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2016.11.30

Herbie Hancock 〜 Interview on KRONOS & OASYS

※日本語字幕をオンにしてご覧ください。

鋭い視点と斬新さを併せ持ったクリエイティビティで常に私たちを驚かせ続ける伝説的なアーティストは数少ない。しかしハービー・ハンコックはそんな数少ないアーティストの一人であり、音楽の未知の領域を踏破できる人と言えばまさしく彼だろう。7歳でピアノを始め、自他ともに認める「機材マニア」であり、ジャズ・ファンク・アヴァンギャルドな電子音楽などを製作しながら、同時にアコースティックな楽曲の探求を続けている。

この音楽の巨人をかつてないスピードで進ませ続けるのは一体何なのか? 今回、ハービーと対談しその質問を投げかけるという貴重な機会を頂くことができた。彼は自身のアルバム”Possibilities”と、過去の作品でKORG OASYSがいかに素晴らしかったか、また音楽制作・楽曲提供等についても尋ねる機会をくれた。是非一読して欲しい。

「OASYSは様々なサウンドをカバーしていける柔軟性があって、僕もまだ模索し始めたばかりなんだ。でも一つ言えるのは、どんな音が必要になろうと、欲しい音は全部OASYSに入ってるってことさ!」

(以下のインタビューは2005年に行われたものを翻訳し、掲載したものです)
 


──あなたは最近65歳の誕生日を迎えたというのに今なお多忙を極めているそうですが、その精力的な活動のモチベーションは一体どこから湧いてくるのでしょうか?

好奇心だよ。いつだってそうさ。齢を重ねるごとにどんどん好奇心が強くなって新しいことにチャレンジしたくなるんだ。自分が生きているこの世界と自分自身をもっと良くするにはどうしたらいいか、自分を積極的に拡げていくためにはどんな新しいアイデアが必要かについて理解するのが大切なんだ。


──ジャズ・ファンク・ポップスなど多様なジャンルを横断するご自身の楽曲制作の中で、どのようにして気持ちを切り替えているのですか?

うーん、自分がミュージシャンである前に人間だっていうことをまず最初に考えるよ。ミュージシャンであることは僕が何かをした結果であって、僕自身は一人の人間だからね。僕にとってはギアを切り替えるんじゃなくて、僕がしていることの別の部分にとりかかる感じかな。

小さいころから科学が好きで、その好奇心は僕が生のピアノを弾いていても決して消えてしまうことはなかった。科学と一緒で小さいころから音楽が好きで、7歳からクラシックをピアノで弾いていたけど大学を出てからはあんまり弾いていないね。


──休んだ方がいいと思うことは?様々なプロジェクトの合間に充電期間が欲しくなったりはしますか?

毎日充電してるよ。瞑想する習慣をもう33年も続けてる。


──家で弾きたくなってピアノを弾いたりはするんですか?

全然!(笑)変だよね。たまに何か弾こうと思って座るんだけど聴かせる人がどこにもいないんだよ!自分自身のために弾くなんてばかばかしく思えちゃうんだ。長いこと音楽をやってるのにここ数年はそんな感じさ。自分のためだけに弾くなんて僕には無理だよ。


──あなたはこれまで様々なスターとの共演を果たしてきましたが、その中でも最も印象的だったのはどなたでしたか?

トップに来るのはやっぱりマイルス・デイヴィスと共演した63年~68年の5年半だね。あれは最高だったよ。あの共演の後もいくつか音源を作ったんだ。その後も彼と共演したけど、僕は彼のバンドに所属はしていなかった。映画の音楽を書くのはすごく楽しかった。色んなことを学んでその後のピアノとアレンジに活かすことができた。

