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2022.06.01

動画世代のギターヒーロー像、SATSUMA3042の深部

80年代を中心としたギター・レジェンドたちの奏法分析をYouTubeで発信し、熱狂的な支持を集めるギタリスト、SATSUMA3042。マニアックな視点でロック史の名演を紹介する彼の存在は、動画配信が一般化した現代で、エレキ・ギターを嗜む大人たちに大きな夢を与えている。そして、その音楽的ルーツには、実はKORGのシンセサイザーも大きく関わっていた。2020年代を象徴する活動でシーンを賑わせる、ギターヒーローの深部に迫るロング・インタビューをお届けしよう。

SATSUMA3042

SATSUMA3042

1966年生まれ。DEEP PURPLEに衝撃を受け14歳からギターを始める。ハードロックバンドの結成、解散を繰り返しポップスバンドに参加。1996年にキーボードでメジャーデビュー。1999年に解散し、家業のお好み焼き屋を継ぐ。42歳の時にYouTubeに「ERUPTION/VAN HALEN」を初投稿し1日で数万回を再生される。YouTube11年目の2020年にYouTube登録者10万人を達成する(現在約13万人)。楽器店、楽器メーカー主催のイベントに多数出演。2022年5月25日、シンコーミュージック・エンタテイメントよりギター教則本『SATSUMA3042の細かすぎてめちゃ伝わるマスターズ・リックス』を発売。

キーボードは弾かれへん。
「SAY YES」や!
 
──SATSUMA3042(以下SATSUMA)さんのホームページのプロフィールにある“1996年にキーボードでメジャーデビュー”というキーワードがずっと気になっていまして。
 
 元々は14歳の頃にディープ・パープルに目覚めまして、これしかないというぐらい、ハードロックのギターに夢中になったんです。
17、18歳の頃には“萱島(編注:大阪府寝屋川市、SATSUMAの活動拠点。)にすごいギター弾きがいる”といった感じで、大阪の寝屋川界隈から始まり、ついに京阪本線を通って阪急沿線までにまで噂が轟きまして(笑)。それからハードロック・バンドもいくつかやったんですけど、25〜26歳の頃に、“いくら速弾きをしていても、これは売れへんな”という気持ちが芽生えてしまったんですね。

──ギターの速弾きということについて、ふと考え直したんですね。

 

 はい。そんな中、BOOWYの曲に触れる機会があって。彼らの曲をコピーしているとメジャーセブンスとかマイナーセブンスなど、押さえたことのないコードが出てきて、“なんだこの響きは! 今までパワーコードしか押さえてこなかったのは何だったんだ!”って、めちゃくちゃ美しく聴こえたんです。

それからBOOWYの曲をコピーしたり、ハードロックとは少し離れた楽曲を作り始めて。さらに、キーボードなら右手の指次第でコードに好きなテンションノートを乗せることができるなと思って、まずは安価なキーボードを買ったんです。

──キーボードを手に入れることによって、和音の世界が広がっていった、と。
 

 そうですね。そんなある日、僕がやっていたバンドのドラマーの結婚披露宴でみんなで演奏しようっていうことになって。いろんなハードロックのカバーもやったんですけど、知り合いが“CHAGE and ASKAの「SAY YES」を歌いたい”と。ちょうど僕がキーボードを持っていたので、寝る間を惜しんでおぼつかない指で練習して、なんとか披露宴で弾いたんです。それを見ていた、のちに一緒にデビューすることになる人が“ヨンちゃん(SATSUMAのこと)、ギターだけじゃなくてキーボードも弾けんるんや!?”って勘違いしたんです(笑)。

──勘違い(笑)。でもそれぐらい印象的だったんですね。

 

 いやいや、僕は“キーボードは弾けない、「SAY YES」しか弾けないよ”と(笑)。
その人は歌を歌っている人だったんですけど、むちゃくちゃ押しが強くて。その頃、僕はギターを辞めて、すでに家業のお好み焼き屋を継いでいたんですけど、彼が来て“俺はデビューしたい!そのためには、ギターもキーボードも弾けるヨンちゃんがどうしても必要だ”と。
そこでもう一度“いや僕、キーボードは弾かれへん。「SAY YES」や!”って(笑)。

──ものすごい押し問答ですね(笑)。
 

 実際、その時はギターも音楽も2年ぐらい辞めていた頃ですし、家業を継ぐことで親も喜んでくれているというか、継ぐことが当然だと思っていた中で、やるつもりは0パーセントだったんですよ。

