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2021.11.30

古代祐三「opsix」インタビュー

楽器業界ではFM音源というとヤマハの「DX-7」に代表されるデジタルシンセがイメージされますが、一方でそのヤマハ社の音源チップによってコンピューターゲーム機の音楽や携帯電話の着メロの世界にも大きな影響を与えました。

ピアノから音楽の道をスタートしながらシンセではなく音源チップからFMを究めた作曲家の古代祐三さんに、現代のFMシンセ「opsix」について印象を伺いました。

古代祐三(こしろ ゆうぞう)

主にコンピューターゲームの音楽を手がける作曲家、ゲームプロデューサー。ゲーム制作会社株式会社エインシャント代表取締役社長。代表作に『イース』、『イースII』、『ソーサリアン』、『アクトレイザー』、『シェンムー』、『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』、『世界樹の迷宮』他。

──古代さんとシンセ、そしてコルグとの出会いなどお願いします。

最初に買ったのがコルグの「Δ(デルタ)」。自分はピアノ出身だったのでポリで弾けるものがないかなと思っていたらちょうどΔを見つけて買ってもらいました。それを中学の間ずっといじっていてゲーム音楽のコピーもやっていたんですよね。ただパソコンはない、シーケンサーとかも使えるわけではなかったので、全部手で弾いていました。

高校に入ってからパソコンを買ったんです。「PC-8801」(NEC)の初代機で音楽機能がないんですよね。途中でAMDEK(現ローランドDG)という会社から「CMU-800」が出てコンピューターで簡単にコントロールして、それで『ドルアーガの塔』とか打ち込んで遊んでいました。

本格的にシンセを使ってというのは結構あとになります。それまでは「PC-88SR(PC-8801 MK II SR)」(NEC)、これでFM音源を使えるので、それでゲーム音楽を作るようになってFalcomに応募しそのまま入社して『イース』とか『ソーサリアン』とかを手がけるようになるんですけど、パソコンでヤマハのチップ(「YM2203」)で音楽を作るっていうスタイルで2、3年やっていたんです。

とは言ってもだんだん音楽をもっとゴージャスにして行きたいと思うようになって、知人に相談したら「コルグのM1がすごく良い」と薦めてもらって、鍵盤タイプのを購入したんです。なのでほぼセカンド・シンセもコルグでした。


──古代さんはパソコン音楽の黎明期から関わっていらしたとお聞きしていますが、そもそもゲーム音楽の開発とはどういう形でプログラムするのでしょうか。

ゲームのプログラムをするのとあまり変わらなくて、要するにサウンド・ドライバーを作らないといけないんです。


──今日は「opsix」の取材なのでもうちょっとFM音源についてお訊きしたいのですが(笑)ヤマハのチップ音源は4オペレーターですか?

4オペです。

──今お持ちの「DX-21」(ヤマハ)などと比べて、パラメーターは同じだったのですか?

「DX-21」に関してはほぼ一緒です。ただMIDIのコントロールには限界があるし、チップは直接コントロールすると際どいことが色々できたので。モジュレーション・マトリックスの先駆けみたいなことは当時からやっていました。

最初、同時発音数はFM音源3音、PSG(Programmable Sound Generator)音源3音でした。この限られた中で曲を作るのが面白くて。私はピアノ弾きから始めているので、指が10本使えて当たり前で和音が鳴らないと大変だなと思ったのは最初ありましたけど、その頃はシンセが全くなくパソコンのキーボードで直接数値を打ち込んで作っていたので、ポリフォニックな捉え方よりもモノフォニックな捉え方、一声一声どう動かすかで曲が変わってくる、そういうのが自然と身に付きました。


──そういう意味ではバロック時代の音楽と近いかも知れないですね。

対位法など学校の方は学ばれると思うんですけど、そういうのを自分で気付いてやっていったんです。どこを大事にするかっていうのが非常にセンスが関わってくる部分で。スーパーファミコンはサンプリング8声なんですけど『アクトレイザー』は当時それでオーケストラを再現したってことですごく有名になったゲームなんです。


──ピアノから始められたってことですけど、お母さまがピアノの先生でいらして、久石穣さんからも教わったとか。

母がずっと高校の教師をやっていて、久石譲さんの奥様の先生だったんです。それがきっかけで久石さんと知り合って。教わったのはインプロビゼーションなんですよね。久石さんがフレーズを弾いたら「この続きを弾いてごらん」という感じで意外と実践的なことをやっていて。今だったら学校に行けば和声とコード、リズムとかから入ると思うんですけど、知識もないところでいきなり「続きを…」って。

