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2014.04.01

JiLL-Decoy association「MR-2000S」インタビュー

JiLL-Decoy association(通称:ジルデコ)

02年結成。chihiRo(Vo) kubota(G) towada(Drs)の3人が生み出すJAZZ/FUNK/R&Bをベースにしたオリジナリティあふれる楽曲と、高い演奏力によりジャム・セッションのように毎回進化していくライブ・パフォーマンスが中毒者を増やしていく。

 

2012年2月8日、JiLL-Decoy associationの新作シングル『Lovely e.p.』が、e-onkyo musicよりDSD(※1)と24bit/96kHzという2つの高音質フォーマットでの配信をスタートした。これはこの春に発売される10周年記念アルバムの先行配信という形を取りながら、CDとは違う音源フォーマットというだけでなく、異なる過程を経て制作されたものとなっている。アルバム・リリース時には両者の聴き比べも楽しみなわけだが、まずはレコーディングやDSD配信版について、JiLL-Decoy associationのリーダーでありドラマーであるtowada氏と、エンジニアの藤巻兄将氏に、お話を伺った。

掲載日:2012年2月29日

※1:DSD(Direct Stream Digital):PCM(Pulse Code Modulation)とは異なり、音声信号の大小をデジタル・パルスの密度で表現する方式で、原音にきわめて近い録音、再生が実現する技術だと言われている。コルグではデジタル・レコーダーMRシリーズに、このDSD技術を採用している。

『Lovely e.p.』をe-onkyo musicから、DSD配信することになるまでに至る経緯を教えてください。

towada:DSDに興味を持ち始めたのはいつだったかは思い出せないのですが、前回のアルバム(※2)のときに、メインのレコーダーにMR-2000Sを使ってみました。最初はなかったんですが、どうしても途中で使ってみたくなっちゃって(笑) あのアルバムは全部で13曲ですが、たぶん3曲くらい終わったところで買ってきて、ミックスしている時点で通していたのですけど、明らかに違うというか…。 そのときはPCMで録ったものをDSDに落とすという作業で、それでもすごく影響はあったという印象だったのですが、今回は「録りのところからDSDで録ってみたい」(※3)という強い希望がありました。自分たちの周りのミュージシャンの間でも、どういう風に音楽を届けるのが一番良いのかなという中で、高音質配信というものに興味を持っている人間は結構いますね。

※2:『ジルデコ4 ~ugly beauty~』:2010/10/20発売。『ジルデコIII』から 8ヶ月という短い期間でリリースされた4枚目のアルバム。

DSDの録音ソースの適正、例えば今回録ってみて良かったと思うのは、どんなソース(音)でしょうか?

towada:今回DSDで録るのに、レコーディング・スタジオをイメージするのでなく、ライブ感をイメージしたかったので、ライブのPAエンジニアさんにマイキングをお願いしたんです。ボーカルも全部同じ部屋に入って、1つのブースで録ったので…。要するにすべてのマイクに色々な音がかぶる、かつ空気感を大切にしたかったのでヘッドホンをしないで録ることにしたんです。モニターは大きなPAでボーカルと最小限の楽器だけ出して、あとはそれがかき消されないような音量で演奏しましょうという約束で、その空間の中で自分たちが感じるものを演っていたんです。 ピンポイントでどの音が良かったって言う説明はできないんですけれども、マイクとマイクのかぶりが自然な感じですごくきれいに出たなと思います。ドラムだったら(マイク)2本だけとか…。

トップ(※ドラムの上側)だけですか?

towada:これがまた(笑) 無指向のマイクを2本、フロア・タムとスネアのあたりかな、シンバルの下に立てました。それは敢えて無指向で、音を分離させるんではなくて、かぶってくださいと言わんばかりのことをやっていたわけですね。もちろんボーカルが同じ部屋にいるので、ボーカル・マイクだけで音楽的に成り立っちゃうくらいの感じで録れてるんですけれども、それもありきというか、びびらないで積極的に音をかぶらせるのというのが、こういう環境で録るときの醍醐味かなと思います。

DSDではこれまで、バンドものはあまりリリースされてないのですが、そこを敢えてチャレンジされて、今回壁を破ったことについてはどうお考えですか。

藤巻:さきほどの「録音ソースの適正」という意味でも、奥行き感/透明感がある分、逆に押し出しとか、張り付き感が必要な音楽には少し不向きというか。そういった意味で、例えばロックバンドだと似合いづらいというか、(ジルデコが)アコースティックな感覚を大事にしているバンドだからこそっていうのはありますね。あとは最初から最後までハイレゾ/DSDで通すというと、チャンネル数の制限やダビングが不可能とか、そういう条件的に整わない部分が結構多くて、今回やってみたのが、その場のミックスをMR-2000Sに入れるっていう作業だったわけですけれども。 逆に16chとかマルチ・レコーディングができるようだったら、なおさらそのDSDで録れる音がもっとありありとわかるような音源が、最終段階までできるかなという感じはしています。今回全員分で立てているマイクも16ch以内で収まっていたりするので、もしできることなら16chバラバラで全部録って、アナログでミックスして、またこれ(MR-2000S)で録るみたいな作業ができるとしたら、もっと...。

owada:…そうですね。逆の意見になってしまうんですけれども、新しいメディアがでてくると、新しい音楽のスタイルが今まででてきてると思うんですよ。今回DSDに録りたいっていうときに、編集ができないってところが自分たちにとっては実はプラスになっていて、あとはマイクの本数が限られるとか、そこにあるシステムでどうにかいいものを録ろうっていうきっかけをDSDが作ってくれたような気がするんです。だから、あとで編集するから何テイクも録っておこうっていうんじゃなくて、昔テープに録ってたときとか、ジャズのレコーディングとか威圧感や緊張感ってあったと思うんですよ、良い音で録ってやろうっていう。テープはもうこれだけしかないから今良い演奏をしないとダメと思う気持ちとか、それに近いものをDSDが感じさせてくれるっていうのはありますね。 もちろん便利になって、どんどんエディットができるようになれば、それはそれで色んな用途があると思うんですけれども、現時点の「編集に便利じゃなくて、音として便利」という、なんかそのバランスがすごく好きですけどね。

なるほど、今回一発録り(レコーディング・アット・ワンス)になったというのは、やむを得ない部分も含みつつそうなった...良い方向に行ったということなのですね(笑)