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2021.10.22

阿瀬さとし(文)「SoundLink」〜ライブや楽曲制作で欲しかった機能とアイデアが的確に詰め込まれたミキサー

フィジカルかつ直感的に使えそうだなと

今回レビューさせていただくのはアナログ&デジタルのハイブリッド・ミキサーSoundLink MW-1608です。昨年にKORGさんからミキサーが発売されると聞いて、フルデジタルで電子楽器のような近未来的なデザインの製品を想像してました。ショールームで実際に見てみるとフェーダーやノブの配置など馴染みあるアナログ・ミキサーのパネル・デザイン。シンプルな構成で複雑な断層をだどる必要もなく、これはフィジカルかつ直感的に扱えそうだと感じました。SoundLinkはグレッグ・マッキー氏とピーター・ワッツ氏が開発に携わっているとのことです。 ライブ・パフォーマンスでSoundLinkをどのように使用するか。サウンド・クリエーター目線でご紹介いたします。

自身のライブ・システムは・・・

僕のライブ・システムですが中核となるのはAbleton Liveを起動した2台のMacBook Pro。用途ですが1台がメイン・トラック再生用、もう1台がノイズなどのSE出し用となってます。それらをオーディオI/O経由でステムで出力し、1台のミキサーに入力しています。ミキサーでは各トラックのボリューム、EQ調整とハードウェアを使用したエフェクト処理をステージ上で行います。SE出し用のコンピューターはキーボートとMIDIコントローラーで操作(演奏)するのですが、シーケンス用は本番の再生中ではほとんど触ることがありません。DAWのミキサーやEQよりアナログ・ミキサーほうが操作の際のレスポンスが早く、しかも視認性も高いです。あとコンピューターはちょっとした操作ミスでメイン・トラックの再生が止まって大事故になりかねないので、どうしても繊細な扱いになってしまいます。その点アナログ・ミキサーでの操作だとコンピューターには一切影響を与えないので、ステージ上で思い切ったアプローチができます。これはライブ・パフォーマンスにも大きく影響しますね。

MW-1608を導入してみて

ステレオ・チャンネルは2機のマイク・プリアンプを搭載

MW-1608はステレオ・チャンネルが4系統用意されています。さらにMW-2408は8系統も用意されています。ステージで電子楽器を多く扱う際ステレオ・チャンネルがすぐに埋まってしまうので、これは非常に助かります。そしてステレオ・チャンネルは2機のマイク・プリアンプを搭載。プリアンプ1機を分散しステレオにするのと違い、ゲイン落ちせずにサウンドをキャプチャー可能です。これによりシンセやリズムのミックス・トラックなどのステレオ・ソースを非常にクリアな状態で再生することができます。この価格帯のミキサーでは驚きです。

ピーター・ワッツ設計のコンプレッサー

ch1~8にはピーター・ワッツ氏が設計したワンノブ型コンプレッサーが備わっています。ベーストラックで試してみるとノブを少し回すだけで音が前に出てくる印象。さらに回していくと中域がリッチになっていき存在感が増していきます。アタックタイムは早めに設定されていて突発的なピークもしっかり抑えてくれます。ただ音の芯は潰れずに保たれており、絶妙なアタックタイムとなっています。そしてオート・ゲインなのでとても簡単に扱えます。あとウィスパー系のボーカルに深めにかければオケ中で埋もれずにしっかり存在感を出すこともできます。

音楽的な響きを与えてくれるEQ

チャンネル・ストリップに備わってるEQですが非常に効きが良いです。ch1~8が3バンド(MIDは250Hz~5kHz可変)、ch9/10~15/16には4バンドが用意されていて、こちらもワッツ氏が設計したもの。可変帯域が理にかなっているのでしょうか、僕のようなサウンド・クリエーターにも手に取るように音の変化が感じられます。ローカットもしっかり切ってくれますね。ブースト方向で使用しても良い意味で色がつくようで音楽的な響きを与えてくれます。まるで楽器のような感覚で扱えそうです。レコーディングではボーカルやドラムなどビンデージ系のEQを音作りに使いますが、そういった用途でも積極的に使用できそうです。あとノブのデザインですが深い溝がはいっていて、とても回しやすくステージ上でも繊細なEQ調整ができます。

