2014.04.18
小田 朋美「tinyPIANO & KingKORG」インタビュー
第3の鬼才は、シャーマン・ハンターだった。
「坂本龍一、渋谷慶一郎に続く“藝大作曲科卒の非クラシック系アーティスト”」としてすでに各方面から期待と注目を集めている小田朋美。2013年5月には二代目高橋竹山とのアルバム『彩』をリリース、11月には菊地成孔率いるDCPRG(Date Course Pentagon Royal Garden)ツアーにサポート・キーボードとして参加。その一方で詩と音楽のコラボレーション集団「VOICE SPACE」のコンポーザーとしても活躍。また12月には待望のファースト・アルバム『シャーマン狩り Go Gunning for Sharman』を発表し、その高い作曲力はもちろんのこと、際立った編曲能力にも多くのリスナーからの支持を得ている。今回は、同作品の反響や制作過程のことから音楽のこと、愛用のコルグ製品などについてお話を伺った。
アルバム『シャーマン狩り』(※1)について
2013年12月に発売となりましたアルバム『シャーマン狩り』ですが、すでに大きな反響がありますが、いかがですか?
(小田)そうですね…。「撃ち殺したいほど好きです」っていうお客さんからの声をいただいたりして(笑)嬉しい限りです。
(マネージメント阿部氏(以下阿部))全体的に過激な反響になってますね(笑)。
(小田)タイトルがタイトルだけに、過激なことを言ってくださる方もいらっしゃいますね(笑)。
※1:シャーマン
トランス状態に入って超自然的存在(霊、神霊、精霊、死霊など)と交信する現象を起こすとされる職能・人物のこと。
その『シャーマン狩り』というタイトルですが、そもそもどこから出てきたアイディアだったのでしょうか?
(小田)今回、菊地成孔さんが共同プロデュースしてくださいまして、アルバム・タイトルについてもいくつかアイディアを出していただいたんです。その中に「シャーマン暗殺」っていうのがあったんです(笑)。
やっぱり過激なんですね(笑)。
(小田)(笑)。シャーマニックと言ったら少し大げさかも知れませんけれど、私の歌に対する印象からタイトル案を出してくださったみたいです。その方向で進んでいたんですが、さすがに「暗殺」というほど過激ではないかな?ということで『シャーマン狩り』になりました。
(阿部)ある雑誌のレコード評でその仮タイトルのまま出てしまったこともあって(笑)、ちょっと大変だったんですが。その他の候補にも色々あって…。
(小田)「ファロス願望」とか(笑)。
(阿部)そっち系はホントにやめてくださいって(笑)。「暗殺」でも大丈夫かなぁ…って心配だったんですから(笑)。
(小田)「鍵盤に喰いちぎられた少年」っていうのもありましたね(笑)。多分私がずっとボーイッシュな髪型をしているところからのイメージだと思うんですけど。
通販サイトのレビュー欄に「狩られたシャーマンはどうなったのでしょうか?」という意味のコメントがありましたよ。
(小田)タイトルは狩りに行くような感じですけど、もしかしたら狩られているという含みもあるかな、とも思います。一体何がシャーマンなのかは、お聴きになったみなさんに自由に想像していただきたいですね。
その『シャーマン狩り』の収録曲ですが、デュオの曲と弦楽四重奏が入った曲が交互にありまして、ドラムが入っている曲でもドラムの音が遠くて、ドラム然としていない感じが新鮮です。
(阿部)確かにドラムのバランスとかは珍しい感じですよね。通常よりもかなり音圧を下げています。
(小田)実は私はドラムの方と一緒に演奏した経験がこれまでほとんどなくて、最初はどういうアンサンブルを作っていったら良いんだろうかと少し不安だったんです。でも、今回のアルバムのドラマー・田中教順さんとなら面白いアンサンブルが出来るという直感はありましたし、そしてその直感は当たっていていました。教順さんのリズムアプローチにはとても刺激を受けていますし、それによって私のアイディアも膨らんでいったと思います。ミックスについては、(参加ミュージシャンの)一人一人から「こういうミックスが好き」という音源を持ち寄ってもらって、その時に教順さんがアーロン・ゴールドバーグ(※2)などの音源を持ってきてくれたことも影響していると思います。
