2014.04.01
KORG ✕ CAPCOM「monotron」インタビュー
シンセサイザーの発展とともに進化してきたもののひとつに、ゲーム・ミュージックがある。当初は比較的単純な電子回路から発生させていたものが、今や通常の音楽作品と同じように多くの人々がゲーム・ミュージックを楽しむようになり、近年では逆に黎明期の電子音むき出しのサウンドが「8ビット・サウンド」「チップチューン」として人気が高いといった状況も。今回は、日本を代表するゲーム・メーカーである株式会社カプコンでゲーム・ミュージックの制作を担当する北川保昌氏(写真左)、青木征洋氏(写真右)にお話を伺った。実はお二人ともコルグ製品の愛用者であるとか。
掲載日:2013年2月28日
カプコンサウンドチームの公式WEB「CAP'STONE」では、今回のインタビューの連動記事が掲載中!しかもmonotronが実際にゲーム・ミュージック内で使われている様子が動画でご覧頂けます!「CAP'STONE」も必ずチェック!
お二人の自己紹介をお願いします。
北川保昌(以下:北川):ゲーム・コンポーザーをしています北川です。曲を作るところから、ゲームに実装して「こういうふうに鳴らしてね」っていうところまでを担当しています。これまで担当しましたタイトルは『TATSUNOKO vs. CAPCOM ULTIMATE ALL-STARS』、『レイトン教授VS逆転裁判』などがあります。最近では『エクストルーパーズ』の音楽を全曲担当しました。
青木征洋(以下:青木):北川さんと同じく、ゲーム・コンポーザーの青木です。ゲームの作曲、ゲームに実装して演出をしていく仕事をしています。いわゆる音楽アーティストの方々と異なる点は、最終的に収録が終わってトラックダウンが終わって完成形のところまでを、1人で作業することが多いところかも知れませんね。今まで担当してきましたタイトルは『戦国BASARA3』など、入社以来「戦国BASARAシリーズ」を担当しています。最近ではiPhoneのソーシャル・ゲームで『ロックマンXover』のテーマ曲も担当しました。
ゲーム・コンポーザーになったキッカケは何ですか?
北川:小学生か中学生の頃からゲームが好きでやっていたんですが、いつしかゲームで鳴っている音楽に興味が行くようになりまして、ゲームをコンポに接続してよりハイファイな環境で聴いてみたら「こんな良い音楽なんだ!」って感じにのめり込んでいきまして、高校生ぐらいの時に音楽を作り始めたんです。その過程で「曲とはこういうものだ」というようなことを会得していって、その流れでゲーム業界へ行こうと決めました。
青木:だいたい北川さんと同じなんですけど、小さい頃にずっとゲームで遊んでいて、例えば『ロックマン』とかをずっとやっていて、その音楽が好きだったっていうことがまずひとつですね。それと小さい頃にピアノを10年ぐらいやっていまして、クラシックを聴くか、ゲームのサントラを聴くかっていうことが中学ぐらいまでずっと続いていまして、インストゥルメンタルの音楽が当たり前でボーカルものにはあまり馴染みがないという、普通のパターンとちょっと逆の音楽体験だったというのもあって、ゲームの音楽を聴いていく中で自分でも作りたいなと思うようになって、中学の終わり頃から高校にかけての頃から作曲を始めて…、気がついたら今ここにいました(笑)。
青木さんと言えばギターのイメージですが、ギターはいつぐらいから始められたんですか?
北川:ん~、例えば「楽器ができる」と言えるボーダーラインを、「ギターだけで1曲弾ける」という辺りだとした場合、僕は全くできないんですよ。
え!そうなんですか!
北川:まぁギターもチョロっとは弾くんですけど、そういうところはパソコンの力を借りてちょっとずつ録っていってつなげていくんです。そういう意味では楽器はできませんね。珍しいパターンだと思うんですけど、逆に「楽器ができなくても音楽が作れるぜ!」っていうところをむしろ推していきたいぐらいですね(笑)。
北川さんは「音楽の原体験」的な部分はゲーム音楽なのでしょうか?
北川:そうですね。ファミコンとか、今でいうチップチューンとか、8ビットの音楽が原点ですね。あと、アーケード・ゲームの音だとか、ホントにそういうところですね。ピアノとかではないですね。
『エクストルーパーズ』の音楽ではmonotronを活用されたとのことですが、まずは『エクストルーパーズ』についてご紹介いただけますか?
