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2016.07.15

Rei「WAVEDRUM mini & STAGEMAN 80」インタビュー Powered by CINRA.NET

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.28 Powerd by CINRA.NET
聴いた人をシビレさせるRei。4歳で渡米後、話せない苦悩を武器に

インタビュー・テキスト: 黒田隆憲  撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
 

ブルーズをルーツに、1960~70年代のロックやポップスのエッセンスをちりばめた楽曲により、熱心な音楽ファンのハートを掴んでいるシンガーソングライター、Reiさん。ペトロールズの長岡亮介さんを共同プロデューサーに迎えた1stミニアルバム『BLU』と、セルフプロデュースによる2ndミニアルバム『UNO』には、卓越したギタープレイとトリッキーかつポップな歌声&メロディーが詰め込まれており、その華奢な身体とあどけない表情からは想像もつかないほどのポテンシャルを感じさせます。しかも、23歳の女の子による等身大の視点が加わることで、全く新しいサウンドに仕上げているのが何よりの特徴と言えるでしょう。

子どものころ、英語と日本語のどちらも上手く話せず、コミュニケーションで悩んでいたという彼女は、その後どうやって道を拓き進んできたのでしょうか。『BLU』を制作した下北沢のスタジオを訪ね、その半生を振り返ってもらいました。

こちらの記事はCINRA.NETでもお読み頂くことができます。

Rei(れい)

1993年、兵庫県伊丹市生。卓越したギタープレイとボーカルをもつ、シンガーソングライター / ギタリスト。2015年2月、1stミニアルバム『BLU』をリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL '15』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015』などビッグフェスに多数出演。2015年11月、セルフプロデュースにて2ndミニアルバム『UNO』をリリース。2016年3月、インドネシア・ジャカルタで開催された『Java Jazz Festival 2016』、アメリカ・テキサスで開催された『SXSW Music Festival 2016』に出演。

|「言語と心に距離がある」という状態に悩みながら育ったRei
 
4歳でアメリカにわたり、物心がついたときにはギターを抱えていたというReiさん。女性のギタリストをテレビで見て、ギターが楽しそうなオモチャとして目に映ったのか、「あれが欲しい!」と親にねだったのが全ての始まりでした。その女性が誰だったのか、今は覚えていないそうですが、それからギターの虜となった彼女は、学校ではジャズやブルーズを演奏するバンドに所属し、放課後になるとクラシックギターの教室へ通うようになりました。

Rei :アメリカ在住のころに通っていた公立の小学校は、音楽に力を入れていて、校内でバンドを組んで、音自体をその場で選びながら奏でていく「インプロビゼーション」を学びました。「譜面に書かれた音符をどう表現するか?」を学ぶ、クラシックギターの世界とはまた違った楽しさがありましたね。「12小節でキーはこれ、リズムはシャッフルで」といった少ないルールを最初に決めてしまえば、5秒前に会った人とでも「会話」ができるというのがとにかく魅力的だったんです。私は子どものころ、日本語がマトモに話せないままアメリカに行って、小学生になると今度は英語がマトモに話せないまま日本に戻ってきてしまったので、日本語でも英語でも、中途半端にしかコミュニケーションできないのがコンプレックスだったんです。言語と心に距離があるというか。でも、音楽の中では、人と近いところで通じ合っている感触があったんですよね。

 

Rei



帰国してしばらくは、クラシックギター奏者を目指していたReiさん。しかし、中学年になり、当時通っていたインターナショナルスクールの同級生たちとバンドを組んだことで、彼女はロックに目覚めました。The BeatlesやLed Zeppelin、The Whoなどをカバーし、そこからさらに遡っていくうちに、アメリカで馴染んでいたブルーズと「再会」したのです。

Rei :The Beatlesが大好きで、ジョージ・ハリスンと仲が良かったエリック・クラプトンを知り、彼の所属していたCreamを聴いているうちに、そのルーツであるブルーズにのめり込んでいきました。当時は関西に住んでいたんですけど、ブルーズ専門のハコでライブをする機会があって。ロバート・ジョンソン(1920年代から30年代にかけて活躍したアメリカの伝説的なブルーズマン)やブラインド・ブレイク(1920年代のアメリカで活躍したブルーズギタリスト)、スキップ・ジェイムス(Creamが楽曲をカバーしたことで知られるブルーズミュージシャン)などを演奏していました。ロックバンドとはまた全然違う世界でしたし、人生の先輩方からブルーズを教えてもらったり、実践練習という感じでセッションにもたくさん参加させてもらったりして。上手い人のフレーズを盗んだりしながら勉強していきました。

 

Reiのギターとアンプ、エフェクター類

ReiのMoog「Minimoog Model D」



| ブルーズは「真っ白なTシャツ」のようなもの
 
The Beatlesをはじめとする、1960~70年代の音楽に影響を受けた音楽は世の中にたくさんあります。そんな中、Reiさんの楽曲が一線を画しているのは、その根底にブルーズを感じさせるからではないでしょうか。Reiさんは、「ブルーズやロックンロールは『フォーマット』のようなもの」と話してくれました。「古臭い音楽スタイル」としてではなく、「最もシンプルなフォーマット」としてブルーズを「活用」しているからこそ、彼女の音楽はどこまでも自由なのかもしれません。

Rei :ブルーズというのは「真っ白なTシャツ」みたいなものだと私は思うんです。その人の肌の色や顔の表情、ネイルだとか小物だとか、一人ひとりの個性が表れるし、同時に力量も試される音楽。シンプルだからこそ、どのくらい表現力やスキルがあるか、如実にわかるんです。これから歳を重ね、新しいものを吸収した自分にも、いつでもフィットしてくれるような自由度の高い音楽だと思ったので、これは突き詰めがいがあるなと思いました。

 


そんなブルーズと共に生きてきたReiさんですが、「ブルーズをやっている自分」に懐疑的になったこともあったそう。

Rei :「ブルーズは『虐げられた黒人の歌』だとわかってやってるの?」とか、「人があまりやっていないブルーズで、奇をてらっているんじゃない?」とか言われたことがあって、考え込んでいた時期がありました。でも、そこで自分自身と向き合い、改めて問いかけてみたとき、やっぱり自分はブルーズが心から好きでやっているんだと強く思えたので、ピュアな気持ちに戻っていけました。ブルーズって、すごく落ちこむようなことがあっても、それを音楽にして手放せば、明日からまた前向きになれるんだってことも伝えられる音楽だと思うんですよね。だから、「ブルーズは虐げられた黒人の音楽」というイメージを、私が払拭できたらっていう気持ちもあるんです。ジャズでもブルーズでも、ロックでもそうですけど、「こういう人が聴く音楽」っていう固定観念が作られていて、それって「もったいないな」って思うんです。みんな、もっと耳をオープンにして、自由に音楽を聴いたら、より楽しめるんじゃないかなって。もちろん、作る私たちも、もっと自由にならなきゃと思っています。