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2025.05.16

篠田元一「Pa5X」インタビュー

数々の電子楽器やシンセサイザーをはじめ、音楽理論にも精通している音楽家・篠田 元一さん。篠田さんのスタジオ「MOTO MUSIC STUDIO」にお邪魔して、レビュー動画にもご出演いただいたコルグ最高峰のプロフェッショナル・アレンジャー・キーボード「Pa5X」についてお話を伺いました。

 

 
──Pa5Xの第一印象をお聞かせください。

篠田:昔からいわゆるオールインワンのシンセってあるじゃないですか。シーケンサーが入っていて、マルチ音源やエフェクターも入っている…という。一台で完結してすごく良いなとは思いつつも、やっぱりその一つ一つの性能というのは正直言って満足できるものがなかったんですね。そういう先入感があって、実はプラスの印象からは入っていないんです。ましてや音楽の根幹に関わるアレンジ・データであるとか、コード・チェンジに対応するロジックであるとか、そういう部分はまさに自分の専門でやっているところなので。

そういった面で言うと、もう全くもって先入観を打ち砕かれましたね。これが本当に正直なところです。だから「使える/使えない」という話であれば、「使える」なんですよ。

ただ、自分もいろんなジャンル全てにおいて万能な知識があったり、アプローチを心得ているのかといったらそうではないわけです。だから逆に「あ、なるほど」と。「こういうことを考えて編曲するのか」とか、自分の苦手なものであったり、知らないものというのは勉強させられますね。 アイデアのトリガーになるようなものがいっぱい出てくる。 これって実はすごく重要なんですよね。 ひらめきを与えてくれる。 それにコルグさんだから、さすがに音源に手を抜いてないというところが大前提ですよね。
──外観・ルックスについてはいかがでしょうか。

篠田:必要なツマミをいっぱい出してくれているっていう部分においては、すごく良いですよね。直感的にわかりやすい。あとオペレーションしやすいところにボタンがあって、これはやっぱりメーカーさんならではのいろんなフィードバックが元にあったんじゃないでしょうか。

──サウンド・クオリティについてはいかがでしょうか。過去にサウンド開発をされた豊富なご経験も踏まえて、イチ押しがあればそれもご紹介いただけますでしょうか。

篠田:サウンド・クオリティはもう僕は個人的には最大の売りだと思っていますよ。音色が良く、余計なことをする必要がないっていうのは。音色が良くないと姑息に騙そうとしてしまう、そういうのがないですね。シンプルにサウンドをまとめようという方向に行くという部分ですかね。 アコピ、エレピ、ストリングス、ブラス、リード、ベース、オルガン、こういった、絶対マストのサウンド、これは数もそうだけれども、数だけじゃなくて質っていうんですかね。本当にこれずっと僕思ってるんですけど、コルグならではの音なんですよ。 ピアノの音って、独特のコルグの帯域というか、サンプリングした後の処理のディケイ感と、あとリリース。これがやっぱりメーカーによって違うんですね。これは例えば、開発担当エンジニアが変わろうとも、その持っているわずかな匂いとかが、不思議と継承されているんですよね。 コルグの音は一言で言うと「埋もれない」。量感が太い音っていうんですかね、薄くないんです。立ち上がりの鋭さとか、それもあるんじゃないかなと思うんですけどね。

──よくバンドサウンドの中で「抜けが良い」という表現がありますけど、そういったことでしょうか。

篠田:バンドの音というのは、「埋もれない」といってもいろいろあるんですよ。例えばアタックは聞こえるけれども、ボディが聞こえないとか。そういうサウンドもあるんだけれども、コルグの場合「塊」で聞こえますね。ストリングスでもブラスでもピアノでも。そういった部分でいうと、存在感の強さですね。

篠田さんにおすすめの音色を紹介していただきました

──スタイルのクオリティについてはいかがでしょうか。

篠田:世界中のコルグのスペシャリストによって、ラテンなら南米の、ジャズなら本場アメリカのスタッフ…というようにして様々な音楽ジャンルのスタイル・データを作っていると先ほどご説明をいただきましたが、これらをとても上手くデータに落とし込めてるな、と感心するものがあります。単に「何々の編曲できます」とか「何々のサウンドが得意です」と言ったところで、自動伴奏用のデータとしてリファレンスとなる、例えば同じスタイルでもCコードを鳴らした時のデータなのかAmコードなのか、その雰囲気じゃないとその表現ができないという音楽的な知識を持っている人でないと、こういう本格的なスタイル・データは作れないと思うんですよ。 Pa5Xの「いかなるコードにおいても、いかなるコード展開されても、その雰囲気をかっこよく出せる」というのは、ちゃんと芯から分かっている人が作ったものだと思わされますね。そういうデータになっているし、 そのクオリティたるや圧巻じゃないですか。それは他のアレンジャー・キーボードではあり得ないことだと思いますよ。

篠田さんにおすすめのスタイルを紹介していただきました

──レビュー動画の中でコード・シーケンス機能についてご紹介いただいていますが、その音楽的役割をアレンジャー・キーボードで実現するに当たりどう感じられましたか?

篠田:コード進行をスムーズに繋ぐというロジックはもちろんなんですけど、オンベース、分数コード、ペダルポイントの表現が自動伴奏でできる。そういうのはかなり大きいですよね。他にこういう経験はないですね。他とは全然違います、クリシェができたりとか。ただ、ワンコードの特殊な分数コードを入れたりすると、予期せぬ音が鳴ってしまうとか、これはしょうがないと思うんですけど、それを差し引いたとしても、もう「スケッチ」のレベルじゃないんですよ。逆に聞きたいんですけど、コルグさんとしてはどういった要望に基づいたものだったんですか?

