2014.04.01
椎名純平「SV-1」インタビュー


ビンテージ・エレピ以外ではどんな機材を?
ビンテージで言えばコルグの古いリズム・マシンですね。
コルグのリズム・マシンですか!
そうですね。KR-55ですね、アナログのプリセットだけのリズム・マシンです。一時それを使ってソロ・ライブをやっていたんです。「古いリズム・マシンを1台欲しいなぁ」って思っていたら、KR-55がある楽器店にありまして、音を聴いてみたら思いのほか良いなぁと思ってパッと買ったんです。 一方でもうひとつのビンテージ・エレピ(SV-1のReed EPとして収録されたモデル)はまたひと味違った、これこそワン・アンド・オンリーな感じがありますよね。あれの真似を上手にできているものは聴いたことがない気がしますね。共振しちゃって変な倍音を拾っちゃってるのとか、そういうのが再現される、されないの差は大きいですね。
コルグのリズム・マシンでソロ・ライブをされていた時もビンテージ・エレピで?
そうですね。ある時、海の家っぽいところで頻繁にライブをやる機会がありまして、砂浜でエレピを一人だか二人だかで運んでいた時に、「あ、ヤバい。こりゃもうやめよう」って思ったんですね。要するに楽器が傷みますし、砂浜で運ぶために人を使わせたりするのも大変ですし。それよりも大事なことがあるだろう、というところで、ビンテージ・エレピに代わる鍵盤を探し始めたんです。それが巡り巡ってコルグSV-1に辿り着いたんです。
コルグSV-1をチョイスしたのは?
意外と見た目が大きいのかもっていう気がしますね。ビンテージ・エレピにこだわっていた理由の一部は、ステージで弾いていてサマになる鍵盤かどうか、っていうところがあったと思うんですね。SV-1は、「これはピアノの代わりだから」っていう言い訳をしなくて良くなる楽器だと思うんですよ。音だけじゃなく見た目が放つ力もあるなぁと思っていたところにSV-1が出て、「あっ、これ良いんじゃないかなぁ」ということで楽器店に問い合わせたら、同じ思いの方が一杯いたようで、入荷がだいぶ先になりますって言われて。そうこうしているうちに、とある楽器店で「ありますよ」って言われて、「あ!下さい!」と即答でしたね(笑)。慌てて入手しました(笑)。
まずはルックスで…
そうですね!「これなら間違いはないんじゃないかな」っていうのを感じて…。やっぱり、見た目って必ず何かを主張しているじゃないですか。だからこういう見た目のデザインを作るのも、そのためのコストを掛けていると思うんですよね。敢えてこの形で作ったということは、絶対にメーカーの気合いが入っているんだろうなって思ったんです。「そこに間違いはないな」って思いました。
演奏された時の第一印象は?
僕、以前TR-Rackを持っていたんですけど、それのビンテージ・エレピの音と傾向が近くて、「メーカーの個性ってあるんだなぁ」っていうのが第一印象でしたね。そもそも、TR-Rackをなぜ買ったかと言いますと、当時のいわゆる音源モジュールを聴き比べた時に、エレピの音がいちばん好きだったんです。その後手放してしまったんですけど、「あ、やっぱここに戻ってきたんだ」っていう感じがすごくありましたね。
TR-Rackのエレピの音がいちばん好みのサウンドだったというのは、本物のビンテージに対してリアルだったということですか?
そうですね…、音の粒立ちがいちばんハッキリしていたっていうイメージがあって、ビンテージ・エレピの澄んでるんだけどちょっと濁っているっていう成分が出ていて…。そこがいちばん好みだったんですね。上品過ぎず、ぼやけ過ぎず、ちょうど好みの感じだったんです。こう、澄んだ音の奥底に潜む「ゴッ!」とした感じの、秘かな濁音というか。そういう感じをTR-Rackのエレピの音に感じて当時買ったんです。それがSV-1でも感じられて「ああ、やっぱそうなんだなぁ」って思ってビックリしました。だから全然抵抗なく入っていけました。スンナリと。
ステージで演奏された印象は?
まずPAの人に評判が良いですね。XLRのアウトとフォーンのアウトがあるので、「ちょっと両方試させてください」と言われて。「あ、やっぱりXLRのほうがレンジが広いんですね」っていう感想が出て、「よくできてますね」なんて話をPAの方としたりしますね。
ミキサーさんに大好評ということで…(笑)
(笑)もちろん僕らにも大好評なんですけど、他の楽器ではあまりそういうことを言われませんからね…。
演奏してみて、フィーリングなどはいかがでしたか?