これまで使ったことがない機材を使うことで、それが単純な機材であっても、とてもドラマチックで面白くてすごくダイナミックなものを作れるってことを知ったんだ。


──プロジェクト全体が一つの結実を見せるのは最高でしょうね

もちろんさ。映画音楽を作っていた時、”Death Wish”って映画なんだけど、音楽だけじゃなく管楽器の編曲:オーケストレーションにも関わったのはそれが最後だった。その時は編者を雇わなかったんだけど、みんなが「そんなの無理だ、やることが多すぎる」って言ったんだよ。僕は「やだ!やりたい!どうしてもやりたい!」って言って本当にやった。 そしてオーケストレーションをやったのはそれが最後になった。あまりにも忙しすぎたからね。

スタジオで録音した、その映画の中の「愛のテーマ」みたいな曲があって、監督がそれを聴いていた時僕は映写室にいたんだ。彼は自分の胸を掴んで「あぁ!」って言いながら、その曲を本当に気に入ってしまった。彼が本当に嬉しそうで最高だったよ。マイケル・ウィンター監督はそんな感じだった。

とにかくその仕事が終わって、泣きながら帰ったのを覚えているよ。やりきった、編曲できた、僕がやりたかったことの全てを達成した気持ちでとにかく嬉しかったんだ。それでその後バリに長めの旅行に行ったんだ。


──逆に共演したいアーティストや作品はありますか?

僕はこの人と一緒に仕事をしたいっていうアイデアが最初に浮かぶんだ。最近出した”Possibilities”なんてまさにそれだね。これは僕が尊敬しているアーティスト達とコラボレーションするシリーズなんだ。彼らと一緒になってアイデアを共有しながら何かをやったら絶対に面白いと思合ったからね。何が起こるか誰にもわからないてわくわくする、これが好奇心だ。

何人か挙げると、ジョン・メイヤー、スティング、カルロス・サンタナ、クリスティーナ・アギレラ、ポール・サイモン、アニー・レノックス、まだまだ沢山いるんだ。


──コラボレーションするアーティストはどうやって選んだのですか?何か基準や共通のものがあったのですか?

繰り返しになるけど、彼らは僕が尊敬する人たちで、僕が好きな音楽をやっていて、そして天才的な人たちなんだよ。アーティストは売れた時、その音楽やスタイルでカテゴライズされるんだ。音楽業界は彼らをそうやってバンバン売り出していくし、彼らもそのカテゴライズに積極的に乗っかっていく。ジャズプレイヤーとしてなら僕はいくらでも好きなことができるけどね。そういうのに否定的な人たちや商業的な面を求める人達がいるから、僕はそうやって自由にやりたいことをやれるように何度もトライしてきたし、なんとかそれができるようになった。

でもポップミュージックを作ってる多くの人はそんなことができるチャンスがないんだ。大体の場合彼らは若くて、そしてそんな業界に疑問を持つ機会すらない。たまにそうでない人もいるけどね。

例えばジョン・メイヤー。彼は素晴らしいリズムギターのプレイヤーであり、同時に素晴らしいソリストでもある。みんな彼を最初に知った時は歌手として覚えられることが多いようだけど、彼自身にとって彼は「歌を歌うギタリスト」らしい。

話が逸れたけど、根本のアイデアは「こんなに色々なアーティストを集めたら何が起こるんだろう?」ってことだった。僕のこれまでの経験と、彼らの経験・新しさ・スタイル、まだ誰にも計り知れない様々なものを全て同じテーブルに載せたらどんな新しいアイデアが生まれるんだろうか?

僕はこのアイデアがこれまでにない、カテゴライズできないものを生み出してくれると思ってる。そしてそれは生まれた時に初めて何かわかるんだ。みんな僕によく聞くのは、「これはどういうアルバムですか?ジャズ?」それは違う。「これはポップス?」イエスでもありノーでもある。そう、ジャズでポップスなんだ。これは多分ジャズとポップスの境界にあって、そのどちらともはっきり言えないものなんだよ。

僕がこれをなんて呼んでると思う?音楽だよ!そう、これが僕がやろうとしてたこと――あのカテゴリーだとかこのカテゴリーだとかに自動的に決まってしまわない音楽さ。僕が欲しかったのはこういう心に響く音楽なんだ。