でも、言うことを聞かないぐらい押しで強くて。
“わかった、じゃあやるわ”
と返事したんです。それを両親にも伝えたんですけど、特に母親が怒ってね。
“何言ってるの? もう音楽辞めるって言うたやん!”
“いや、キーボードでもうひと花咲かせる”
“何を考えているんだ!”
と(笑)。それから何日か口もきいてくれないぐらい、いろんなことがあったんですけど、僕もやると決めたらとことんやりたいので。それでいつもギターでお世話になっていた楽器店さんに行って、ギターコーナーには寄らず、キーボードコーナーに向かっていったんです。
当時、とてもよくしてくださっている店員さんがいらっしゃったんですけど、
“すいません、キーボードください”
っていう感じで伝えたら
“どこのメーカーのキーボードがほしいの?
“ちょっとわからないです。何かオススメを……”
“ヤマハだったらこの機種、ローランドだったらこれ、KORGだったらこれかな”
“じゃあ、 KORGの01/Wください”
“何鍵?”
“何鍵??”
“61鍵か88鍵まであって……”
“じゃあ、多い方で”と(笑)。そうやって KORG01/Wを購入したんです。

──店員さんからのアドバイスが大きかったんですね。
 

 そうですね。電話帳ぐらいの厚さのマニュアルを読みながら、わからないことがあればその店員さんに聞きに行ってました。そうすると、だんだん理解してきましてね。最初はドラムを打ち込めただけでも嬉しかったんですけど、そこからベロシティとかクオンタイズといった機能を知ったり、人間のプレイに近づけたりできることも素晴らしいと思って。そうしているうちに、2つほどレコード会社から声がかかって、デビューすることになったんですね。その時にその店員さんのところまで、僕が打ち込んだ音源をフロッピーディスクに入れて持って行って“デビューすることになったんです。これ、全部 01/Wで作ったんです!”って、そのフロッピーディスクに入っている音源を店頭で流したら、“これ、本当に君がやったの?”って驚かれたんです。結果、店頭の 01/Wのコーナーで、“これは 01/Wだけで作った楽曲です”というコピーを添えて、ずっとループで演奏してもらえたんです。

──それぐらい、クオリティが高かった、と。
 

 その時は、その店員さんからも“デビューおめでとう、頑張ってね”っていう言葉をいただきましたね。さらに、メジャーデビューしてからも色々とアドバイスしてくれる中で、 KORGTRINITYのオルガンの音色が秀逸だと聞いて。サウンド自体も良いしロータリーのシミュレーションがすごいって、目の前で聴かせてもらったんですね。で、“ほんまにすごいオルガンの音や!”と思って 01/WTRINITYの2台でメジャーの活動をしていたという。そういう経緯があるんですよ。
 

──まさかKORGの製品とそんな関わりがあったとは……。そして、キーボードに関する経験がゼロの状態から、打ち込みまでやるとはすごい熱量ですね。
 

 最初は本当に何かよくわからないままでしたけど、ドラムの打ち込みができたっていう喜びがきっかけですね。次はストリングス、べースはチョッパーの音色もある!みたいに、あれもできる、これもできる!って、どんどんアレンジを組み立てていって。加えて、機械的だなって感じる部分をヒューマナイズする知識もついてきて。


──鍵盤の奏法を磨くというより、打ち込みなど自動演奏に没頭していたったと。
 

 そうですね。ピアノは相変わらず「SAY YES」しか弾けなかったです(笑)。

  • KORG 01/W FD

    1991年に発表された、M1、Tシリーズに続くコルグ・ミュージック・ワークステーションの第3世代。豊富なPCM---マルチ・サウンド255種、ドラム・サウンド119種を搭載。60種類のウエーブ・シェーピング・テーブルにセレクトしたマルチサウンドを割り当て、倍音をエディットすることにより、微妙なニュアンスやダイナミックなレゾナンスも表現できる音作りが特徴。

  • KORG TRINITY

    1995年発表のTRINITY。驚異的な高音質を誇るだけでなく、タッチビューGUI(タッチパネル)をいち早く採用した画期的な操作系や、オプション・ボードによりハードディスク・レコーディングやプレイバック・サンプラー、DSPによるMOSS音源のシンセサイザー・ボードといった機能強化ができる点も高く評価された。

人生の分岐点で辞めるという決断したわけで、
二度とデビューすることはないと思っている。
 
──以降、そのバンドでプロ活動をされていたんですね。
 

 30歳でメジャーのレコード・レーベルからデビューして、4枚のシングルを出したんですが、泣かず飛ばずで、32、33歳で辞めました。その頃の話をしますと、デビュー当時、僕らを担当していたディレクターから

