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2020.02.14

AAAMYYY(Tempalay)「minilogue & VOX Continental」インタビュー Powered by CINRA.NET

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.42 Powered by CINRA.NET
AAAMYYYが語る、Tempalayに入るまでの道のりと正式加入の理由

インタビュー・テキスト: 黒田隆憲  撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
 


時空がねじ曲がったような摩訶不思議なサウンドと、とびきりポップなメロディによって国内外に数多くの中毒者を生み出してきたバンド、Tempalay。彼らの最新アルバム『21世紀より愛をこめて』が、6月5日(注:インタビューは2019年5月に行いました)にリリースされました。本作は、これまで彼らが得意としてきたサイケデリックなアプローチを基軸としつつも、1990年代ネオソウルや1980年代シティポップ、1960年代プログレッシブロックなど様々な要素をちりばめ、これまで以上に振り幅の大きな作品になっています。

そして、その多彩な音楽性の一端を担っているのが、活動初期からサポートキーボーディストとして彼らを支え続け、昨年7月に正式メンバーとして加入したAAAMYYYさんです。KANDYTOWNの呂布やTENDREのサポートメンバーとして華やかな存在感を放ち、ソロアーティストとしては、どこかノスタルジックで幻想的なアルバム『BODY』を今年2月にリリース。他にもDAOKOへの楽曲提供やCMソングの歌唱、モデルなど様々な分野で活躍する、新世代オルタナティブの重要人物である彼女の生い立ちやクリエイティブに迫りました。

こちらの記事はCINRA.NETでもお読み頂くことができます。

Tempalay(てんぱれい)

『FUJI ROCK FESTIVAL'19』出演!アメリカの大型フェス『SXSW』を含む全米ツーや中国・台湾・韓国でアジアツアーを行う等、自由奔放にシーンを行き来する新世代バンド「Tempalay」。2015年9月にリリースした限定デビューEP『Instant Hawaii』は瞬く間に完売。2016年1月に1stアルバム『from JAPAN』、2017年2月に新作EP『5曲』を発売。2017年夏にGAPとのコラボ曲“革命前夜”を収録した2ndアルバム『from JAPAN 2』をリリース。2018年夏、AAAMYYY(Cho&Syn)が正式メンバーに加わり、新体制後にミニアルバム『なんて素晴らしき世界』をリリースし各方面から高い評価を得る。西海岸周辺の海外インディーシーンを感じさせる新世代脱力系サウンドに中毒者が続出中。

中学時代から「マルチプレイヤー」だった
 

自然が豊富な長野の川上村で育ったAAAMYYYさんは、火起こしや魚釣りなどアウトドアな遊びを満喫しつつ、小1から中3まで近所のピアノ教室に通っていました。

AAAMYYY :姉が2人いるんですけど、姉がピアノを習っていて、私はそれに便乗する形で始めました。姉は天才肌で、楽譜を見るだけで弾けちゃう数学脳。私は楽譜があまり読めなくて、指の位置と音で覚えるタイプでした。当時は趣味程度というか、「弾けたら楽しいな」くらいの気持ちでやっていましたね。

 

AAAMYYY(えいみー)
2018年夏、Tempalayの正式メンバーにCho&Synとして加入。新体制後にミニアルバム『なんて素晴らしき世界』をリリースし各方面から高い評価を得る。西海岸周辺の海外インディーシーンを感じさせる新世代脱力系サウンドに中毒者が続出。アメリカの大型フェス『SXSW』を含む全米ツアーや中国・台湾・韓国でアジアツアーを行う等、自由奔放にシーンを行き来する新世代バンド。6月5日にニューアルバム『21世紀より愛をこめて』をリリース。

 


好きで聴いていた音楽はMr.ChildrenやCARPENTERSのようなポップスで、中学に入るとピアノ以外の楽器にも挑戦。学園祭で『スウィングガールズ』(2004年公開の映画、監督は矢口史靖)のカバーをやったときはドラムを担当しました。さらに高校の軽音楽部では、ベースやギターなど一通りマスターし、すでにその頃からマルチプレイヤーぶりを発揮していたそうです。

AAAMYYY :決して上手いわけではないんですけど、いろんなプレイヤーの気持ちを知りたかったんですよね。「ベーシストは、こういうアプローチが難しいんだな」とか、一応知っておいた方がいいのかなと思って嗜む程度に覚えました。そのときの経験は、今の楽曲制作やアレンジにも生かされていると思います。

DTMを本格的に始めてからは、どちらかというと宅録の方が好きでした。バンドの場合はみんなのスケジュールを合わせなきゃいけなかったり、色々大変じゃないですか(笑)。バンドの楽しさを感じるようになったのは、「AAAMYYY」名義でデビューしてTENDREやTempalay、バンドセットのRyohuに参加するようになってからかもしれないです。

 



キャビンアテンダントを目指した時期、ユニット活動を経て、ソロアーティストへ
 

高校を卒業し、外語大学の通訳翻訳課程へと進んだAAAMYYYさん。エア・カナダのキャビンアテンダントを志望し、3年生のときには1年休学しカナダのCA学校へ留学します。

