2022.06.01
動画世代のギターヒーロー像、SATSUMA3042の深部
SATSUMA3042
SATSUMA3042
17、18歳の頃には“萱島(編注:大阪府寝屋川市、SATSUMAの活動拠点。)にすごいギター弾きがいる”といった感じで、大阪の寝屋川界隈から始まり、ついに京阪本線を通って阪急沿線までにまで噂が轟きまして(笑)。それからハードロック・バンドもいくつかやったんですけど、25〜26歳の頃に、“いくら速弾きをしていても、これは売れへんな”という気持ちが芽生えてしまったんですね。
──ギターの速弾きということについて、ふと考え直したんですね。
はい。そんな中、BOOWYの曲に触れる機会があって。彼らの曲をコピーしているとメジャーセブンスとかマイナーセブンスなど、押さえたことのないコードが出てきて、“なんだこの響きは! 今までパワーコードしか押さえてこなかったのは何だったんだ!”って、めちゃくちゃ美しく聴こえたんです。
──キーボードを手に入れることによって、和音の世界が広がっていった、と。
そうですね。そんなある日、僕がやっていたバンドのドラマーの結婚披露宴でみんなで演奏しようっていうことになって。いろんなハードロックのカバーもやったんですけど、知り合いが“CHAGE and ASKAの「SAY YES」を歌いたい”と。ちょうど僕がキーボードを持っていたので、寝る間を惜しんでおぼつかない指で練習して、なんとか披露宴で弾いたんです。それを見ていた、のちに一緒にデビューすることになる人が“ヨンちゃん(SATSUMAのこと)、ギターだけじゃなくてキーボードも弾けんるんや!?”って勘違いしたんです(笑)。
──勘違い(笑)。でもそれぐらい印象的だったんですね。
──ものすごい押し問答ですね(笑)。
実際、その時はギターも音楽も2年ぐらい辞めていた頃ですし、家業を継ぐことで親も喜んでくれているというか、継ぐことが当然だと思っていた中で、やるつもりは0パーセントだったんですよ。
と(笑)。それから何日か口もきいてくれないぐらい、いろんなことがあったんですけど、僕もやると決めたらとことんやりたいので。それでいつもギターでお世話になっていた楽器店さんに行って、ギターコーナーには寄らず、キーボードコーナーに向かっていったんです。
“すいません、キーボードください”
──店員さんからのアドバイスが大きかったんですね。
そうですね。電話帳ぐらいの厚さのマニュアルを読みながら、わからないことがあればその店員さんに聞きに行ってました。そうすると、だんだん理解してきましてね。最初はドラムを打ち込めただけでも嬉しかったんですけど、そこからベロシティとかクオンタイズといった機能を知ったり、人間のプレイに近づけたりできることも素晴らしいと思って。そうしているうちに、2つほどレコード会社から声がかかって、デビューすることになったんですね。その時にその店員さんのところまで、僕が打ち込んだ音源をフロッピーディスクに入れて持って行って“デビューすることになったんです。これ、全部
01/Wで作ったんです!”って、そのフロッピーディスクに入っている音源を店頭で流したら、“これ、本当に君がやったの?”って驚かれたんです。結果、店頭の
01/Wのコーナーで、“これは
01/Wだけで作った楽曲です”というコピーを添えて、ずっとループで演奏してもらえたんです。
──それぐらい、クオリティが高かった、と。
その時は、その店員さんからも“デビューおめでとう、頑張ってね”っていう言葉をいただきましたね。さらに、メジャーデビューしてからも色々とアドバイスしてくれる中で、
KORGの
TRINITYのオルガンの音色が秀逸だと聞いて。サウンド自体も良いしロータリーのシミュレーションがすごいって、目の前で聴かせてもらったんですね。で、“ほんまにすごいオルガンの音や!”と思って
01/Wと
TRINITYの2台でメジャーの活動をしていたという。そういう経緯があるんですよ。