北川:まずゲームの特徴としましては、アニメっぽいキャラクターがゲームの中で、あたかもマンガを読んでいるかのような感じでプレイできたり、ストーリーを見ることができたり、かつそのプレイヤーを気持よく爽快に動かせることができて、ストーリーを進めていくことができるっていうゲームですね。「マンガチック爽快アクション」というコンセプトで、意味的には「マンガチックで爽快なアクション」ゲーム…、そのままですね(笑)。
効果音が文字でも画面に出てくる感じとかが新しいですね。
北川:そうですね。まさにマンガを読んでいるような感覚で。実際にそういうことを意識して絵も作ってありますね。
これまでのゲームにはなかった感じがしますよね。
北川:そうですね。同様に音楽もこれまでの既成概念にとらわれずに作ろうということを大切にしましたね。
その音楽ですが、特にこだわった部分はどういったところでしょうか?
北川:こだわった部分がすごく多かったので、なかなかピンポイントで挙げにくいんですけど、全体的にシンセを多用したクラブ・ミュージックにするという点は、ゲームのいかなる場面でも共通して制作しましたし、プレイヤーが常に気持よくゲームができるようなノリの良い音楽を目指しました。それと、ボーカル曲も入れて、物語が盛り上がるところではそのボーカル曲を流して、ゲームの世界観を盛り上げるというか、プレイヤーの気分も盛り上げていく、っていうところが一番こだわった大きなところですね。
ゲームの中で、楽曲のピッチがどんどん上がっていく場面とか、室内と屋外で同じ曲でも音質が変化したりとか、音と映像の一体感がすごく気持ち良いですね。
北川:そうですね、場面展開に応じて音楽の音質とか音楽的な展開とかをリアルタイムで変えることによって、プレイヤーの没入感をさらに盛り上げていくところもすごく重視して作りましたね。このタイトルに関しては、そういう部分がかなりたくさんありました。
他のゲームタイトルと比べてもそういう「音の演出」的な部分が多かったのでしょうか?
北川:多かったですし、よりオリジナリティが求められたタイトルでした。それこそ、音楽のピッチを上げていく演出なんて他ではできないようなことだと思うんですけど、こういうテクノ・ミュージックだからできたっていうところもありますね。それだけでなく、ゲーム音楽としての「禁じ手」にとらわれずに「とにかく色々やってみよう」ということでスタッフと話を進めていきましたね。
その中でmonotronはどのように活用されたのでしょうか?
北川:例えば、仲間が門を開けるなどの作業をしている間に、プレイヤーがそれを援護をするというシーンがあるんですけど、そういう場面で、仲間が攻撃されてピンチになると、それをお知らせする意味も兼ねて、それまで鳴っていた曲がmonotronを通した音になり、曲がどんどん壊れていくんです。
それはmonotronのフィルターに曲を入れて、ということですか?
北川:そうですね。もうmonotronでできる限りのことはしましたね。仲間が攻撃されるとそのモードに突入して、落ち着くとまた元の曲に戻って、というのを繰り返すんです。そういう感じで、仲間を守るシーンでmonotronをかなり使いましたね。monotronの(フィルターの)発振具合が完全に異常事態なんで(笑)、まさにうってつけでしたね「これしかない!」と思いました。
確かに危険な音がしますからね(笑)。
北川:そうですよ。もう、中域の感じも独特の凄さがありますからね。
収録はmonotronをリアルタイムで演奏してされたのでしょうか?
北川:そうです。通常の状態の音楽をmonotronに入れて、それを聴きながら何度かmonotronを演奏してみるんです。「危機感を煽るにはどんな感じが良いか?」ということを自問自答しながら。でも、黙々とひたすら演奏している途中で、「ゲーム音楽はループしてないとダメ」ということをふと思い出して…どうやってその帳尻を合わせようかと(笑)。何とかして最初の状態に戻さなくちゃいけないんですね(笑)。だから最初の状態を覚えつつ、リアルタイムで狂ったような演奏をし、また最初の状態に音質を近づけて曲をループさせる 、こういう意外なところで苦労しましたね(笑)。
実際やってみるとかなり大変な作業かと思いますが…。
北川:monotronをつないで2~3時間遊んでみたところで気がついたんですよね(笑)。
で、気づかれてからはどれぐらいの時間でOKになったんでしょうか?