指にしっかりとフィットするフェーダー

フェーダーのデザインもとても良くできており、指にしっかりとフィットします。長さと重みもちょうど良くて楽器を演奏しながらの操作でも狙ったレベルにしっかり止めることができました。僕はステージ上でギターを弾きながらミキサーを操作するので、これは非常に有利な点となります。

ミュート機能も充実

ミュート機能も大変優れています。チャンネル・ストリップに備わってるMUTEボタンですが、ノイズが一切入らず滑らかに音を消してくれます。ライブではトラックのミュートを多用するのですがタイミング次第では不自然に途切れたりノイズが入ってしまう事が多かったので、これは非常に嬉しいです。ここは開発段階で大変苦労されたとのことです。
さらにミュート・グループが備わっていて、4つのグループにミュートしたい複数のチャンネルを登録できます。例えばリズムやシンセ、ストリングスなどの上モノなどグループ登録し、それらを一括で抜き差しが可能となります。これによりブレイクやダブ的なアプローチによる曲の展開をミキサーの操作で作ることができます。

グループバスで外部機器との連携もスムーズ

グループバスも4つ用意されていています。さらにリアパネルにはグループアウトが備わっていて、ここではアナログ・セクション後段のデジタル領域は通らず出力されます。ここでグルーピングされた音を外部エフェクトで処理し、ミキサーの空いているステレオ・チャンネルへもどしてさらに内蔵エフェクトもかけられます。ステムミックスとしてのアプローチが簡単に行えます。あとリズムトラックをSoundLinkのワンノブコンプとEQで積極的に音作りして、PAの方では箱鳴りに適したダイナミクスやリバーブ処理を任せたい時などドライ信号を別回線で送ることができますね。

扱いやすいデジタル・エフェクト

デジタル・セクションの内蔵エフェクトですが、特にリバーブは奥行きがありつつ存在感のあるサウンドが聞けます。最近で多いクリアで解像度の高いものではなく、ひと世代前のデジタルリバーブのように楽曲に馴染みつつもしっかりと世界観を作ってくれる印象。ここもクリエーターにとって非常に扱いやすいと感じました。僕は楽曲制作でリバーブを多用するのですが、ライブ・トラックでは会場の響きを想定しリバーブ成分は少なめにしています。リバーブ感がもう少しほしい時はPAの方で足してもらう事が多かったのですが、これもSoundLink内蔵のデジタル・リバーブで対応できそうです。
あとU2のエッジの使用で知られるデジタルディレイKORG SDD3000をモデリングしたパッチ「Delay SDD3000」が用意されています。そのサウンドはまさに!って感じで熱くなりました。これだけでもSoundLinkを導入したくなります!

総評として

ライブや楽曲制作で欲しかった機能とアイデアが的確に詰め込まれ、これからさらに需要の高まるであろうライブ配信でも活躍するミキサーとなりそうです。10chほどで気軽に持ち運びできるサイズのモデルもあれば、さらに嬉しいですね。

阿瀬さとし

2006年アコトロニカ・ユニットCojok(コジョ)結成。2010年、音楽プロデューサー佐久間正英氏に見いだされ、氏主催のレコード会社より作品をリリース。その後はタイムドメインスピーカーを用いた10.2chサラウンド・コンサートの主催、サウンド&レコーディングマガジンによる企画「Premium Studio Live Cojok+徳澤青弦カルテット with 屋敷豪太、根岸孝旨、権藤知彦」に出演。そこから頭角を現し、数多くのCMや劇伴などの作編曲を担当する。2019年は映画「おかえり、カー子」(湯浅典子監督、小島梨里杏主演)の音楽を担当し、主題歌を飛澤正人氏が3Dミックスを手がける。2020年はポカリスエットCM「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇の音楽を担当。
最新の活動は自身のユニットCojokと岸利至、酒井愁からなるユニットTWO TRIBESとのコラボレーションによる新作「MeteM」が2021年11月24日(水)にOTOTOYよりリリースされる。

Cojok Official Site
http://cojok.net