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2016.04.08

OTOTOY DS-DAC-10R+AudioGate 4レビュー

アナログ・レコードの音質をDSDで真空パック

OTOTOYプロデューサーでもあり、レコーディング・エンジニアとしてもDSDの第一人者、 高橋健太郎を迎えて、KORG「DS-DAC-10R」「AudioGate 4」によるアナログ・レコードの DSDレコーディングを通して、アナログ・レコードとDSDやハイレゾ・データの、 「楽しく」「便利な」、新たな関係をここで紹介。

写真:雨宮透貴

こちらは 2016年3月ototoy.jpに掲載された記事の一部を再掲したものです。

まずはセッティング、とにかくシンプルで簡単

左の2つはライン出力でLRのそれぞれのパワード・スピーカーへ、そしてPCへと繋がれるUSBを挟んで、右側のRCA端子はターンテーブルからのフォノ入力、そして一番右がアースの接続してあるGND端子

セッティングも、とにかく「簡単」というのが、その印象だ。各種ドライバなどインストール、「DS-DAC-10R」をPCにUSB接続、「AudioGate 4」を立ち上げアクティヴェート。あとは「DS-DAC-10R」の背面入力に、ライン・ケーブルでソースを入力すればこれだけで基本的にはDSD録音可能だ。例えばレコードとともに最近人気の出ているカセットなども、カセット・プレイヤーのライン出力をこちらに繋げばDSDレコーディングできる。
 
今回はアナログ・レコードのレコーディングということでアナログ・ターンテーブルから入力となる。「DS-DAC-10R」のひとつの特色でもある背面の入力端子は、通常のライン入力との兼用でフォノ入力端子が搭載、アースをつなぐGND端子も搭載されているので、ターンテーブルからの直接の入力が可能となる。ということで、ここにターンテーブルからの出力とアースを接続、最小のセットで言えばこれで録音可能。モニターにはパワード・モニター・スピーカーを用意しライン出力につないだ。

 
解説 : アナログ・ターンテーブルの出力信号は、ほとんどの場合、見た目(RCA端子)はライン出力と同じだがその音声出力が小さいため、通常のライン入力に入力すると、音声信号が小さく、また後述するRIAA補正というイコライザー処理を行わないと、その音を正しく再生できない。そのため、例えばアンプなどに入力する場合、アンプなどにある専用のフォノ端子につなぐか、ライン入力にフォノ・イコライザー経由でつながなくてはいけない。

今回使用した機材

前述のように、フォノ端子付きのアンプやフォノイコライザーなど、まどろっこしい接続なしでアナログ・レコードのDSDレコーディングができることが魅力の「DS-DAC-10R」。ということで、今回はアンプ+スピーカーなどのセットを組まずに、シンプルにパワード・モニター・スピーカーとPC、ターンテーブルのみというシンプルなセットで実験をしてみました。
 
DAC/インターフェース : KORG DS-DAC-10R
レコーディング/再生ソフトウェア : KORG AudioGate 4

PC : MacBookAir(13-inch, Mid 2013)
パワード・モニター・スピーカー : PIONEER RM-05 x 2
アナログ・ターンテーブル : PIONEER DJ PLX-1000
カートリッジ : PIONEER DJ PC-X10、ORTOFON concorde Elektro
ライン・ケーブル(ターンテーブル=DAC、DAC=パワード・モニター・スピーカーともに) : PIONEER DJ DAS-RCA020R

ということで、アナログ・レコードのDSDレコーディング開始

「AudioGate 4」で、若干の音量レベルのピークを確認し、あとはレコードを再生、画面上の赤い「REC」ボタンを押すだけ。曲が終わったら、録音停止ボタンを押すと、「AudioGate 4」のプレイリストにいまでき立てほやほやのDSDが並ぶ。そしてすぐに再生ボタンを押せば、レコーディングしたばかりの目の前のレコードをDSD化した音源が再生される……か、簡単すぎてチュートリアル的な解説記事すらかけません。ということで、ここからは高橋健太郎をナヴィゲイターにしつつ、アナログ・レコードのDSDレコーディングの楽しみ方、魅力、そしてKORG「DS-DAC-10R」、「AudioGate 4」に関して、紹介していきましょう。