“これから一緒に頑張ろうね。1日1曲書いて1年で365曲、その中から1曲ヒットするかどうか、そういう世界だから。とにかく曲を書いてね!”
“わかりました!”
という感じで言われて、最初はみんなで交流を深めて士気を高めいてたんですけど、1stシングルをリリースしてその次の2ndシングルが全然売れない、そして3rdシングルも全然で……。
そこからは
“君たち、まだ曲を送ってきてないんだけど?”
みたいに、会社としての態度がだんだん変わってきたんです。そして4枚目を出した頃には
“君たちの曲を宣伝会議にかけたけど、誰も手を上げなかったよ。だから宣伝費ゼロ。これでダメだったら、君たちの給料はなくなるから”
って言われて。実質上の解雇宣言だと思いました。
ただ、そのときにもし
“レコード会社は俺らの曲を分かってくれてない!”とか、
“本当に1日1曲書こうぜ!”
っていうぐらいの根性やスピリッツが僕らにあったら……例えば、久保田利伸さんはデビュー前にすでに何百曲も書いていて、未来の絵を描いた上で、それを実現させていたっていう話を聞いたんです。それぐらい楽曲のストックは大事ですし、自分の楽曲に自信がなかったら、この世界ではやっていけないっていうのを聞いてね。僕らは3人でデビューしたんですけど、ここでやめようか、と……。そこで穴を割ったんですよ。
 
──困難を乗り越えてでも続けよう、という方向には行かなかった、と。
 

 たまに“SATSUMAさん、もう一度デビューすることは考えていないですか?”って言われるんですけど、僕はもう、その時の分岐点で辞めるっていう決断したわけで、もう二度とデビューすることはない、と今だに思っているんですね。あとは“SATSUMAさんの書いた曲を聴いてみたい”って言ってくださることもあるんですが、僕はやっぱり、

“アーティスト本人がミストーンしたところまでコピーして凄いな!”
みたいに、皆さんと懐かしい部分を共有して共感してくれるからこそ、今こうやって13万人以上のYouTubeのフォロワーがいてくれていると思うので。
そこで僕が
“曲を作ったからみんな買ってね!”
ってなったら、またちょっとまた違う方向に行ってしまうかなと思うんです。
 
──それがSATSUMAさんの考えの基礎になっているんですね。ある意味、大人の世界に揉まれた経験があったから、と。
 

 はい。だから音楽で飯を食おうっていうのは本当に大変というか。ゴールじゃなくてスタート地点に立ったところで、僕らは辞めてしまったっていう意識が強かったですね。メンバーの中でも特に僕は。やっぱり曲を作っているなかで、無理だと思ったので。
 

──それをちゃんと自覚した上で今の活動をしているんですね。
 

 そうですね。お好み焼き屋をやりながら80年代の懐かしいことをやっているから、皆さんに支持してもらっていると思っているんです。いい隙間があったというかね。ただ、第一人者かもしれないとは思うんですよ。YouTubeって、あとから参入してきてもそれほど再生回数が伸びないことが多いと思うんですけど、コピーを弾いてみたとか、カバーしてみたっていう動画の中では、その分野でパイオニア的な存在なのかなと。

SATSUMA3042が認定したディストーション・ペダル「DS-S」のKORG×イシバシ楽器コラボ・モデル。「DS-S」はKORGとノリタケ電子が共同開発した次世代型真空管「Nutube 6P1」を搭載する「Nu:Tekt」シリーズのペダルだ。

朝から晩までループして聴き続けると、
聴こえなかった音まで聴こえてくることがある。
 
──現在はアーティスト本人の動画もYouTubeにたくさんアップされていて、当時の奏法も解析できるような時代になりました。その中でSATSUMAさんのYouTubeの活用法は2020年代ならではだと思います。
 
 そうですね。当時の音源や映像を見て研究できる時代ですが、その中で“SATSUMAさんって耳がいいよね”ってよく言ってくださるようになった反面、正直、そのプレッシャーもあります。“この1秒のフレーズがどう弾いているかわからない!”となれば、朝から晩までループして聴き続けて。そうしていると、聴こえなかった音まで聴こえてくることもあるんです。で、実際に合わせてみて納得できれば、YouTubeにアップする。さらに2014年ぐらいからライブ活動するようになって、いろんな人と会う機会も増えて。そうすると、ミュージシャンやお客さんから、“僕もライヴ活動をしているんですけど、絶対にSATSUMAさんの観てからコピーする”とおっしゃってくださることも非常に多くなったんですね。先日も、レジェンドと呼べるミュージシャンの方から“他のギタリストの曲をカバーする時は、SATSUMAさんの動画を観る。むしろ、SATSUMAさんがやっている曲じゃないとやらない”と(笑)。
 