AAAMYYY :英語を好きになったのは、地元の英語塾に通ったことがきっかけです。今にも崩れそうなボロボロの教室だったんですけど(笑)、そこの先生がすごく好きだったんですよね。英語は、勉強すればするほど点数が伸びるし、成長が目に見えてわかるのも楽しかったのだと思います。

カナダに留学中、GarageBandをたまたま触ってみたことで、音楽制作の楽しさを思い出したAAAMYYYさん。帰国するとすぐにKORGのシンセサイザー「microKORG XL+」を購入します。

 

KORG「microKORG XL+」



AAAMYYY :GarageBandがあれば、たとえばバンドを組んで「ここはこうやって演奏して」みたいな指示をメンバーに出す必要もなく、1人で全パートを録音できちゃうことに感動して(笑)。その頃はループを用いた3分くらいのインストを作って遊んでいました。

エア・カナダのキャビンアテンダントになるには「3年以上の就労経験が必要」ということだったので、とりあえず大学卒業後は英会話教室の教師として就職したんです。でも、その頃やっていた「GO RETRO」という2人組ユニットで事務所に所属することが決まって。正直、音楽を仕事にするのは迷いがありました。収入も不安定なので親も心配するし。ただ、父親がすごく音楽好きで、自分がバンドで夢を叶えられなかったぶん、私のことを応援してくれたんですよね。

事務所の育成期間に入り、「GO RETRO」の活動を積極的に行っていたAAAMYYYさん。しかし、もう1人のメンバーが大阪へ行ってしまい、解散を余儀なくされます。

AAAMYYY :解散したのは2014年で、活動期間は1年くらいでした。割と大きな船に乗れたと思っていたので、ショックでしたね。でも、音楽をやりたい気持ちは変わらず強かったので、すぐ体勢を整え2015年からeimie名義でユニットを結成して。当時はYkiki BeatやThe fin.、yahyelなんかが登場して、私もすごく感銘を受けていました。『出れんの!?サマソニ!?』への出演も決まるなど、活動に手応えは感じていたんですけど、やっぱり、他人と曲を作るのは大変だな……と(笑)。ポジティブな意味でのインスピレーションが得られなかったり、当時は自分も若くて未熟だったから、ストレスでわーっとなってしまったりすることもあって。結局1人で活動することにしたんです。

 

eimie時代のインタビュー記事(「 同世代のeimieが語る、SuchmosやD.A.N.らが若者に愛される理由」(CINRA.NET))より

 


2017年から「AAAMYYY」を名乗り、同年『WEEKEND EP』『MABOROSHI EP』『ETCETRA EP』の3作をカセットテープと配信で発表しました。歌詞も日本語となり、2月にリリースした最新ソロ作『BODY』では、SF的なコンセプトを打ち立てつつ、自らの宗教観や死生観などを表現するようになります。

AAAMYYY :本を読むのも好きですし、あとNetflixにはかなり影響を受けています。音楽がいいとか、ストーリーに説得力があるとか、謎解きが面白いとか、感情論で終わらない理屈にかなったものが好きですね。地上波ではコンプライアンスがあって表現できないような内容も、Netflixでは挑戦していたりして。そこから触発されて歌詞を書くことは多いです。

 



Tempalayへの正式メンバーとして何度も誘われるも、あるときまでは断り続けていた
 

そんなAAAMYYYさんが、Tempalayのサポートを務めるようになったのは、彼らが2015年に初めてリリースパーティーを行ったときでした。その前からライブハウスで対バンしたり、古着屋で遭遇したり、偶然が重なっていたそうです。

AAAMYYY :曲もすごく好きだったので、最初はサポートとして「やります!」って。ドサ回りのようなライブをしていた頃から一緒にいたので、もう家族みたいな感じですよね。何度か正式メンバーにも誘われていたんですけど、当時の彼らは全然しっかりしていなかったから、みんなが「売れるためにちゃんと頑張る」って覚悟を決めるまでは「入りません」ってずっと断っていたんです。

 

 


そんなTempalayにとって転機になったのが、2017年の『FUJI ROCK FESTIVAL』でした。2日目の苗場食堂に出演する予定だったのですが、なんとボーカル&ギターの小原綾斗さんが前夜祭で指を骨折。ギターが弾けなくなり、急遽友人ミュージシャンが助っ人として入るという出来事があったのです。

AAAMYYY :「もう、なにしてるのだろう?……こんなバンドやめてやる」って、あのときは本当に呆れましたね。でも、「もう一回チャンスをくれ」と説得され、そこから急成長を遂げたんです。当時の私は、「彼らのお尻を叩く」みたいな役割だったのかもしれない(笑)。今はもう、マネージャーやスタッフがいるので、それは私の仕事でなくなったと思っています。曲作りでいかにいい音を出すか、メンバー同士の意識をいかに高め合うか、そういうことに注力していますね。