※2:アーロン・ゴールドバーグ
Aaron Goldberg。NYのジャズ・ピアニスト。数多くのセッションでNYでも最も多忙を極めるピアニストのひとり。静謐な音世界の自身のトリオとダイナミックなインタープレイ中心のOAM Trioという二面的な活動で注目を集めている。
(阿部)叩き方にしても録音の時からそういうイメージがあったんじゃないかな。
ショットのひとつひとつを抑えた感じというのもあるのですが、「間」を聴かせる部分もすごく効果的なアレンジになっていますよね。
(小田)リハを重ねる中で自然とそうなっていった感じです。「Love the world」、「鏡の中の十月」、「Angelic」のカバー3曲については、最初に教順さんにデモを聴いてもらったんですけど、もちろん(デモ)そのままのプレイということはありませんでした。今回のアルバムの楽器編成がベースレスですので、音域がある意味偏っているんですよね。そこでドラムとピアノでどういうふうに面白さを出していくかを、最初のデモを土台にどんどんアイディアを膨らませていった感じです。
そのベースがいない「重心が決まっていない」感じも今作のポイントですね。
(小田)ベースがないことで落ち着かない、安定しない感じもあるんですが、それを逆手にとりたいという気持ちが私の中にいつもあって、ベースがあればピアノはもっと自由に色んなことができるのかも知れませんが、敢えてそこへ行かずに(音楽を)拡張できる世界もあるのかな、と思っているところはあります。
アルバムの中でも曲のストーリーとしてのキメや、リズムとしてのキメのところで出てくる二度とかsus4の響きの終止していない感じ、安定していない感じが、ベースがないことですごく伝わりやすくなっている印象も受けました。そういう部分も含めて、細かいところがすごく端正に作られているので、ファースト・アルバムからこの感じですとこの先どのように進化していくのか、見当もつかないです。
(阿部)あ〜、確かにそういう感じもします。
(小田)どうなっちゃうんでしょうね(笑)。
(阿部)とりあえず新曲を書こうか(笑)。
(小田)あ、そうですね(笑)。
詩と音楽の関係
今作では宮沢賢治、寺山修司、谷川俊太郎の詩と音楽という組み合わせの曲もありますが、この流れは「VOICE SPACE」(※3)からのものということでしょうか?
(小田)そうですね。VOICE SPACE(以下、VOICE)は大学に入る前に藝大の芸術祭での公演を観て、完全にハマったんです。一目惚れですね(笑)。ほとんど『VOICEに入りたい!』というモチベーションだけで藝大に入ったようなものでした。何が面白かったのかと言いますと、まずそこも楽器編成が偏っていて、筝、尺八、鼓、バイオリン、チェロ、ピアノ、アイリッシュ・フルート、ギター、アコーディオンetc…というような謎な編成で、そこにもベースがいないんですけど(笑)。朗読や歌に始まり、決して音楽にしやすいとは言えない詩にも果敢にアプローチを試みたり、と詩と音楽のコラボレーションの可能性を探っている集団で。VOICEにはオペラ歌手をはじめとして様々な歌い手、読み手いるのですが、「私が歌という形のみで提示したらどういう形になるのかな?」という発想はずっとあって、それは今作に影響していると思います。
※3:VOICE SPACE
詩と音楽のコラボレーションの可能性を探求し、新しい日本語エンターテイメントの形を提示するパフォーマンス・グループ。東京藝術大学音楽学部の卒業生を中心とし、クラシック、邦楽、アイリッシュ音楽の演奏家、歌手、作曲家などで編成。これまでに谷川俊太郎、小室等、佐々木幹郎、二代目高橋竹山、矢野顕子、谷川賢作、覚和歌子各氏と共演。
【ウェブサイト】http://www.voicespace.jp/
(谷川)俊太郎さんの詩に賢作さんが音楽を付けた『谷川俊太郎ソング・ブック』というアルバムがあり、詩と音楽との関係では今作も同じ範囲に入るかと思いますが、こういうアプローチはもっと広まって欲しいですね。
(小田)そうですね。本当にそう思います。
アルバム『シャーマン狩り』の1曲「〔風が吹き風が吹き〕」(詩:宮沢賢治)にはカッコが付いていますが、これはどういう意味なのでしょうか?