母はクラシックな教育で、練習曲を弾いてソナタを弾いてというように階段を上がっていく正統的な教育でした。


──SNSなどを拝見していると「今日これを打ち込みます」とかテキパキとやられている印象で、思いつくことをすぐに具現化されているのを見るとその頃との繋がりを感じました。

やろうと思ってやっているのではなく、無性に作りたくなって作るみたいなそういう瞬間があるんです。仕事で曲を作っているとどうしても辛くなってきちゃって、そういうとき息抜きしようと思うんですけどコロナ禍でそうもいかないので、シンセをかき集めて色々なサウンドを作ったりして、そういうのが息抜きなっていて。

──ハードを買い直しているのはどんな気持ちからですか?

一番の理由はハードって個性があるんですよ。ずっとパソコンで曲を作ってきた反動ももちろんあるんですけど、ソフトシンセってどんなシンセを買っても出音が一緒っていうか。前に保存したものをパッと読み出して作業に取り掛かれるスピーディなところは非常に良いんですけど、あまりクリエイティブな部分が感覚的に直結しない。ひたすら画面に向かって曲を作っていて、そういう部分と個性というのが突き詰めて行けば行くほどハードの音の良さ、特に昔のものは部品が良くないけどそれを工夫して一所懸命良い音を出しているとか、そういうクラフトマンシップが存分に発揮されているのがハードだと思っています。


──お気に入りの機材を教えてください。

「M1」を一度売ってしまったので、「M1R」を買い直しました。「M1」のソフト(旧KORG Legacy Collection、現KORG Collection)ももちろん買ったんですけど、ソフトをディスるわけではないんですが(笑)当時の思い出と音が違うんですよね。確かに同じ音だけど立体感が全然違うよなとか。それもあって「M1R」を買ったら昔の記憶が蘇るんです。なので「M1」を使った曲を作るときは最初ソフトで型を作ってレコーディングのときにハードで差し替えたり、今でもやっています。ソフトはカードが全部入っていたりする便利さはありますよね。

──「opsix」を触ったところでいかがでしょうか。

ヤマハのチップをずっとプログラミングでいじっていたから、内部構成は熟知しているんです。パッとみた瞬間にこれはオペレーターをいじれるようにしてあるな、その上のツマミは倍率を選ぶやつなんだろうなとすぐわかりました。FMの特徴的な部分が具現化されていて非常にいじりやすいです。シーケンスを回しながら音をいじれるんですよね。そういう意味ではFMでここまで表面にドーンと出してきたのはたぶん「opsix」が初めてじゃないかなと思います。オペレーターミキサーのLEDも色が変わるじゃないですか。あれも見た瞬間にキャリアとモジュレータだなとすぐにわかりました。なのでマニュアルは全然見てなくて、エンベロープだけ調べました(笑)


──マニュアルをご覧になっていないとのことで、5つのオペレーターモード(※取材はopsix v2.0リリース前)についてはわかりましたか?

もちろんあそこで切り替えて倍音がいじれるというのはすぐわかりましたけど、音のバリエーションを拡げるってことですよね。考え方が2通りあって、まずFMってサイン波でどれだけ作れるかというのがあって自分で作るときはあまり他の波形は選択しないんですよ。一方最近のソフトシンセではWavetable、Waveshapingあたりを組み込むのがトレンドである。「opsix」では後者を取り入れているんだなと感じましたが、それは自分の中ではFM音源をいじっている感じではないです。


──FMってそもそもわかりにくいので、この音を出すにはこのアルゴリズムだと経験されて身につけたものがあると思うんです。一方で「opsix」のようにノコギリ波も選べるんだ、1オペの中にフィルターもあるんだ、となると普通のアナログシンセみたいになっていて、FMで培ったよりはライトな部分になってくるわけですが、FMを突き詰める部分で何か思うところはありますか?

