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2017.09.08

大沢伸一「MS-20 Kit」インタビュー Powered by CINRA.NET

大沢伸一が「自分の代弁者」とまで語ったbirdというシンガー
 

1996年以降、MONDO GROSSOは大沢さんのソロプロジェクトとなり、楽曲によって様々なアーティストを起用する「コラボレーションユニット」としての性格を強めていきます。同時に、他のアーティストへの楽曲提供やプロデュース、リミックスなどを積極的に行うようになりました。1999年には自身のレーベル「REALEYES」を設立し、第1号アーティストとしてbirdをプロデュースすることに。

大沢 :他のアーティストへの楽曲提供やプロデュースに関しては、あまり意識して入っていったわけではなくて。自分のそれまでのキャリアが認められ、少しずつオファーが増えていったという感じなんです。 そんななかでも、birdやMonday満ちる、wyolicaといったアーティストたちとは、まとまった仕事をする機会も多くて、「こういう見せ方をしたらいいんじゃないか?」っていうのは的確に理解していたつもりです。なかでもbirdに関しては、自分で見つけてきたアーティストという意識が強いかもしれないですね。「自分のメッセージを伝える代弁者」とも思っていました。それだけ思い入れも強いです。

 



 

大沢 :ディーヴァを見出す能力ですか? そんなのないです(笑)。たまたまなんですよ。能力というか……やっぱり僕自身の強い思い入れじゃないかな。僕の「代わりの声」みたいな思いでプロデュースしていますからね。

2003年からはMONDO GROSSOとしての活動を一旦休止し、エイベックス移籍後はSHINICHI OSAWA名義でのリリースやDJ活動を中心に行うように。海外でも精力的に活動するようになっていきます。

大沢 :個人名義になってからのほうが、海外での活動に対して意識的になったかもしれないです。そういう意味では、自分のキャリアのなかでもターニングポイントでしたね。

ただ、東京に出てきたときと一緒で、「野望」みたいなものはあまりないんですよ。自分で作ったリミックスやエディットをウェブに上げたりしているうちにネットで話題になって、いろんな人からリミックスのオファーをもらうようになったり、そのうち「KITSUNE」(フランスのインディーレコードレーベル)と付き合いができたり。好きでやっていたことが、たまたま評価されたという感じ。そういう偶然がいろいろ重なったことで、海外での活動が軌道に乗り出したんですよね。

 

KORG「volca kick」を試奏する大沢( 商品詳細 )



  「売れるために自分のやりたい音楽を捻じ曲げるな」
 

さらに、安室奈美恵、浜崎あゆみ、m-floとのコラボ、布袋寅泰、CHEMISTRYの楽曲プロデュース、小林武史とBradberry Orchestraという新ユニットを結成、最近ではアイドル私立恵比寿中学のプロデュースなど、非常に多岐にわたるジャンルの人たちとのコラボレーションを積極的に行っています。

大沢 :birdのときのように「自分自身の代弁者」という意識はないですけど、自分の引き出しのなかにあるものを使うという意味では、やっていることは何も変わらないんですよ。そこは安室奈美恵ちゃんも、birdも同じ。一方でコマーシャルなことをやったつもりもなければ、もう一方でアンダーグラウンドなことをやったつもりもないです。僕がやりたい音楽をやっているだけ。

やったことの結果がたまたま「大衆音楽」、言い換えれば「ポップス」として受け入れられたというだけの話であって。だから、Massive Attackだろうが、FKA twigsだろうが、乃木坂46だろうが、大衆に受け入れられれば、ポップスだと僕は思う。そうじゃないと、話がおかしくなっていくんですよ。「曲調がポップだからポップス」ということではないと思うんですね。

 

背もたれに説明書をつけたままなのは、大沢のこだわりなのだとか



 

大沢 :だからこそ、若いクリエーターに言いたいのは、「売れるために自分のやりたい音楽を捻じ曲げるな」ということ。たとえば音楽をやっていて、食えなくなっていったとき、一番好きな音楽に対する付き合い方が汚れていくくらいだったら、プロでやっていくことなんてやめたほうがいい。要は、「『芸術家』になる覚悟を持つ」ということなんですよ。仕事で受けたものに対しても、自分のラインは譲らない。だから、ときにはクライアントと揉めることもあります(笑)。

僕は「ええ格好しい」なんだと思います。大事なものを犠牲にして、お金の話をするのって格好が悪くて嫌なんですよ。もちろんお金は大事だし、生きていくために必要だし、背に腹はかえられぬときも多々あります。でも、肝心なところは絶対に譲らない。ちょっとしたミリ単位のことではあるんですよ、「あ、これは危ないな」と思うことは。そこで自分を曲げないようにしてきたからこそ、今の僕があるとも思う。妥協してしまうと、何より、リスナーにあっさり悟られるんですよ。

 




  「個性」とは、変えようとしても消えないもの
 

さて、そんな大沢さんがMONDO GROSSOとして約14年ぶりに作り上げた最新アルバム『何度でも新しく生まれる』は、全曲日本語ボーカル曲。満島ひかりや齋藤飛鳥(乃木坂46)をフィーチャリングするなど、意外な人選が話題となっています。

 

MONDO GROSSO『何度でも新しく生まれる』ジャケット



 

大沢 :実は、今回の人選に関して僕からの提案はほとんどなくて。大抵はスタッフのリクエストなんですよ。というのも、MONDO GROSSOの歴史がこれだけ長くなってくると、スタッフそれぞれの思い入れも強くて(笑)。今回は、そういう提案やリクエストを全て受け入れるというところから始めてみたんです。

そういうやり方をして思ったのですが、結局、「個性」みたいなものって残そうとして残るものではなく、むしろ変えようとしても消えないもの、変わらないものなのだと思うんです。「ボーカリストのセレクトなんて、最も大事な部分を人任せにしてしまって、『MONDO GROSSOらしさ』なんて残っているのだろうか?」と思う方もいるかもしれない。でも、それでも消えないものがあるのだとしたら、それが僕の個性だと思うし、本作にもそれはちゃんとあると思っています。

 



 

さらに『FUJI ROCK FESTIVAL '17』への参加も決定したMONDO GROSSO。本作の世界観を、苗場でどう再現するのでしょうか。(注:インタビューは2017年6月)

大沢 :どういうセットにするかまだ何も決めてないんですよ……ライブならではの醍醐味を出すとなると、アルバムをそのまま再現するわけにはいかないじゃないですか。まさかゲストボーカル全員を苗場に呼ぶわけにはいかないし(笑)。同期なども含めたバンド編成にはなると思いますけどね。どういう仕組みで、どんなふうに音を出すのかこれから考えなければ。とにかく、無事に終わることを祈っています(笑)。