(小田)あれは詩自体にタイトルがないんです。どうやら、書籍化する際に冒頭部分を抜き出して便宜上の題名としているようで、この曲も「タイトルなし」という意味合いでカッコを付けました。最初は「風が吹き」と呼んでいたんですけれど、勝手にタイトルとするのも良くないかなと思い、書籍の形態をなぞって、こうしました。
(阿部)カッコの形まで指定されましたよ(笑)。
(小田)亀甲括弧ですね(笑)。あの曲は元々の詩を大胆すぎるほど切り刻んでしまったので、ある人には「賢治に失礼や!」と言われましたし、やはり自分でも少し申し訳ない気持ちはありまして(笑)。それで、〔風が吹き風が吹き〕の全部を使った曲をVOICEで作っているところなんですよ。
お!それは楽しみですね!
(小田)一度作った曲のイメージを壊して作り直すのは少し大変ですが、更に大きな作品にしたいと思ってます。シャーマン狩りver.の〔風が吹き風が吹き〕に関して言えば、詩人からしてみれば「都合の良いところだけ抜き出しやがって!」と思われるかも知れませんが、歌でない部分にも詩のイメージを散りばめたつもりです。あの詩全体からインスパイアされているんだぞ!という気持ちです。
音楽ですから、言葉ですべて言い表す必要はありませんからね。
(小田)「失礼や!」と言ってくれた方は、VOICEでとてもお世話になっている佐々木幹郎さんという詩人なのですが、彼が「言葉には"音"と"意味"と"イメージ(像)"がある」と言っていたのがとても印象的で。宮沢賢治の言葉には、今はあまり使われていない、辞書を引かないと分からないような難しい言葉も結構出てくるのですが、言葉の持つ意味や音自体の面白さを表現したいのはもちろんのこと、言葉が持っている“像”の部分をどう表現するかということは常に考えています。
じゃ、今作曲中の曲もそういう感じで…。
(小田)これがもう、今日中に仕上げないといけなくて…。
じゃ、もうかなり佳境に差し掛かって…。あと少しって感じですか?
(小田)ところがそうでもなくて…(笑)。断片で出来ているのですが、これから繋げなきゃいけないんですよ。
“繋げる”の解明
“繋げる”っていうところは作業としては大変なところだったりしますか?
(小田)すごく謎な部分ですよね。人や自分の曲を分析して、「この人にはこういうクセがある」などという結果論としてのデータを抽出することはできますが、そもそも何故その発想に至ったのかというインスピレーションの根源については謎だらけだなと思います。なんで生ハムとメロンを組み合わせようと思ったんだろう?みたいな。違うか(笑)。
“繋ぎ”の部分っていうのは、すごく作者自身のパーソナルな部分だったりして、体系めいたものは見つけにくそうですよね。
(小田)「メロディが降りてきた」という言われ方がありますよね。実際私もそういう経験はありますし、といっても身体の隙間をすり抜けて記憶の断片がやってきたに過ぎないとも言えるのですが、じゃあ一体それをどうまとめて、最終的にどういう印象に落ち着かせるかという操作は別次元の難しさがあって。「みんなどうやっているんだろう?」って思います(笑)。
(笑)。逆に。
(小田)ですね(笑)。でも私の場合で言うなら、旅を計画するような気持ちで作曲していることが多いので、断片ひとつひとつを旅の出発地、経由地、目的地とイメージしていることが多いです。ベルギーへ行くんだ!と目的地が明確なときもありますし、上野駅に着いたからとりあえず福島に行ってみようかな?という行き当たりばったりの場合もありますし、交通手段で言うなら、鈍行電車で車窓を楽しみつつのんびり辿り着きたいのか、さっさと飛行機で行きたいのか、予算の都合で夜行バスなのか(笑)など…そんな感じで“繋ぐ”ということを捉えています。
なるほど。かなり色んな作曲法を勉強された方ならではの…。
(小田)いやいや、そんなことは全然なくて。大学にいる時は、正直、勉強よりカウンセリングに時間を費やしていましたし(笑)。