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2023.05.19

岩井喬「Nu 1、HA-KIT」インタビュー

2018年に発売されたNu 1は、それまでコルグがUSB DACに対してこだわってきた「原音再生」「バスパワー駆動」などを一旦脇に置いて、当時の技術で創り出せる最高のものを目指した製品です。

Nu 1は国内最大級を誇るオーディオビジュアル機器の総合アワード「VGP」において、連続金賞を3年間(※年2回開催のため延べ6回連続)受賞し、2022年には見事殿堂入りを果たしました。

このVGPの審査員でもあるオーディオ評論家の岩井喬先生に、Nu 1およびNutubeを使ったヘッドホン・アンプの組み立てキットHA-KITについて、専門家の目線での感想を色々とお訊きしました。

 

Nu 1について

 

──まずはNu 1の音について、率直な感想をお願いします。


岩井: もともとDS-DACシリーズを色々試聴させて頂いていたので、Nu 1が出たときはこれまでとは違うソリューションだなという感じでした。特に大きく変わったのは電源周りで、USBでの供給からリニア電源になりましたね。オーディオとしてひとつの理想的な形になったと思いました。DS-DAC-10Rのときに、よりオーディオ・ライクなものになってきたという感触はありましたが、バランス出力が無いとか、PHONO入力がMM専用だったりとか、もう少し踏み込んだ機能や音質へのこだわりがあったら良いのに……と感じていたんです。しかしNu 1はそういったところが全てカバーできたプロダクトになっていたので、聴く前からすごく期待していました。

DSDのフォーマットに対して(コルグが)昔から取り組んでいた優位性はもちろんあるのですけど、ソフト(AudioGate)+ハード(Nu 1)の連携ができているというところも他にはないメリットですね。ハイレートな入力、特に11.2MHzの再生はすごく安定していて解像度も高い。DSDならではの空気感が感じられるものになっていました。それがバランス出力として取り出せる点でも、高級DACと肩を並べるくらいになってきたという印象です。


──Nutube HDFCはいかがでしょうか。


岩井: あまりNutubeを使った製品がなかった頃に、実際その音がどうなのかという、かなりまっさらなところから聴くことができるプロダクトであったと思います。すごく真空管らしいというか、倍音の付加機能を切り替えて調整できるのは、効果も分かりやすくて良かったです。真空管っていうとちょっと一般的なイメージとして、ナローだったり、温かみのある音だったり、昔から言われている音色感もあるとは思いますが、それとは違う新世代の真空管という部分をアピールできている点が良いですね。解像感がありつつ、三極菅ならではの抜けの良さ、透明感のある音で、なおかつ高域の倍音のかかり方がきれいに感じられます。輪郭表現や、きらびやかさといったところが、切り替えるごとにどんどん増加していく。ただのオンオフじゃなくて効果が切り替えられるというのは、ジャンルによって増減も変えられますし、すごく意味があることだと思いました。


──S.O.N.I.C. リマスタリングテクノロジーについてはいかがでしょう。


岩井: USB DACの中にはアップサンプリングやDSDの変換機能がついているモデルも多くなってきています。でも受動的といいますか、あまり自分から能動的に何かできるっていうわけではない印象です。一方S.O.N.I.C.では、自分でアルゴリズムを変えられる、パラメーターを変えられるというところも面白いですね。それが苦手な方だとオノ(セイゲン)さんの用意してくださったプリセットも約200ありますし、試し甲斐があります(笑)。それだけ熱量といいますか、こういう風に変わっていくんだという音の変化が、切り替えてすぐに反映できて楽しめるのも面白いです。今、Youtubeもそうですが、サブスクのストリーミング・サービスが多い状況で、ハイレゾ・ストリーミングを聴いていても、ちょっとナローといいますか、輪郭感がきちっと出てこない物足りない音になっている印象を持っています。これを引き締める意味でも、S.O.N.I.C.を使って好みの方向にも振れますし、ハイレゾらしい際立ち感を高めるために上手く調整できるのはすごく便利だなと思います。