──そういった活動がある中で、教則本『SATSUMA3042の細かすぎてめちゃ伝わるマスターズ・リックス』が発売されました。
 
 非常に名誉なタイトルの教則本を作っていただきました。中学、高校時代の自分に教えたいですね。お前、将来本が出るぞ!と。ある日、編集担当の方から80年代のスーパーギタリストを数人フィーチャーしたSATSUMAさんの教則本を作りたい、というメールをいただいたんです。それは名誉なことなので二つ返事でお受けしまして。好評で続けば第二弾、第三弾もありえますが、今回はヴァン・ヘイレン、マイケル・シェンカー、ジョージ・リンチ、ジョン・サイクスの4人ですね。最初、ジョージ・リンチをモチーフにしたリック的なものを集めた、編集部へのプレゼン用の楽曲を作ったんです。そうしたら、担当の方に絶賛していただきまして、全編このスタイルで行きましょう、と。その音源の制作に毎日追われて(笑)、何とか全部オッケーもらったら、次は執筆活動に移って。ここは何弦何フレットでどういうふうに弾いているかなど、細かく伝わるような内容になっています。
 
──お好み焼き屋さんとしての業務や動画の作業もある中、どうやって時間を作っていったんですか?
 
 朝5時に起床して午前中に提出する、ということを毎日繰り返していましたね。さらにその後に控えたライヴの準備もあったんですが、時間は作るものだって思ってやっていました。ただ、やはり僕だって、ギターばかりじゃなくてテレビも観たいし、飲みにも行きたい(笑)。そうなると、逆算すると僕の場合は朝しかなかったんです。お風呂で気持ちを切り替えたりするルーティーンもあったんですけど、お風呂からシャワーに替えて時間短縮することによって、その後の時間を延長したり、やりくりをしていました。あとは、先にやってしまった方がラクなんですよね。今日、仕事が終わってから作業しよう、など後回しにしていたら、結局はできない理由を作ってしまうんですよね、時間がなかったから……と。でも、すぐに動くと、逆に時間が余ったりするんです。
 
──なるほど! 一方、弦楽器であるギターの特性上、ポジショニングや指使いは重要ですよね。それを解析するにはとても時間がかかると思います。この本には登場していませんが、例えば、ジェイク・E・リーの「月に吠える(原題:BARK AT THE MOON)」(アルバム『月に吠える』収録)の奏法を完コピするのには、とても時間がかかったのではないか、と想像できます。
 
 よく見ていただいてますね! サツマニアですね(笑)。「月に吠える」については、YouTubeにアップしようって思い立った当日、YouTubeで本人の動画を見てみると、既存のスコアとは全然違うポジショニングでエンディングのソロを弾いていることに気づいたんですよね。実際に音を取ってみたらやっぱりスコアとは音も違うし、その日にアップするのは無理や!と判断して。で、ストレッチを駆使したフィンガリングで音を取ろうと思ったときに、これは明日にアップするとか、そういう次元のプレイじゃないと……指が届かないんですよね。結局、習得するのに2〜3週間かかったんです。だからこそ、弾きやすいプレイで動画をアップしなくて良かったというか。でも、練習していたら指が届かなかったものも届いてくるんですね。でもやっぱり数日練習しなかったら、指が開かなくなってくる。練習量は必要かなとは思いますね。

──手の大きさなど、身体的な壁は練習によって克服できますか?

それも逆に言うと、毎日練習していれば、積み重ねで指も開くようになるぞっていうことをジェイクが教えてくれたと思っています。僕はそれも含めて発信しているんです。“僕自身も指が届かなかったんですけど、やはり練習です”と正直に言っています。10秒で諦める人もいらっしゃいますが、10分、100分、10日、100日考えて練習し続けていたら、絶対結果が見えるんですよね。やはり継続は力なんです。
 

書籍情報

SATSUMA3042の細かすぎてめちゃ伝わるマスターズ・リックス(DVD付)
 
発売日 2022/05/25
著者 SATSUMA3042
サイズ A4判
ページ数 88ページ
ISBN 978-4-401-14634-5
JAN 4997938146343
オプション DVD付
 

『SATSUMA3042の細かすぎてめちゃ伝わるマスターズ・リックス』

SATSUMA3042の名を広めるきっかけとなった“細かすぎてめちゃ伝わる”エディ・ヴァン・ヘイレン奏法に加えて、本書ではマイケル・シェンカー、ジョージ・リンチ、ジョン・サイクスといったギタリストを取り上げ、SATSUMA3042が長年培ってきた奏法考察の成果をDVD映像連動で伝える。

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