“Possibilities”のいいところは”iPod Shuffle世代”を取り込むのに成功したところだよ。次の曲に行くたびにまるで違う曲が流れるこのアルバムはいろんな音楽のコンピレーションアルバムみたいだからね。でもそれらは僕っていう一本の線でつながっているんだ。僕のパレットはとても幅広くて多くの領域をカバーしているから、このアルバムを聴いたときそれぞれの曲がまるで違うように聞こえるんだ。


──スタジオに入る前のプリプロダクションのようなものは沢山あるのですか?

アイデアの種のようなものを作っていくことはたまにあるし、それについてちょっと話したり弾いたりしてみることもあるよ。時にはこういうことをやろう、って決めている曲もあるけど、でもそこからのアレンジはスタジオでするんだ。 既に完成してる曲を持って来ることはないね。他のアーティストが曲を完成させて持って来ることはなかった。

僕がやりたかったのはコラボレーションであって、たった二人の人間が一緒に曲を作ることじゃなかったからね。ドラマーやベーシストやギタリスト、パーカッショニストとか色んな人が一緒にスタジオで曲を作るんだ。僕ら全員のプロジェクトにかける熱意を掛け合わせて、個々人が曲に盛り込む要素が生む副次的な効果を求めたんだ。それが最高にうまくいったんだ。 もう一つ僕がやったことなんだけど、僕はただスタジオに入って「じゃあ一曲目やってみよう!」なんていうことはしなかった。何度もスタジオに行って、サウンドエンジニアがトラックを編集している間、いっぱいいろんなことを話したんだ。

例えば、アニー・レノックスとは、政治とか宗教とか社会意識とか、社会に対するアイデアとか、人権とか、市民権とか、地球、環境、そして僕らそれぞれが一個人であることとかについていろんな事を話したんだ。


──つまりあなたは一個人として彼らからインスピレーションを受け取ったと?

そうなんだよ!それを求めてたんだ。最終的には個々人の持つ人間性が唯一の共通テーマなんだ。僕はただ曲を作ることそれ自体に対しては興味がないんだ。魂が込められているもの、みんなが人生についてどう感じているか、音楽にその人の人生を込めることに興味があるんだ。

だから僕はコルグのOASYSが好きなんだ。これはとてつもなく自由度の高いキーボードで、取り組みたいアイデアが何かあればすぐにそれを表現できる。モニター左のタブにはカテゴリが並んでいて、下にはサウンドや出力の編集ができる別のタブがある。とても使いやすいよ。勿論、より詳細な変更をするためにはマニュアルを読む必要がある。でもまずは解説を順に追っていくようなことはせずその機能を触ってみて欲しい。

最初にOASYSをツアーに持って行ったのは発売から数週間しか経っていなかった頃だった。僕が作ったヘッドハンターズってバンドでジョンメイヤーと一緒にやっていた時、ジョンメイヤーが「これ何だと思う?KORGのOASYS買ったんだ!」って言うから、「へぇ、そうなんだ?」って言ってちょっと黙ってたんだ。そうしたらジョンが夢中になって話し始めてさ。だから僕も「これ何だと思う?ここにも僕が持ってきたのがあるんだよね」って言ってやったんだ。彼は「マジかよ!」って(笑)彼は買ったばっかりだったけど、本当にすごいものだって言ってたよ。


──最初にOASYSを起動した時の印象はどうでしたか?

僕は思わずこう言ったんだよ。「何でこんなに高いんだ」って(笑)


──でもそれから実際に弾いてみて……?