──Nu 1はアナログ・レコードのアーカイブに力を入れた製品でもありますが、そのあたりの機能についてはいかがでしょうか。


岩井: アーカイブに興味のある方だと、DS-DAC-10Rの出る前からMR-2000Sなどを使って、フォノイコから直接レコーダーにつないで録音されるというお話も聞いたことがありました。今は逆にアナログ人気によって直接再生することの意義の方が優先されているようにも思います。しかし長い歴史のあるアナログの世界だからこそ、かつて売られていたカートリッジで楽しむのも一つの入口としてはありだと思うんです。

アナログには名機といわれるようなカートリッジもありますし、プレーヤー、ケーブル、ターンテーブル・シートなど、何かを変えればすぐに音も変わるという、すごくストイックな世界でもあります。アーカイブももちろんですが、音の変化を記録することで、どう以前から変わったかをデジタル・ファイルで切り替えて確認することができるっていうのは、すごく良いことだなと思っています。

それが据え置き型のレコーダーでは、色々録音前にセットアップしなくてはいけないとなると、ちょっと二の足を踏むことになりますし、面倒と感じてしまうのではないでしょうか。でも再生環境がNu 1を軸にして構築できている上で、録音もできるという手軽さはNu 1ならではですし、特にデジタルソースでは切り替えてすぐ再生という繰り返しができるので、音の違いを認識するのには凄く分かりやすいです。

アナログの場合は、カートリッジを交換するとなるとセットアップで4、5分とか、次の音が出るまで時間がかかってしまいます。そのため、交換前の音の記憶を持っていたとしても、ちょっと曖昧なものになってきてしまうと思うんです。それに対して録音機能を使うと、あとで冷静な気分でその差を判別できるので、何かを追い込んで調整しているとき、凄く使える機能だなと思っています。

個人的にもアーカイブは結構前から試していましたが、特に古いカートリッジを使う場合は経年劣化との闘いとなります。ダンパー部分がどんどん年数を重ねることで硬くなってきてしまって動かないだとか、逆に柔らかくなりすぎてしまって重さを支えることができなくなってしまい、ペタっと針が寝てしまうような状態になることもあります。ですので、きちんと動くうちに最適な調整で、しかもそのときに理想とされる環境で再生することによって、自分のいいと思える音を、アーカイブするという意義は相当大きいはずです。アナログは常に同じコンディションで聴けるわけではないので、そういったところに対しての気付きもあると思っています。

あとはDSDを使うことでアナログらしい空気感を捉えることができる点もよいですね。今のハイレゾ・ソースは昔の音源をマスタリングして、ハイレゾファイル化し、リリースされているものも多いですが、収録されたときの音像の周りの空気感や、そのアーティストの声や楽器との距離感など、何か“間”に介在した情報って結構なくなってしまっている気がします。

それを回避するためには、オリジナルのLPを一番いい状態で再生した方がよいのではないでしょうか。手軽に自分でハイレゾ音源を作る、じゃないですけど、そういったときにDSDのファイルを選ぶことで、その空気感が活かされてくる気がしますね。DS-DAC-10Rをお借りしたときに、5.6MHzで色々とアーカイブファイルを作ったんですが、それ以上となる11.2MHzで作ると全然世界も変わるので、そうしたオペレートができるNu 1の存在意義はすごく大きいと感じています。


──アーカイブの使い方として、セッティング違いを保存するというのは目から鱗でした。


岩井: 細かい設定の変更をしたときなど、“変わったと思うけれど、実際はどうだろう?”と自信がないときもあったりしますよね。特にそういったときにNu 1でファイルを残しておくと手助けになるかなと思います。


──ハイレゾのフォーマットが色々ある中、弊社はDSDの高精細な音を選んで製品を開発してきました。それについてはいかがでしょうか。


岩井: 録音して編集するのが当たり前の時代になっているので、DSDはそういう観点から言うと、どうしても一回PCMに変換してからでないと編集できないんでしょ、みたいな認識も多いフォーマットだったりします。昔のレコードの時代のダイレクトカッティングと同じで、11.2MHzで録音する場合は何もできないからこそ、アーティストに対しての技量が要求される、ストイックなレコーディングになっているとも感じます。

