惹かれるようになっていったんです。 なんていうんだろう……自分自身が「詩」になりたいというか。音楽だけじゃなくてインスタレーション的なことや、美術の世界に足を踏み込んだり、ダンスの人とコラボしたり。「タレントになりたい」というのとも違うんですけど、私そのものが「媒体」になりたいなと。でも、そのためには小西と同じで、なにかひとつ極めるのが必要で、私にとってそれはピアノや歌、作曲なんだろうなと思ったんです。

2人とも、一流が集まる環境に身を置いたからこそ、自分が目指すべき道を明確にイメージできるようになったのかもしれません。

 

マルチに活動する2人にとって「CRCK/LCKS」はどういう存在なのか?

 

 

 


小田朋美さん、小西遼さんを中心に5人組バンドCRCK/LCKSが結成されたのは2015年5月。当初は、菊地成孔さん主催のイベント『モダンジャズディスコティーク新宿』に出演するためのスペシャルバンドだったはずでしたが、意気投合しパーマネントバンドになりました。その頃すでに小田さんは、菊地さん率いるDC/PRGの正式メンバーであり、彼のプロデュースによる傑作ソロアルバム『シャーマン狩り』(2013年)をリリースするなど、各方面より注目を集める存在。小西さんも、自身の象眠舎(旧:小西遼ラージアンサンブル)を中心に精力的な活動を展開していました。そんな2人にとって、CRCK/LCKSはどんな存在なのでしょうか。

小田 :私はソロでやっていることも、CRCK/LCKSでやっていることも、ceroなどのサポートでやっていることも、みんな繋がっている気がします。このバンドのメンバーはみんな、音楽やりすぎ、活動しすぎな人たちばかりで、「音楽ビッチ」だと思うんですよ(笑)。でもそれはすべて流動体というか、緩やかに繋がっていて、やればやるほどすべての活動にいい作用を及ぼすと信じているからなんですよね。

 

CRCK/LCKS。左から:井上銘、石若駿、小西遼、小田朋美、越智俊介



小西 :僕は、曲を作るときは完全に「あて書き」です。「CRCK/LCKSにこんな演奏をしてもらいたい」みたいな感じで曲を作っていきます。だから、必要がないときに曲を書きためることもあまりなくて、曲のストックもほとんどない。時々、ベロベロに酔っ払って録音テープを回しておいて、どんな曲ができるのか試してみたりするけど、それは余興の範囲(笑)。

小田 : 芸大時代、近藤譲さんという現代音楽家のレッスンを受けていたことがあるんですけど、彼のやっている音楽は、まるで針の穴に糸を通すような、ものすごくストイックでマニアックなもので。なのに、いや、だからこそというか、聴いている音楽の幅広さ、持っている情報量がハンパないんです。全方位に興味が向いていて、それぞれに造詣が深いというか。私もそういうふうになりたいんですよね。なので様々な活動を通して、自分という「媒体」の純度を高めたいです。

 

「Get Lighter」

 


CRCK/LCKSはメンバー全員が曲を書けるバンドですが、基本的には小西さんと小田さんがイニシアチブを取っています。まずは2人でアイデアを出し合い、ある程度形になったものをメンバー全員でスタジオに入り、発展させていきます。これまでにリリースされた2枚のミニアルバム『CRCK/LCKS』と『Lighter』は、ほとんどが譜面でのやり取りだったのですが、現在レコーディング中で夏にリリース予定の新作からは、DAW(デジタルオーディオワークステーション。音楽制作ソフトウェア)を使った制作スタイルを導入。DAWでファイルのやり取りをするようになってから、格段に作業効率が上がりました。

小田 :ひとりでの仕事のときには使っていたものの、バンドの共同作業で使うのは初めてだったのですが、まさに「文明の利器!」って思いました(笑)。小西が作ったトラックに、私がメロディーを乗せて送り返したら、さらにまた小西がリハモしたアレンジを投げてきて……っていう感じで完成した曲も入っています。

小西 :今回の制作プロセスによって、新作は今までの2枚とはまったく違う方向に向かっていますね。

 

石若駿のドラムセット

石若駿のパーカッション

井上銘のギターレコーディングブース

CICADAやShunské G & The Peasなどのメンバーとしても活動しながら、菅田将暉のバックバンドなども務める越智俊介のベース



音楽をやっていて、どんな瞬間が一番嬉しい?
 
それにしても、様々なプロジェクトに参加しマルチな才能を発揮している小西さん、小田さん。2人はどの瞬間に一番の喜びを見出しているのでしょうか。


小西 :やっぱり、創作のプロセスにいるときが一番楽しいですね。演奏しているときも楽しいけど、それとはまた別のベクトルの楽しさがあります。

CRCK/LCKSの“Goodbye Girl”という曲で、最初のミュージックビデオを作ったときも、もうずっと楽しくて仕方なかった(笑)。撮影監督のアシスタントの家に泊まり込んで、3人でプロットを書いて、3日くらい寝ずに作ってましたけど、全然辛くなかったんですよね。だから、俺は音楽じゃなくてもいいのかもしれない。「作る」っていうプロセスだったらなんでも。

 

「Goodbye Girl」



小田 :私もやっぱり、曲を作っているときかな。自分のなかにあるものを表現したいっていう気持ちは確かにあるんだけど、さっき「媒体」になりたいと言ったように、結果的に「いい曲」が生まれるときって、あんまり自己表現とは関係ないことが多いのかも知れないです。

なにかが自分のなかに入ってきて、それを上手く外に出せたとき……自分でもよくわからないものがポコって出てきたときに、「いい曲だな」って思えるというか。『シャーマン狩り』というアルバムを出していますけど、若干シャーマンっぽいところがあるのかもしれないですね。なので、あまり制作プロセスを構築しすぎたり、「ああやりたい」「こうしたい」っていうのが前面に出すぎたりしないほうがいいのかも。

 



「超絶テクバンド」と認められた次に、CRCK/LCKSが目指すものとは

先ほども少し話が出たように、次のミニアルバムはCRCK/LCKSにとって、新たな章の幕開けとなりそうです。特に、ボーカルの聴かせ方がかなり変わったのだとか。


小田 :最近、歌に対する意識が少しずつ変わってきた気がします。「歌を聴かせないといけない」ということは、今回かなり意識していますね。CRCK/LCKSのメンバーは、楽器のことをすごくよく知っているし、考えている人たちの集まりだから、いい意味でボーカルが目立っていないバンドだったと思うんですよ。ボーカルも含めて全員が平等に鳴っているというか。その気持ちは持ったまま、これからはちゃんとボーカルが聴こえてくるバンドでありたいんです。

小西 : 僕も前作くらいから、「CRCK/LCKSは歌がちゃんと前に出てこないとダメだな」と思っていて。今作は、そこと向き合いましたね。僕らはよく「超絶テク」とか言われますけど(笑)、手数が多いから上手いわけでも、速いパッセージが弾けるから上手いわけでもなくて。シンプルなことをやっていても、かっこいい人はかっこいいし、そこを見せていきたい。

誰でも弾けそうな単純なフレーズであっても、メンバーが演奏すると断然よくなるという信頼はあるので、だったらもっとオケをシンプルにして、歌をバキッと聴かせてもいいのかなと思っているんですよね。まずは歌とメロディーが耳に飛び込んで来て、何度も聴き返すと実は演奏もヤバいことになってる、みたいな聴きごたえ(笑)。そういう作品にしたいです。