──(OTOTOY)まず、とにかく簡単。自分の世代的な感覚だとPCとアプリを起動する以外は、インプット・レベルをちょこっといじって録音ボタンを押すだけって感じで、それこそMDとかカセットのレコーダーぐらいの感覚でアナログをDSD化できるというか。

(高橋健太郎)たしかに、手軽。感覚的にはPCオーディオっぽいんだけど、でもDSDとして出てくる音はやっぱりアナログ・レコードとカートリッジを組み合わせた感じが素直に出てくる。不思議な感じだよね。オーディオ機器の中でもいちばん対照的なふたつ、超アナログなフォノ・イコライザーと超デジタルなUSB DACが一緒になっている感覚というか。
 

画面右上の「Input Monitor」で入力を確認し、録音ボタンを押せば即DSDレコーディング開始。停止ボタンを押すと保存され下部のリストに登録されていく。また波形をみながら分割やフェード・イン / アウトなどのエデットもできる

──「AudioGate 4」と合わせるとさらにレコーダーにもなると。レコーディングして、すぐに「AudioGate 4」のプレイ・リストに並ぶ感じとかもいいですよね。

管理はしやすそうですね。「AudioGate 4」で波形をみて、聴いて、曲の頭を見つけて、うまく切って。あとは必要に応じて、それぞれの楽曲の後ろにフェード・アウトをかけたりして、並べてあげればいい感じにLPがそのままDSDとかデジタルのアルバムとして管理ができる。

──アナログだと、それぞれの楽曲を切り分けるのが大変だったりするんですが、これだと片面流しっぱなしでレコーディングして、「AudioGate 4」でエデットしてで、簡単にDSDのアルバムができてしまうという。

そうですね。

──アナログ・レコードをDSDにする意義とか魅力ってどこにあると思いますか?

僕自身はDSD以前に、10年くらい前からアナログのデジタル起こしをやっています。まずは針飛びするレコードがあったりして困ってたんですよね。針圧を重くしてうまくかけても、プチっと音が入るとか。それをレコーディングしてDAWで修正したり。まだそのときはDSDではなくPCMで。あとはすごく大事なレコードとか、アナログでしかもってないけどデジタルで聴きたいものをおこしてね。そうやってPCMに起こすというのは結構前からやっていて。ただ、DSDで録るには、いままでだと「MR-2000S」でやるしかなかった。基本的にその入力まではアナログの回路にするので、イコライザー、プリアンプからテープ・モニターで出してっていうことになるので、取り回しが面倒で。

──昔からのアナログのオーディオ・セットのレック・アウトを「MR-2000S」まで持ってきて入力するってことですよね。

そう。それでDSDで録った方がいいだろうなと思いつつも、今までやったことがなくて。でも、これは手軽にボタンを押せばDSD5.6MHzで録れるからいいなと。それにDSDで録ってアーカイヴしておけばあとから、どうにでもできますよね。DSDのままだと編集やノイズを取ったりすることができないので、ノイズを取りたいときはそれを1回、24bit/96kHzとかのPCMにして、DAWでノイズを取ったりすればいいんです。

──マスター・アーカイヴのような形にするのにDSDが1番いいということですよね。大は小をかねるというか。

はい。それが安心ですよね。

──本当にインプットを少し触ってポンッと録音ボタンをクリックするだけで録れてしまう。

カートリッジによって出力が違うから、ちょっとだけインプットに気をつけて、クリップしないようにすればそれだけでいいと思います。

──今日もモニター・システム的には最小限。オーディオは回路が短いほどいいといますが、そういう意味ではターンテーブルから「DS-DAC-10R」にダイレクトで接続できますからね。

「AudioGate」でこうやって録音できるようになったというのはすごいことですよね。いままでは「MR-2000S」という単体のレコーダーで録っていた訳ですから。それがダイレクトにPCに入るようになった。単純にアナログ・レコードを録るということ以上に、これは大きいと思います。