ただ、そういう緊張感も含めて音楽としての価値でもありますよね。アーティストもしくはエンジニアにとってすごく負担にはなってしまいますが、そういったものが音源として出てくることで、より没入感も得られます。DSDは収録した場の空気感を再現するのにとても向いているフォーマットだと思います。レートが上がることで、ディテールも含めてよりしっかりと演奏を捉えてくれますので、特に音場感を大事にしたいときにDSDを選ぶ価値があると思っています。

それに対してPCMは、音像の輪郭をしっかりと描き出すという特徴があるので、メリハリの利いた音楽をつくりたいときにはDSDよりPCMを選んだ方が良い場合もあります。ただし、レートを上げていくと、録音機材のクオリティによって追随できないことも起こりますので、Nu 1のようにきちんとA/Dも考えて作られている機器だと安心ですね。

相当上のレートまで対応できるインターフェースや録音ソフトも多くなっていますが、実際そうしたもので録音された音源に対し、本来そのレートで再現できる水準に達していないものもあるように感じています。ハイレートだから良いというよりは、ハードウェアに対してより高い性能が要求されることも踏まえたうえで、レート選択をする必要があるのではないでしょうか。そう考えていくと、取り扱うファイル量が大きすぎないという点や、普段の作業のしやすさという点も踏まえると、(PCMの)96kHzや192kHzが現実的だろうなと思っています。

上のレートまで試すことができて、それがきちっとしたクオリティで残るという観点では、Nu 1くらいきちんとしたハードウェアが欲しいっていうのはありますね。

HA-KITについて

 

──HA-KITも組み立ててお使い頂いているとのことで、こちらの印象はいかがでしょうか。


岩井: 値段もすごく手頃ですし、工作が苦手な方にとっても最低限の加工/工数で組みあがるという点はすごく考えられているなと思いましたし、工作の楽しさが伝わるものだと思います。NFBのON/OFFだったり、オペアンプの交換だったり、趣味としての楽しさを残してあるところも良かったです。

デジタル・プレーヤーも音量は出せるとは言っても、ヘッドホンを鳴らせるかということになってくるとエネルギー感が伴わないというか、うるさい音になりがちなんですよね。それに対して、HA-KITのようなコンパクトなアンプであっても、挿入することによって、ちゃんとしたエネルギー感の伝送という点もカバーできるし、Nutubeの持っている真空管ならではの倍音も加わってくるので、すごく聴きやすいサウンドになっています。

 

──出力のOPアンプを交換できますが、MUSESとNutubeの相性はいかがでしょうか?


岩井: もともとのNJM4580も、いい意味でマイルド感があって真空管らしい音にまとまっている感じはしますね。NFBのかけ方によっても倍音だけでなく、歪み感を抑えたすっきりしたサウンドにできたり。ただ、自分にとってはもう少し解像感が欲しい、きちんとした輪郭表現もあった方が良いなと感じていたので、価格差も相当ありますが、4580よりはMUSESのチップを使った方が音質の点でも、またその音質変化についても大きく変わりますし、分かりやすくて、チョイスも良かったなと思っています。

本来だったらデジタル・プレーヤーだけで楽しむ人も多い中で、アドオンして楽しむものなのに、それを加えたことでしっかりと聴きたい部分がスポイルされてしまうと勿体ないですし。Nutubeの音も追いこんでいけば解像感も出るし、音場のクリアさもしっかり出てくる素子だと思うので、そこを生かすためにMUSESくらいのものじゃないと多分バランスが取れないのかなっていう感じはしました。


──Nutubeの音色について、真空管らしいと思える部分などあればお願いします。


岩井: 中高域のツヤ感というか、旧来からの真空管だともっと味付けが強い感じになるんですけど、Nutubeはすごく聴きやすいバランスでした。あまり過度な味付けにはならないですけど、やっぱり耳元で聴いている分、変化は分かりやすいと感じました。

昔から真空管アンプとか作っている方でいえば、直熱三極菅のサウンドはツヤに加えて、存在感のあるサウンドでありながら、音場の透明感も兼ね備えているところがあって、Nutubeはそれと同じような感覚になれるというか、現代的にブラッシュアップされていて変に訛ったところがないという感じです。