今では何故かよく分かったよ。これは本物の、完成されたワークステーションだ。これにはハードドライブが内蔵されてるしCDの書き込みもできる。これには何にも勝る柔軟さがある。複数の出力端子、勿論LRのステレオ出力だけじゃない。そして複数の入力端子。色んな種類の外部機器からの入力に、OASYSに搭載された色んなエフェクトをかけることができる。多くのPCMデータが内蔵されてるし、様々な技術も搭載されてる。KARMA機能も搭載されてる。しかもこれは今現在のためだけでなく、将来的にも使っていけるように拡張性が考えられてる。オープンアーキテクチャだからアップデートすれば新しく開発された機能をどんどん拡張して追加していくことができるんだ。


──これから使うに当たって特に注目している機能はありますか?

パノラマサウンドにすごく興味があるね。あとは4チャンネルのクワドラフォニックサウンドとか、7つの出力で7つのスピーカーを鳴らせるのとかも興味がある。コンビネーションを弾くと別々のパートを複数のスピーカーで出力して、巨大な3次元のサウンドを作り出すんだ。OASYSはそういう使い方をするために作られているんだ。将来的にも更に開発が進んでこういう使い方がより洗練されたものになっていくと思うよ。


──楽器としてのOASYSの良さについてはどうでしょうか?

なによりもまず鍵盤の感触がとてもいいね。僕は7歳からピアノを始めたけどシンセサイザーは33歳まで弾いていなかった。ピアノ奏者としては鍵盤のフィーリングは楽器として何よりも大切なものだと思う。OASYSの感触はとてもしっくりくる。あらゆる音に対して確かなコントロールができるし、ダイナミックレスポンスも欲しい通りに得られる。

次にあげるなら、ソフトウェア音源とPCM音源のバラエティーの豊富さだね。何から何まで揃ってる。聴いたこともないような新しい音も山ほどあって時間がいくらあっても足りないくらいだよ(笑) トラディショナルな音もすごく良い音が入ってる。ブラスなんてまるで本物だし。ボーカル音源の完成度にも驚いた。最近サンプルライブラリーを使い始めたんだけど、限定的なフレーズじゃなく汎用的なボーカルサウンドが欲しい時にOASYSのライブラリーならしっくりくるんだ。

他にもまだある。僕はストリングスは柔らかめの音が好きで、甲高い音の大規模なアンサンブルはあまり好きじゃないんだけど、小さくて瑞々しい、表現豊かなストリングス音がOASYSにはあるんだ。プレイヤーとして僕はこの内蔵音源が大好きなんだよ。 ヘッドハンターズのバンドでのリードサウンドで使ってるこのAna/Brass Leadって音色、後で知ったんだけどAL-1 Analog Synthesizerの音なんだよね。聴いてみても弾いてみてもアナログシンセそのもので、レンジ内のどこでも強烈で気持ちがいい音がして、しかもパンチの強さは本物だ。 OASYSは沢山の音を自由にカバーできて、僕もまだ模索し始めたばかりなんだ。でも一つ言えるのは、どんな音が必要になろうと、欲しい音は全部OASYSに入ってるってことさ!


──KARMAをはじめとして他にもコルグの製品を長年お使いですよね?

TRITONもね。そうそう、沢山使ってるよ。


──コルグ製品のどんな所が魅力的ですか?

一つ挙げたいのが楽器の特徴かな。便利な特徴をいつも探しているんだ。すぐには便利に見えない機能も時間をかけてじっくり考えると新しい使い道を思いつく。最初全く想像しなかったようなものがね。楽器が僕のクリエイティビティにスパークを起こしてくれるのがいい。僕はそういうのが好きなんだ。

そしてもう一つ僕にとって大事なことがある。それはコルグで働いいている人たちの姿勢だ。彼らは製品への意識だけでなく、それを使うプレイヤーに対しても意識を向けている。そして更に大きなスケールで、音楽を愛する人に対しても意識を向けているんだ。

つまり彼らは音楽とその文化がこれからどう展開していくかについて対して考えているんだ。時には問題が発生することもあるけど、それに回答したり対応したりする際の、この会社の真摯な姿勢を尊敬している。 多くの人は今自分が使っているシステムを使い続けたいけど、そこにはしばしば互換性の問題が出てくる。そんな時もコルグの人たちは何かあればすぐに助けてくれるし、抱えている疑問もすぐに答えてくれる。


──そういえばヘッドハンターズといえば、あなたは最近ヘッドハンターズ’05を結成してボナルーフェスティバルで演奏したそうですね?