SV-1は思いのほかダイナミクスを広く使えるなぁと思って。完全な弾き語りをやる時にはものすごく小さな音からスタートして、徐々にものすごく大きな音にしていく、っていうのがよくあるんですが、そういう時に「あっ、ここまでついてくるんだなぁ」ってことを、ライブでも実感していますね。「あ、これ面白いな」って。
パネルのデザインも分かりやすくなっていますから、演奏中に簡単に操作できそうですよね。
そうですね。鍵盤だけで参加するライブがあった時に、(SV-1内蔵の)ディレイを使ってみまして。例えば1拍半のディレイを掛けたりとかいう感じの遊びをしてみたんですけど、説明書を読まなくても簡単にできましたから。
3月の終わり頃(3/28)に「椎名純平 & The Soul Force」名義で行われたライブの模様をコルグMR-1000で収録されたとのことですが、いかがでしたか?
まず、解像度がスゴいなと思いました。実は、今回は時間の関係でマイクのセッティングをシビアにできなかったので、もっと良い位置にマイクをセットできてれば、もっと良い音で録れただろうと思っています。ですから、色んな状況で試したいなぁと思ったのが正直なところです。それでもビックリしたことがあって…、その時はエアーのマイクのみで録ったんですけど、楽器とか歌のレンジ感がものすごく分かるんですね。だから、会場の特性とか、(PAの)スピーカーの性能が分かっちゃうっていう感じ。「あっ、これはスゴいな」と思いましたね。録ってくれた人が少しエンジニアリングの分かる人だったんですね。その人も「これは良いですね」ってビックリしていました。改めてそのスゴさを体験しました。
しかしライブ自体も熱い、良いライブでしたね。
ありがとうございます。あのライブ以外に別の方向で考えるとすればピアニストとギタリストのデュオとか、そういうのを録ると、また良いでしょうね。今回の収録で感じたのは、PAさんの個性とか腕とかがハッキリ出そうだな、ということでしたね。テレビで言えばハイビジョンみたいな感じですかね。ですんで、色々な方向で活用したいですね。

さて話はSV-1に戻りまして、SV-1を使って良かった!と思われたことをお聞かせ下さい。
そうですね…。やっぱりそうですね、ライブの後に女の子に「あの楽器かわいいですね」って言われた時が、もうプライスレスですね(笑)。これ、極めて大事なことなんですよ。 もちろんキーボーディストの人に「良い音でしたね」って言われることももちろん嬉しいんですけどね。嬉しいんですけれど、それよりも…ってね(笑)。SV-1は既にかなり多くの人が使ってますよね、森(俊之)さんとか。「新しいものを使ってるぜ!」っていう部分…ビンテージ・エレピを使っているというのは、本人にそのつもりがなくても後ろ向きに取られかねないところがあるじゃないですか。そういうふうに捉えられがちなところで、SV-1のような最新のものを使っているということは、心持ちとしてすごく大きいですね。
これからもSV-1をライブはもちろんのこと、レコーディングでも…
そうですね。音って結局のところ結果論でしかないというか、ビンテージ・エレピだから良いとか、何だからダメとか、そういうことじゃないですものね。だから、SV-1を弾いている時に「あ、この音いいな」と思ったらその音で録っちゃえば良いんで。やっぱり、ビンテージ・エレピにしても楽器それぞれの役割みたいなところがありますから、そういう楽器の選択肢のひとつになり得ると思いますね。
今後の活動についてお聞かせ下さい。
3月のライブを終えて、今はレコーディングにシフトしています。アルバムになるのか、どういう形になるのかまだ分かりませんが、僕自身は音楽ファンとして元々アルバムという形が好きなんですね。いつも言うことなんですが、マービン・ゲイの『I Want You』(1976年)というアルバムは、アルバムとしてキッチリ構築されていて、どの曲が好きって言うんじゃなくて、その流れが好きなんです。そのアルバムを毎晩のように聴いていた時期がありまして、その影響がすごく大きくて、常にアルバムをトータルのパッケージとしてやりたいなぁっていうのがあるんですね。個々の楽曲はもちろんなんですが、その流れもひとつのテーマとして大事な要素ですよね。とは言え、どうなるかは分かりません(笑)。現時点ではレコーディングそのものではなくて、仕込みの段階ですね。
ライブのご予定は?
ソロとしてのお誘いを色々といただいています。細かいことは随時ホームページにアップしますのでぜひチェックしてみてください。
最後にコルグ・ホームページをご覧の皆さんへひとことお願いします。
楽器を愛してあげましょう!今日家へ帰ったらまずSV-1を磨こうと思っています(笑)。
今日はお忙しいところありがとうございました。
ありがとうございました。
椎名純平 - Performance with the KORG SV-1 -