がっつりと聞いて「あぁ、なるほど」いうところもあれば、ながら聴きで聴いていても「なんか気持ちいいな」というところのバランスがすごくよく取れている印象です。一時期、電池駆動できる往年のペンシル真空管で作ったアンプもありましたけど、ああいったものに比べれば発熱も少ないですし、安全に楽しめるという点でも、Nutubeは一番理想なのかなという感じですかね。

──HA-KITは割と高い電圧で出しているので、ハイ・インピーダンスのヘッドホンできれいに鳴るような印象を持っているのですが、いかがでしょうか。


岩井: ヘッドホンの鳴らしやすさの指標ともいえるスペックとしてインピーダンスや能率(出力音圧レベル)を参考にしますが、載っているスペック通りともいえないケースに出くわすことも多いです。例えば平面駆動のヘッドホンのようにスペック上はすごく鳴らしやすい数値になっていても、エネルギーを入れてやらないと鳴らないヘッドホンって結構あるので、そういうものに対してだと、良い鳴り方するな、という印象があります。

端子が小さい(※HA-KITはφ3.5mmを採用)ので、大きいヘッドホンを鳴らそうとすると、6.3mmプラグを使っている場合は変換プラグを使わなくてはいけません。しかし最近は高級機でも標準仕様で3.5mmとなっているものも増えてきているので、それがデメリットになるわけではありません。


──Nutubeを使ったものでなにか欲しい製品等があればお願いします。


岩井: 今はポータブル・プレイヤーにNutubeが入っているモデルも増えてきましたし、色々なところでNutubeの音を聴く機会って増えてきているところで、面白い時代になってきたなと思います。個人的にはパワード・スピーカーに使ってみるのも良いのではないか、と考えています。内蔵アンプは発熱に対してのケアが必要なため、これまでスピーカーの中に設置するアンプに対して真空管を使うっていうアプローチはなかったかもしれません。そこに対してNutubeであれば実現できるかもしれないという気がしています。もちろんパワード・スピーカーなので、モニターとして使う方が多い世界ではあるんですが、最近デスクトップ用の高級オーディオ用モデルも増えてきているので、違う個性というところでNutubeの載ったアンプを内蔵したスピーカーは面白いのかなという気はしています。

コルグについて

 

──コルグというメーカーについて、どんな印象をお持ちでしょうか。


岩井: 私はもともとレコーディングスタジオで仕事をしていましたが、コルグというとミュージシャンの方々が使っている電子楽器のイメージが強いですね。私たちの時代だとM1のイメージが相当強いです。そのため、音を作り出すところから手がけられるブランドという認識を持っています。特に今の時代は打ち込みものも多いですし、音源を作るメーカーの意義って相当大きいのではないでしょうか。

そういった単音から作り出せるブランドが、オーディオの出力の部分もきちっと反映できるところは、入口と出口を揃えるという点においても魅力的ですよね。これまでコルグ製品ではレコーダーなどのオーディオに関わるアイテムもありましたが、DS-DACシリーズが登場するまでUSBインターフェース、オーディオ・インターフェースを作ってなかったというのが意外でした。Nu 1もプロ用のUSBインターフェースとして使えるアイテムではあるけれど、ちゃんとピュアオーディオの方を向いてるアイテムですし、そうした製品を手掛けられるところも良い意味で意外だなという印象を持っていました。

MRシリーズも以前から使わせて頂いたりはしていたので、やっぱり音に対してのアプローチは一段深いというか。信頼度は高いですね。DSDに対する理解だとか、DS-DAC-10Rを出す段階で録音できるようにするところだとか、そういったところからスタートされていたので、凄く安心感を持っています。Clarity(※DSD対応DAWの研究用システム。2010年10月のAES Conventionで一部の業界関係者向けに発表)もそうですけど、11.2MHzのレコーディングも早くから手掛けられていたこともあって、DSDフォーマットを良く知るブランドのひとつとして評価しています。