北川:あ、それは10分ぐらいでした(笑)。
え!(笑)
北川:途中で気がついた、ってことにショックだったんですよね、ゲーム音楽のコンポーザーとして(笑)。
ところで、ゲーム音楽と通常の音楽タイトルの制作上の違いはどんなところにありますか?
青木:ゲーム音楽の場合、作曲以外の分野にも視野を広げておかなきゃいけない部分が大きいかも知れませんね。例えば演出のこととか、曲を収録する際には、収録の場所や方法についてとか、それに対する予算のことなど、広く色々なことを把握している必要がありますね。
それと音楽そのものについても少し違いがありまして、音楽作品の場合は音楽が主役で、音楽で世界観などを表現して完結していくと思うんですが、ゲームの場合はバックグラウンドの音楽ですから、BGMですべてを語るべきなのか、あるいはゲームのキャラクターがその世界を語るのかというように、自分が作る音楽が使われる場面で音楽が前に出るべきなのか、バックに回ったほうが良いのかを常に考えて作らないといけないという点も大きな違いですね。
映画音楽に近い感じなのでしょうか。
北川:そうですね。ストーリーのあるゲームですと徐々にストーリーが盛り上がっていって、あるところで頂点を迎えるじゃないですか。その頂点でどういうことをやるのか、っていうことを決めておいて、そこに向かって音楽を盛り上げていくとか、例えば『エクストルーパーズ』の場合、頂点はボス戦の歌ものだったりするんですね。それまではガマンの展開で、頂点に来た時のギャップで「プレイヤーの心を奪うぜ!」ぐらいの気持ちで作るわけです(笑)。それまではすごく抑えた音楽にするんです。そういう調節とか、ゲーム全体のストーリーの流れを常に考えながら音楽を作っていく、っていうところが基本的にゲーム・コンポーザーとして必要な要素ですね。
青木:楽器を弾く時の感覚もそうなんですよ。すごく分かりやすい例ですと、ゲーム音楽ではギターの速弾きができないんです。速弾きを入れるとプレイヤーの耳がどうしてもそこに行っちゃうんですよね。それが必要な場面であるならばもちろん速弾きを入れるんですけど、キャラクターがセリフを喋っているような場面では、ギター・ソロの帯域と人の声の帯域がほとんど重なっちゃうんですね。そうなると両方とも活きませんから、そういう場合はリードよりも音の厚みを支えるようにバッキングに回って、隙間を見つけて楽器が前に出てくる、という感じに曲を作るんです。ある種、インストを弾く感覚と歌ものを弾く感覚の違いにもそういうことがあるんじゃないかなって思いますね。僕の場合、基本的にメッチャ弾きたい衝動に駆られるのをどう抑えるか、ってところが勝負になりますね(笑)。
青木さんといえばPRSですが、お使いのモデルは?
青木:CE24 Mahoganyです。かれこれ8年ぐらい、改造をしながら弾いています。
ウェブのお写真などでいつも一緒に登場されていますが、PRSのどういった点がお気に入りでしょうか?
青木:ルックスです(笑)。そこに尽きますね。エレキギターでスタンダードと言えば他のブランドになると思いますけど、そのどれとも明確に違って、しかもあの美しいフォルム、それにどんなカラーも品が良いですよね。もちろん音も含めてすごく好きですが、一番好きなポイントでしたらやっぱり見た目ですね、工芸品的な感じと言いましょうか。 それに去年(2012年)「Experience PRS in Japan」(*1)に行く機会がありまして、トリのPRSバンドではあれだけのギタリストがステージにいて、あれだけの大音量だったにも関わらず、すべてクリアに聴こえてきて、音が美しいんですよね。そこに感動しました。
ポール氏自身もそこにはかなりのこだわりがあるらしく、サウンドチェックも綿密にされたそうですからね。
青木:やっぱりそうですか。
(*1)「Experience PRS in Japan」:2012年11月16~17日の2日間、SHIBUYA-AXで開催されたPRS Guitarsのイベント。内外の様々なPRS関連アーティストが共演し、ポール・リード・スミス氏率いるPaul Reed Smith Bandも出演。
(*6)フランスの学校:パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科