テネシーのロックフェスだね。僕のプロジェクトのマネージャー達が、どうやったのかボナルーフェスティバルの運営の人達とコネができてね。彼らは僕がボナルーフェスティバルに出れるようにいくつかアイデアを出してくれた。その中であったのが、ヘッドハンターズの名前は今でも若い子に知られているって話。結成時には彼らはまだ生まれてなかったのにね。

いくつかの曲は他のアーティストにサンプリングされていて、そうやって何故か名前が残り続けてるらしい。多分ヘッドハンターズを聴いてたのは彼らの親世代じゃないかな。あの頃はジャズとファンク、あるいはジャズとポップスの進化の歴史の一幕だった。僕がヘッドハンターズを結成したのはそんな時で、ジャズとファンクのグルーヴを合わせてみようっていう新しいアイデアだったんだ。

ボナルーフェスティバルの運営にとってもこのヘッドハンターズ再結成はいいアイデアだったみたいだね。ヘッドハンターズ’05って新しい区切りみたいだしね。アコースティックミュージシャンのハービーハンコックであり、電子楽器のヘッドハンターズでもあるっていう意味合いが込められてるのは僕もいいと思った。ポップシーンと重なる部分もあり、即興演奏のジャムバンドのシーンとも重なる。そしてそのジャムバンドっていうコンセプトはボナルーフェスティバルのコアになる部分でもあるんだ。僕らは古い曲も新しい曲もやったよ。

ジョン・メイヤーにも参加してもらったよ。みんな彼と一緒にやりたかったからね。彼も僕らのバンドに入りたかったし、それもソロアーティストとしてではなくバンドとしてやりたかったんだ。だから僕もバンドメンバーとして彼を迎えた。勿論観に来た人たちは彼を見てびっくりしていたし、しかも彼がすごくロックだったことにも驚いていた。彼は最高だったよ!彼はノリノリで”Stitched Up”を歌ったんだ。これから”Possibilities”に収録されることになってた曲をね。あれもすごく盛り上がったよ。

僕らが演奏している間、観客はみんなおかしくなってしまったよ!みんな叫んだり泣いたりしながら僕の名前を呼ぶんだ。僕らが持ち時間を終えてステージから降りた時彼らはアンコールをしたんだ。なんとかOKをもらうことができてまだやってない曲をやったよ。

ボナルーフェスティバルに初参加するアーティストとしては異例の持ち時間で演奏できる機会をもらえて嬉しかったよ。あれは彼らにとっても新しいアイデアだったと思う。ヘッドハンター’05として演奏するだけでなく、そこにいた他のグループと一緒に色んな事が出来たのもいい機会だった。最終日にWidespread Panicと会ったんだけどあれも楽しかった。テントでQ&Aコーナーをやったり、その後カルテットと一緒にジャムセッションをやったりもしたよ。


──音楽のダウンロード論争についてはどう思いますか?

後手後手になってしまっているね。そしてもうダウンロードが始まる前の頃に戻ることはできないよ。誰でも音楽をダウンロードできるってアイデアはいいと思う。新しい技術がどんな影響を与えるのかについて、その全てを答えることは誰にもできない。

僕がこういった課題に対してやっていることの一つに、新しい流通のパートナーを探すことがある。だから僕は"Possibilities"を出すためにスターバックスと契約したんだ。スターバックスの落ち着いた空間って、CDを買って聴くには素晴らしい環境じゃない?スターバックスは1000店舗以上あるけど、置いてあるCDは片手で数えられるくらいしかない。スターバックスはこれから音楽販売のプロモーションを大々的にしていくけど、ダウンロード販売の文化が続く限り、僕はきっとこのプロモーションは次第にいかに気持ちよく音楽をダウンロードする環境を作るかの方向にシフトしていくと思ってる。そしてその路線はきっと変わらない。これは時代の変化なんだ。