──確かにDSDネイティヴの録音って、PCとインターフェースだけではできなかったですからね。やはり「MR-2000S」のようなマスター・レコーダーはプロ用というか。これだとDACとしても使えて、あとはDSDのライヴ録音とかもアナログ・ミキサーからのライン・アウトを「DS-DAC-10R」に接続して、あとはノートPCがあればできないことはない。

イコライザーもレコーディングした後からかけられるし、レコーディング時にかけることもできて、まぁ、両方できるから、基本的には無しの状態でやればいいんですよね。

フォノ・イコライザー機能の切り替え機能とは?

録音時、またはエデット時に一般的なRIAAを含めて6つのイコライザー・カーブを選ぶことができる

──あとは、この機種に関して、レコーディング時にフォノ・イコライザーのカーブの規格が変えられるようなんですが、これについて簡単に説明していただければ。

RIAAというアメリカのレコード協会が定めたカーブがいまの世界の標準なんです。でも、昔のレコードには違うカーブのものもある。

──現行のレコードとかは、RIAA規格でレコードが作られていて、再生するフォノ・イコライザーもこの規格なんですね。

でも、このイコライザーの方式にまとまってきたのは1954年(RIAAは1952年に設立)頃で、それまではこの機種にも入っている“NAB”とか“COLUMBIA”とか、レコード会社の系列によって少しずつカーブが違ってたんです。すると、かけるとカーブが違うから少しこもって聴こえたり、逆に低音がなかったりしちゃうんですよね。だからそういう古いレコードをこの機材でレコーディングするときは、そのレコードに収録されているカーブの規格に適合させることができる。

 
解説 : フォノ・イコライザー・カーブ : アナログ・レコードのカッティング・マシンは、音の周波数が低くなるにつれ溝の幅を広く刻むため、そのままだと針が正確にトレースできない、収録時間が減るなどの問題点があります。そのため、カッティングされたレコードは低域を減衰、高域を強調して記録されており、再生時に逆特性のカーブで補正する。この補正を行なうものが「フォノ・イコライザー」。また、レコード・プレーヤーは出力レベルが一般的なオーディオ機器に比べて低いため、入力信号を増幅する必要があり、フォノ・イコライザーでその役割を兼ねている機器も多く、「DS-DAC-10R」では増幅はアナログ回路、イコライジングは(「AudioGate 4」による)デジタル信号処理へと振りわけている。(DS-DAC-10R公式サイトより)


──感覚的には、デジタルでいう、可逆圧縮のデコードに近いというか、共通のコードで圧縮されていた音源を、そのコードで解読して、もともとの再生されるべく音質に戻して再生する感覚ですかね。アナログの音源なんで圧縮という言葉は適切ではないですけど。

このくらいの価格でここまでやるというのはKORGさんはすごいですね。

──50年代以前の古いものを集めているレコード・マニアにももってこいというわけですね。ものによってはSP盤とか。

SP盤もそうですね。まあ、SP盤は、回転数自体が78回転じゃなくて、本当は80回転とかかなり怪しいのもあるんですが。

──DSDの音質というか、DACとしての特性はどうなんでしょうか?

DACはいままでもKORGのものを聴いてきましたが、同じ傾向のように感じます。すっきりとして少し明るい音に聞こえる。



  〜まずはクリーニングを!〜 に続く。
この続きはこちら(OTOTOYのサイトに飛びます)

 
高橋健太郎
大学在学中より『YOUNG GUITAR』、『Player』などの音楽誌でライター・デビュー。その後『朝日新聞』やマガジンハウス関連の一般紙にもレギュラーを持つ。ライターの他、音楽プロデューサー、レコーディング・エンジニアとしても活動するようになり、2000年にインディーズ・レーベル「MEMORY LAB」を設立。さらに、音楽配信サイト「OTOTOY」(旧レコミュニ)の創設にも加わった。著書には「スタジオの音が聴こえる 名盤を生んだスタジオ、コンソール&エンジニア」、「ヘッドフォン・ガール 」他。