最初は本当に何かよくわからないままでしたけど、ドラムの打ち込みができたっていう喜びがきっかけですね。次はストリングス、べースはチョッパーの音色もある!みたいに、あれもできる、これもできる!って、どんどんアレンジを組み立てていって。加えて、機械的だなって感じる部分をヒューマナイズする知識もついてきて。
──鍵盤の奏法を磨くというより、打ち込みなど自動演奏に没頭していたったと。
そうですね。ピアノは相変わらず「SAY YES」しか弾けなかったです(笑)。
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KORG 01/W FD
1991年に発表された、M1、Tシリーズに続くコルグ・ミュージック・ワークステーションの第3世代。豊富なPCM---マルチ・サウンド255種、ドラム・サウンド119種を搭載。60種類のウエーブ・シェーピング・テーブルにセレクトしたマルチサウンドを割り当て、倍音をエディットすることにより、微妙なニュアンスやダイナミックなレゾナンスも表現できる音作りが特徴。
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KORG TRINITY
1995年発表のTRINITY。驚異的な高音質を誇るだけでなく、タッチビューGUI(タッチパネル)をいち早く採用した画期的な操作系や、オプション・ボードによりハードディスク・レコーディングやプレイバック・サンプラー、DSPによるMOSS音源のシンセサイザー・ボードといった機能強化ができる点も高く評価された。
30歳でメジャーのレコード・レーベルからデビューして、4枚のシングルを出したんですが、泣かず飛ばずで、32、33歳で辞めました。その頃の話をしますと、デビュー当時、僕らを担当していたディレクターから
そこからは
ただ、そのときにもし
たまに“SATSUMAさん、もう一度デビューすることは考えていないですか?”って言われるんですけど、僕はもう、その時の分岐点で辞めるっていう決断したわけで、もう二度とデビューすることはない、と今だに思っているんですね。あとは“SATSUMAさんの書いた曲を聴いてみたい”って言ってくださることもあるんですが、僕はやっぱり、
はい。だから音楽で飯を食おうっていうのは本当に大変というか。ゴールじゃなくてスタート地点に立ったところで、僕らは辞めてしまったっていう意識が強かったですね。メンバーの中でも特に僕は。やっぱり曲を作っているなかで、無理だと思ったので。
そうですね。お好み焼き屋をやりながら80年代の懐かしいことをやっているから、皆さんに支持してもらっていると思っているんです。いい隙間があったというかね。ただ、第一人者かもしれないとは思うんですよ。YouTubeって、あとから参入してきてもそれほど再生回数が伸びないことが多いと思うんですけど、コピーを弾いてみたとか、カバーしてみたっていう動画の中では、その分野でパイオニア的な存在なのかなと。
SATSUMA3042が認定したディストーション・ペダル「DS-S」のKORG×イシバシ楽器コラボ・モデル。「DS-S」はKORGとノリタケ電子が共同開発した次世代型真空管「Nutube 6P1」を搭載する「Nu:Tekt」シリーズのペダルだ。
──手の大きさなど、身体的な壁は練習によって克服できますか?
それも逆に言うと、毎日練習していれば、積み重ねで指も開くようになるぞっていうことをジェイクが教えてくれたと思っています。僕はそれも含めて発信しているんです。“僕自身も指が届かなかったんですけど、やはり練習です”と正直に言っています。10秒で諦める人もいらっしゃいますが、10分、100分、10日、100日考えて練習し続けていたら、絶対結果が見えるんですよね。やはり継続は力なんです。
書籍情報
『SATSUMA3042の細かすぎてめちゃ伝わるマスターズ・リックス』
SATSUMA3042の名を広めるきっかけとなった“細かすぎてめちゃ伝わる”エディ・ヴァン・ヘイレン奏法に加えて、本書ではマイケル・シェンカー、ジョージ・リンチ、ジョン・サイクスといったギタリストを取り上げ、SATSUMA3042が長年培ってきた奏法考察の成果をDVD映像連動で伝える。