誰かが言ってたけど、無料ダウンロードの音楽ってアイデアも同様で、無くなることはないと思う。アーティストが収入を得るための方法はそういう時代に適応して進化していかなければいけない。あんまり詳細は話せないけど、今僕はそこをどうしたらいいか考えてる。何事も一歩一歩進んでいくものだから、僕もまずは将来の音楽業界を支える新しいビジネスモデルに向けて最初の一歩に取り掛かってるんだ。


──アーティストシェアについてはどう思いますか?

アーティストシェア創始者のブライアン・カメリオとそのことについてよく話すよ。僕も自分のサイトを音楽をダウンロードしたりインタビューや解説なんかを提供していけるようなサイトにしたいと思ってるよ。スターバックスで僕のCDを売るような感じにね。

ただもう一つ僕がやってみたいのはダウンロードと海賊版に対する新しい技術だ。一つはライブを全部録画してそれをライブに来たファンにあげるんだ。それかチケット代に最初から含めてしまう、つまりチケットと一緒にCDを売ることになる。


──それは絶対みんな喜びますね!

プリンスがやってるんだ。すばらしい、天才としか言いようがないアイデアだ。彼は自分のCDを全てのコンサートで配布していた。でも僕が考えてるのはちょっと違って、全コンサートを録音して毎週一つずつ売っていくんだ。それかWebで配布してもいい。


──若いミュージシャンに何かアドバイスはありますか?

ある。最初にこれを言わせてくれ。音楽を形作るのは機材ではなく、心の底からの正直さ、真摯さからくるものなんだ。何かをしてあげたい、っていうような人間らしさ、人間愛の視点から音楽を作るっていうことだ。

二つ目はそういう人間らしさが音楽を形作っていることに気が付くことだ。速弾きが上手いとか、機材に詳しいとかじゃない。音楽っていうのはそういう所よりももっと深いところにあるんだ。音楽は人生について語ることで、そしてそこにこそ人間性が関わってくるんだ。それは学校に行って音楽の勉強をしたり、それはそれで大事だけど、でも絶対に「ミュージシャンである」ってことを忘れないでほしい。

もし君が人間らしさとダイレクトに繋がったとしたら、きっとものすごい新しいアイデアやブレイクスルーが浮かんできて、それは誰かが作ったような道とは全くことなるアプローチになると思うんだ。そうやって自分らしい道を作っていくことが大事なんだよ。


──自分の知識と経験を誰かと共有したりしたい、あるいはする必要に迫られたりはしましたか?

ずっと学ぶ側でいたいね。ただ現時点では自分の経験を誰かと共有したいと思っているよ。そうやって誰かを助けることができると自分の責務を果たしたって実感できるからね。


──今後当面は何をする予定ですか?

まずはこのインタビューを終えてランチを食べることかな?(笑)新しいアルバムももうすぐ出るし、そのためのプロモーション活動をするよ。

それとここ数年、僕の「ガーシュインズ・ワールド」を交響楽団と一緒に演奏をしているんだ。交響楽団と一緒にやるっていうことから管弦の編曲もやってる。これからもっとオーケストラのコンサートが増えるといいよね。でも、それに加えて僕は電子音楽、例えばサンプラーとかを組み合わせてアコースティックな楽器とオーケストラを合わせた新しい音楽をやってみたい。そこに生まれる新たな可能性を組み上げていくような活動がしたいかな。


──“Possibilities”が発売されるのはいつ頃ですか?

8/30だよ(注:2005年8月30日)。スターバックスだけじゃなく普通のCDショップにも並ぶ。ワーナーブロスから世界中のブリック&モルタルにも並ぶよ。


──楽しみにしてます!

このアルバムでもOASYSを使ったよ!ギリギリ間に合ったんだ!

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