綾斗も(藤本)夏樹も私も、似た者同士が繋がるというより、お互いにないものを補い合っているような関係なのかもしれないです。私はTempalayから、「肩の力を抜くことの大切さ」を教えてもらっています。完璧主義で、ついついストイックになってしまいがちなんですけど、2人の自由なスタンスを見習うようになってから、自分の考え方も変わってきたなと思うんですよね。

 

左から:小原綾斗、AAAMYYY、藤本夏樹

 


バンドの中の紅一点となるAAAMYYYさんは、Tempalayへ正式加入するにあたって、その「見え方」についてかなり真剣に考えたそうです。

AAAMYYY :Tempalayに入ると決めたときは、「うまいこと私を使ってください」って言いました。女の子がバンドに入るとなると、バンドがアイドル化したり、ちょっと可愛い系のイメージが付いたりしがちじゃないですか。もちろん、そういうバンドがいても全然ありだとは思うんですけど、私はそういうスタンスではなかったので。たとえばKHRUANGBINのベーシストも、バンドの中ですごくいい立ち位置にいますよね。女を売りにしていないのに、華があってかっこいい。見え方については最初色々と考えていて、参考になるなと思いました。

 

Khruangbin、右がベースのLaura Lee

 

KORG「microKEY」と、オリジナルのステッカー



メンバーの結婚報告に対する、AAAMYYYの気持ちの動き
 

2018年7月、ついにAAAMYYYさんが正式メンバーに加わり、新体制となったTempalay。ミニアルバム『なんて素晴らしき世界』を経て、6月5日に3rdアルバム『20世紀より愛をこめて』をリリースしました。

AAAMYYY :今回は、レコーディングをしながらの制作だったんです。綾斗が作ったデモ音源は聴いていたけど、最終的に曲がどうなるかはわからないまま、ドラムとベースを先に録って、それを信頼した上でギターやシンセを重ねていくというやり方でした。仮歌の段階ではまだ歌詞が決まっていなかったので、オーバーダビング用のシンセは最後の最後に全体を見ながら入れていったんです。なので、最終的に私がどんな音を入れたのか、メンバーはミックスダウンの段階まで知らなかったんですよね。

 

 


バンドとしての一体感もありつつ、個々のパーソナリティを引き出すような実験的なレコーディング。それにより完成した本作は、『なんて素晴らしき世界』で試みたコラージュ的なアプローチをはじめ、ネオソウル的なグルーヴ、The Beach Boys風のコーラスなど新たな要素をも果敢に取り込み、唯一無二とも言えるサウンドスケープを作り上げています。中でも、藤本さんに第一子が誕生したことにインスパイアされたという“そなちね”は、無垢なものへの賛美と死への諦観が共存し、聴く者の心を揺さぶります。

AAAMYYY :実をいうと、私はミュージシャンが結婚を報告したり、恋愛している様子を公で見せたりするのは、あまりいいことではないと思っていたんです。イメージを考慮して公表していないアーティストもいるくらいなので、夏樹の結婚発表も最初は心配していたんですよね。でも、いざ発表してみたらみんなが心から祝福してくれて。公表して本当によかったなと思いました。今の私は自分の音楽が「等身大であること」をとても大切にしているんですけど、その姿勢は間違いなく、Tempalayのスタンスに大きな影響を受けていると思います。

 



話題作のミュージックビデオには、皮肉・諦観・怒りが込められている
 

また、先行リリースとなった“のめりこめ、震えろ。”は、PERIMETRONがプロデュースを担当し、山田健人(yahyel)が映像監督を担当したミュージックビデオが大きな話題となっています。

AAAMYYY :殺し合いをさせられてた子どもたちが大人に逆襲をする映画『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(2003年公開、監督は深作欣二・深作健太)からインスパイアを受けた綾斗のアイデアに沿って撮られた作品です。オープニングで綾斗がカメラを見据えて立っていますが、あれは藤原竜也さんのオマージュですね。最後にみんな死んでしまうのは、私たちがどれだけいい作品を作ろうとも、音楽業界にいる得体の知れない力に一撃で倒されてしまうという皮肉と諦観、そして怒りを込めました。

私はジャック・スパロウ(映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』より)みたいな格好で、ダッチ(山田健人監督)に「もっと顔を黒くして!」と言われながら泥だらけにしていきました(笑)。

 

 


6月6日からは新作をひっさげた全国ツアーが始まり、7月には『FUJI ROCK FESTIVAL』RED MARQUEEステージの出演が決定しています。2年前の雪辱を果たすことができるのか、今から期待が高まります。

AAAMYYY :新曲はまだ一度も人前で披露したことがなくて。それどころか、レコーディングでも全員で合わせたことがないから、音源を聴きながら自分たちの楽曲をコピーしているという不思議な状況です(笑)。もちろん、レコーディングの音源通りにやるつもりはまったくなくて、ライブ用にどうアレンジが変わっていくのか今から楽しみですね。