2014.04.04
オノ セイゲン「MR-2000S & DS-DAC」インタビュー
インタビューはサイデラのスタジオで「戦場のメリークリスマス」を聴きながら行われた。
「戦場のメリークリスマス」公開から早や30年。この映画のオリジナル・サウンドトラックの録音にも関わったオノ セイゲン氏が、自ら当時の記憶を辿りながら丁寧にDSDマスタリングを行った『戦場のメリークリスマス -30th Anniversary Edition-』は、2013年11月27日にSHM-CD(※1)で発売され、さらに12月16日にはe-onkyo musicからハイレゾ版がリリースされた。そのマスタリング作業は、アナログ2トラックの音源をDSDでアーカイブするところからスタートしたとのこと。大きな仕事を終えたばかりのオノ セイゲン氏に、DS-DAC-10やDSDサウンドの魅力についてお話を伺ってきた。
※1:Super High Material CDの通称。既存のCDプレーヤーで再生可能だが、通常のCDとは別種の液晶パネル用ポリカーボネート樹脂を使用することにより、素材の透明性をアップ。マスタークオリティに限りなく近づけることにより、マスターに対する高忠実再生の意味で「高音質CD」「高素材CD」などと呼ばれる。
サイデラ・マスタリングでは、DS-DAC-10を最も使っている。
ではまず、こちらにも置かれているDS-DAC-10について。
これ、ご覧の通り(※年季の入った外見)、ここで最も頻繁に使われているDACです。「ヘッドフォン祭」(※2)でも、試聴が追いつかないほどたくさんのコンシュマー製品が各社から出てきました。コルグは一番早くMR-1(2006年発売)から、その前にも研究開発からずっと続けているっていうのもあって。
※2:「秋のヘッドフォン祭 2013」。昨年10月26日、27日の2日間、スタジアムプレイス青山にて開催されたフジヤエービック主催のヘッドホン体験イベント。近年はヘッドホンに限らず、USB-DACを始めとするオーディオ関連新製品も展示され、話題の製品を聴き比べできるということで、大変な盛り上がりを見せている。
私のレコーディングにも、MR-1000(2006年発売)で録っている録音素材やマスターが、たくさんあります。あの時期(※まだDSDが業務向けのものだった時代)でDSDでしかも5.6MHzでポータブルレコーダーというプロダクツとして存在していたことは画期的でした。なぜみんなプロのエンジニアはこれをマスターレコーダーに使わないんだろう?って思っていました。しかもファンタム付きマイクプリもついて、あの価格でしたから。今でもあれに替わるポータブルはないので2chステレオのダイレクトのライブレコーディングなどで活躍しています。そのあとMR-2000S(2008年発売)、弊社のライブレコーディング現場では、4台とか6台をシンクロしながら録ったりして、またClarityの研究発表(2010年のAESにて)にも関わらせてもらい。もっと高級なレコーダーも持ってはいるんですけど、今でもさっとMR-2000Sでアーカイブをすることが多いです。(笑)
MR-2000S x2とMR-0808U(Clarity専用8IN/8OUTオーディオ・インターフェイス)。
高級なものはどういう点が違うのでしょうか(笑)
私にとってのリファレンスはなんと言ってもEMM ADC8 / DAC8です。バージョン2と4の両方を持っていて、つなげば16トラックに対応できます。ソニーがスーパーオーディオCDを開発する際に、SONOMA といっしょにエド・マイトナーがデザインしたコンバーターですから、ばりばりの業務用ですが、その後、SACDやDSDが普及してきたので、コンシュマー用も発売していますね。こだわりとお金がある方はお薦めしますけど、値段もかなりですのでなかなか買おうという人もいないと思いますが(笑)。 DSDはとにかく正確な波形とレゾリューション(解像度)の世界です。PCM対DSDという話ではなくて、もちろん好き嫌いの話でもなくて、原音通り、正確な音、正確な波形と言ったときはDSDです。サイデラ・マスタリングには高級なものからDS-DAC-10まで、色々な(価格)レンジのものがあるわけですけど、実はDSDの場合、その音の差とはPCMのそれほどはないです。ちょっと良くするだけで値段が倍、もうちょっと良くするだけで値段が数十倍(笑) その差とは一般的な話の中ではほんの少し、と言えます。その繊細な差は、私にとっては、レコーディング、ミキシング、マスタリングをやっている立場、あるいは信号処理のもとにするには大きい方が有利です。プロのこだわりというよりは、リファレンスをどこに持ってくるかという話です。よってEMM LABのをリファレンスとして始めたということです。
オノさんがチェックに使っているセットの1つ。
その高級なEMMで作ったものをDS-DAC-10で聴いても、そんなには落ちない。これだけ色々チョイスがあるのに使用頻度は一番高いです。なぜでしょう。答えは簡単。パソコンにUSBでつなぐだけですので、どこでも作業できます。ヘッドホンの出力も業務として使用して問題ない。EMMで試聴するには、なにもついていませんからアンプから必要で、スタジオでしかできません。DS-DAC-10は、サイデラ・マスタリングでクオリティ・コントロール工程のひとつ、通し試聴してノイズを見つけたり納品データの検査をしたりするために、移動機として最も頻繁に使われています。5.6M、2.8MからPCMまで、ノイズを見つける行程は非常にシビアです。ハイレゾでは、ごく小さなプチッというノイズや、インパルス応答がスピーカーだと追いつかない場合があるので、応答性の速いヘッドホンで検査を行います(※3)。
※3:オノさんに見せて頂いたチェック用のセットは、PC、DS-DAC-10、インナーイヤーのモニターと非常にシンプル(右写真参照)。もちろんこれ以外に、本格的なオーディオ・セットで大きなスピーカーで聴くなど、あらゆる状況での細かなチェックが行われる。写真が小さいのでわかりづらいが、DS-DAC-10はボリューム位置がわかり易いよう、つまみに白いシールが貼ってある。
ヘッドホンは、スピーカーと同じように好き嫌いが非常にあると思いますが、リスナーにとってはそれで良くて、好きに選べば良いのです。仮に「明るい音がする」と言われるヘッドホンは、明瞭度が高い、輝いて聴こえる、奥行きがある、などと言えますけど、言い方を変えれば、それは、低域か超低域が不足していて、ベースラインが聴き取りにくく、シャリシャリしている、とも言えますね。その逆で「高音域が少ない」と言われるヘッドホンを言い方を変えれば、アナログっぽい、温かみがある、太い、とも言えますね。それは別の人には、こもっている、明瞭度が足りない、子音が聴き取りにくいという印象をもたれるかもしれません。このように様々なタイプのヘッドホンが、個人の経験値、趣味趣向により印象は違うのが当たり前です。私が仕事で使えるヘッドホンとはその中でも5%とか、3%くらいしかないです。つまり95%のヘッドホンは、音作りとしての色づけがされていて、音はつまりデフォルメされています。それは私にとっては音質が判断できない道具です。スピーカーも同じですけど。仮に、トランスデューサーとしてヘッドホン、スピーカーにまったく色づけがない状況で再生できるとしたら、そこでようやくDACの話ができるのですが、DSD対応のDACは、メーカーごとの個性が、PCMのDACに比較して色づけしにくいと思います。そういう意味でもDSDは再生フォーマットとしても理想的なので、支持できます。また今度出てきたDS-DAC-100は、見た目のインテリアとしてのことも考えてられていて、とてもコルグらしいと思います。
デザイン、大丈夫ですか?(笑)
あの楽器的にも美しいデザインは他のメーカーでは思いつかなかったでしょう(笑)