──基本はヨーロッパのパーティ・ミュージシャンからの要望で、シンプルなバンドをベースに作っています。そしてやっぱりなんといってもリアルタイム性ですよね。ある程度ベーシックなセッティングをしておいて、その場のお客さんのリクエストに応えるためにすぐ変えられるという。

篠田: 普通にパターンを鳴らしているだけでも、ヒントをもらえるということは一番大事なことですね。全く未知のジャンルもそうですけど、例えばファンクと言ってもいろんなファンクがあって、それぞれのアプローチの仕方が詳細に音としてわかるっていうんですかね。 だから、この本との相性がまさにピッタリです(笑)!

『かっこいいコード進行128』
著者:篠田 元一 発行元:リットーミュージック 定価:1,980 円
いざ曲を作ろうとすると、自分の引き出しの中には限られたワン・パターンなアイディアしかない、という人のためのコード進行を網羅した一冊。少しでもかっこいい曲を作りたいという人のために、実用性や応用性がともに高い8小節単位の128パターンのコード進行を収録。

 

 

篠田:コード進行ってやっぱり普通は自分の手狭な引き出ししかないわけで、それをどうやって発展させるのか。自分が思い描いたコード進行がいくつかあっても、それをどうやって発展させられるのかというのは、そこには理論的な知識も要るんだけれども、それを一から学ぶっていうのは結構大変なことですよね。それで説得感を持たせるとなると、やっぱり「音」でとなります。コードネームだけでオーダーしてもわからないので、音で聴いて初めてわかるということなんですよね。 あとすごく大事なのはワンコードでもかっこよく聴かせること。これは逆に難しい話なんですよ。例えばC7っていうコードを4小節入れ、それをかっこよく聴かせるとなると、どういう展開をするかというのが大事ですから。ワンコードの中に違うコード・プログレッションを組み入れるというのは、どちらかというと編曲の技で。それはまさにPa5Xのその引き出しの多さが、もうバッチリなんですね。

──たいていバリエーションなど8小節くらいで作られますが、当然その中で今おっしゃったように「動かす」という、そこのノウハウがやっぱり大事ですよね。

篠田:そうですね。だからコード進行をどれだけ細分化するかという知識の裏返しで、ワンコードの中でどうやって展開できるのかというのは、これはもう一つのノウハウなんですよね。だから、プロのミュージシャンでも例えば C7って4小節書いてあって、そこを「自由に弾いて」と言われて、同じボイシング(指の押さえ方)のC7だけで弾いてる人っていないわけです。そこにいろんな、コード・プログレッションを自分なりに考えて入れたり、あとは違うコードを挟み込んでいく。それはやっぱりその人の持っているルーツっていう話にもなってくるんだけど、例えばゴスペルだったらFのコードを瞬間的に入れて戻すとか。色々展開できるのと同時に、ワンコードの中でのボイシングだったり、どういったフレーズが入るかとか…今までこんな楽器はないですよ。そう考えると、単なる楽器というよりも、何か教育ツールみたいな感じでも使えそうな気もしますよね。実はそういったものって無いですよね。

かっこいいコード進行をはじめ、分数コードなど、さらなる機能もご覧になれます

──他にも気に入った機能はありますか?

篠田:レビュー動画のなかでも取り上げていたアンサンブル機能、これは面白いですね。当時よく使っていたPOLY-800のコード・メモリー機能に似ています。POLY-800では一度メモリーが必要なやつだけど、Pa5Xではもうリアルタイムで出来てしまう。

──最後になりますが、Pa5Xを使われている方、あるいは現在検討されている方に向けてメッセージをいただけますか。

篠田:自分の仕事の上で何かこう全くゼロから作るよりも、ヒントをもらうという使い方ですね、僕の場合は。音楽は好きだけど自分でどう作っていいか分からない…そういう時にPa5Xはトリガーになるようなアイデアの宝庫だから、それを聞くだけでも、自分が成長できるような気がしますよ。

──ありがとうございました。

【キャンペーン実施中】
店頭にてPa5Xをご購入後、「CLUB Pa5X」に会員登録された方には、篠田元一さんの著書『かっこいいコード進行128』に掲載されたコード進行に対応した「コード・シーケンス・データ」をもれなくプレゼント。 詳しくは以下をご覧ください。
https://www.pa5x.korg.com/post/20241101



 

篠田元一

作編曲家、ピアノ&キーボーディスト、音楽プロデューサー。大学時代よりプロの道を歩み幅広いジャンルの演奏、作編曲を手掛ける。これまでに3枚のソロ・アルバム、リーダーバンドThprimで2枚のアルバムをリリース。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする国内外の名門オーケストラとの共演多数。冨田勲「源氏物語幻想交響絵巻」「イーハトーヴ交響曲」の国内外公演やレコーディングに参加。歴史的音楽イベントThink MIDIおよびオーケストラとシンセの融合をテーマにしたThe Brand-New Concertでは音楽プロデューサーを務める。 各種シンセサイザーの開発アドバイザーや音色制作、デモ演奏などの実績は長年に渡っている。また、「実践コード・ワーク」「かっこいいコード進行」をはじめとする記録的なベスト / ロング・セラーを含む40冊を超える音楽書を執筆。FM川口のラジオ番組「篠田元一のMOTO MUSIC TOWN」ではDJを担当している。

WEB: https://www.moto-music.co.jp/
FACEBOOK: motokazu.shinoda
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Instagram: @motokazu_shinoda
YouTube: @MotokazuShinoda

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