──最後に何かありましたら…。


岩井: AudioGateについて、フォノ・イコライザーのカーブが切り替えられるっていう点は今、注目の機能性であると思っています。他社の既製品フォノイコでも、何段階かカーブを切り替えられる製品が昔より多くなっている状況です。様々なところでイコライザー・カーブに対しての認識というのが広がりつつあるんですけど、やっぱり多く言われているのが、LPに切り替わった時期のカーブの混乱。どのカーブを刻んでいるのか分からないという問題ですね。でも実はその問題は近年まで続いていたんじゃないかっていうところがありまして。

レコードだと再発されたものよりもオリジナル盤が良いという話がありまして、そのアルバムが出た当時に売られている盤、なおかつそのアーティストの本国、アメリカのアーティストだったらアメリカでプレスしたものが一番良いという風潮もあります。オリジナル盤は日本盤と比較すると、ベールを剥いだような鮮やかさを感じます。マスターテープをコピーしたものを日本に運んできて、そのテープをもとにカッティングしたうえで日本のタイトルが作られることになりますから、コピーする過程が少ない分、海外のオリジナルで作った盤のほうが純度感が高い。そこがオリジナル信仰の大きな部分だったりするわけです。しかし近年の盤でもRIAAカーブで聴いていると何か本来の音ではないのではないかという違和感を持つことがありまして、例えば音作りの一環でイコライザー・カーブをRIAAではないものに変えていたのでは…?と思わされるものが存在しているように思います。日本はRIAAのカーブを厳密に守って作られているので、日本で作られたものに関してはそんなことは全くないんですが、80年代くらいまでカーブの問題っていうのが、いろんなところに残っていた印象があります。個人的にビリー・ジョエルとかCHICAGOとか、アメリカのCOLUMBIAで作られていた盤が80年代の頭くらいまで、他のカーブじゃないのかなっていう疑惑を持っています。


──抜けが悪いという感じですか?


岩井: いや、違うんです。逆に鮮やかすぎちゃうっていうか、ギラギラのサウンドなんですよ。オリジナルならではの鮮度感とか抜けの良さみたいなところはあったりするんですけど、そうはいってもソリッドすぎないか?みたいな感じの印象があって。

恐らく昔からオリジナル盤が良いって言って買ってる方もいらっしゃると思うんですけれど、本来こういう音じゃないんじゃないかな、でもオリジナル盤だし悪いはずないしなと困惑されているケースもあったかもしれません。そうした印象から聴かなくなってしまっている盤もあるのではないでしょうか。

そういった盤に対して、イコライザーのカーブを変えたりするとけっこう納得するような音の変化を感じられるんです。一応COLUMBIAだからCOLUMBIAのカーブに設定して聴いてみたんですけど、そうするとすごく重心が落ちて、ボーカルの音像感がしっかりと出てきたりだとか、ビリー・ジョエルだったらピアノの響きがもうちょっと中低域に落ちてきて、楽器としての存在感が出てくるというか、そういう感じに変わってくるんですよ。凄くイコライザー・カーブっていうのがそういうところに効くんだっていうのを実感したんですよね。

他のレーベルでもそういった問題ってあるのかもしれないんですけど、ただ一方でカッティングするときのカッティング・マシーンの設定なので、例えば有名なマスタリング・スタジオのエンジニアがレーベルをまたいでカッティングしているわけで、そのエンジニアはそういったカーブを作業の都度いじるだろうかと考えると、それも不思議な話ですし。特定のレーベルで出ている盤だけでその傾向があった場合に、もしやったとして、じゃあ誰がそういう指示を出したのかとか、そういうところまで話が及んでくるので、本当にそうなのかどうかは分からないです。80年代初頭はこれからCDが出るぞという時代なので、レコードのカッティングとしても、もう少し今までとは違った方向で音作りをしなきゃいけないんじゃないかという考えで、そういう音になっている可能性もありますし。

今みたいに、安くても高解像度の音が出てしまうシステムで聴いちゃうと、そのキツさが目立っちゃうっていうことなのかもしれません。なんかこう色々考えさせられる音の違いが、80年代前半くらいまでの盤にある印象なんですよね。そういったときに、カーブを切り替えられるのは、すぐ試せて良いところです。あとAudioGateでは、イコライザー設定をOFFで録音できるところも面白いと思います。


──楽しいお話をありがとうございました。

岩井喬(いわい たかし)

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。