FMのときはFMとして作って、そうじゃないときはアディティブ+Waveshapingな感覚で作る。どっちも出来るなというか、FMもモジュレーションにしなければ6本のオシレーターが入っているアディティブで、そこに対していろんな波形を入れられるってことはフィルターも付いているしアディティブシンセと変わらないという感じ。ちょっとしたバーチャルアナログですよね。それのときはそのモードで作るというか。

私が「opsix」でFMじゃないことを最初にやってみたのはSuper SAWを作ってみようと思って、ノコギリ波をいっぱい作ってデチューンかけてできたできたって(笑)そのときは(80年代でなく)21世紀モードですね。

──2オペのソフト音源も使ってみたということですが。

2オペだと一番わかりやすいのはキャリアとモジュレーターがあって、それぞれが1個しかないじゃないですか。それを並列で繋げるか直列で繋げるかだけしか選べないんですけど、ここでモジュレーションしてここで出音の倍音を変えるっていうベーシックな部分がわかりやすいんです。それ以上オペレータがあると接続の考え方が変わってくるので、これだとアディティブだし、これだとFMだし。非常にシンプルだし意外といろいろな音が出せるんです。元々のサイン波だけでなくOPL2(※YM3812相当)になってから波形が4種類選べるので、そのサイン波を4分割したノコギリ波っぽい波形で2声使ってデチューンかけて組み合わせて分厚いストリングスを作ったりとか。それがサイン波だけだと4オペでもできないんですよ。「opsix」もそうなんですけどサイン波以外も選べるとやりやすくなる部分はありますよね。


──アナログシンセだとオシレーター、フィルター、アンプというように構成がわかりやすいですが、それが2オペだとちょっと近くなるんですかね。

「ARP ODYSSEY」も2つのオシレーターを組み合わせてFM変調をかけているやつなので昔からそういう考え方はあったと思うんですけど、それがシンプルに再現されているというか。


──音作りのプランを考える上でも面白い世界なんですね。そういったところが「opsix」の音作りにもヒントになるかも知れないですね。

「opsix」はやっぱり(オペレーターミキサーの)スライダーが良いですよ。あれで2オペにしたかったら4本絞っておけばよいので。ここで音作ってその上でこう重ねてというのが感覚的にわかりやすいです。倍音を足していくっていう、オルガンのドローバーと一緒ですよね。

──「wavestate」も使われているとのことですが。

仕事で使っているのは「opsix」より「wavestate」の方が多いですね。それは一発で弾いたときにサウンドが完成されているので。仕事って「こんなイメージで作ってください」って依頼が来るじゃないですか。そのイメージがすぐ探せるんです。背景音的なものが欲しいときはまず「wavestate」を立ち上げてプリセットを選んで、そこから作り替えていく感じです。これでも私は結構プリセット派なんです(笑) 音作りをいっぱいしてきたように見えて、でも仕事になると相手が求めているイメージはこれだからというのを選んでそこから作っていくというやり方です。自分で音作りを始めてしまうと無限に時間を消費してしまう。音を作っているだけで面白くなって曲作成までいかないので。

「wavestate」はイメージが拡がるサウンドがいっぱい入っているので、仕事で使いたいなと思ったんです。それまでの流れとは違うものをコルグが出してきたところも良かったので、なんとか早く触りたいなと思って佐野(電磁)さんに連絡したらデモ機を借りられることになって。


──中に入っているリズミックなサウンドが琴線に触れたんですかね?

昔、実は「WAVESTATION AD」も持っていたんです。当時からwave sequenceは好きだったんですが、自分の好きなイメージを反映させるのにやっぱり細かい制御をしないとならないんですよ。当時のインターフェースだとそれが大変だったんです。「wavestate」ではそれが全部パネルに出ているっていうのがまず惹かれました。wave sequenceを適当に変えているだけでプリセットの音がどんどん変わっていくからイメージしていたものを掴みやすいです。

──変えられる要素がクリエイターにはそそられるのかも知れないですね。

昔からコルグの好きなところはプリセットの出来が良いところなんです。「Electribe」とかほとんどプリセットばっかりでしたけどすごく使いましたよ。でもちょっと変えたいなってときは変えられるじゃないですか。そういう操作子が全部でている思想なんかがずっと受け継がれていますよね。


──「wavestate」を使われるときはDAWに取り込んでいるんですか?

例えば最初サンプラーでビートを作っておき、そこに合いそうなものはないかなと探して重ねUSBでテンポ同期して録音しています。そういう作り方もありますし、できているものにちょっとアンビエンスを加えたいなという時でも当たり前にシンセパッドを入れるんじゃなくて、「wavestate」みたいにカオスなものが入れられるかも、と弾いてみて「はまったな」となったら録音して使っています。


──ありがとうございました。

古代祐三氏による即興トラック制作