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2024.04.25

松本昭彦「opsix、KAOSS Replay」インタビュー

ご自身の音楽創作活動を精力的に続けるかたわら、KAOSS Replayでのサウンド開発やopsix soundpackのプロデュースなど、様々なプロジェクトでコルグ製品にも関わっていただいている松本昭彦氏に、普段の制作環境やコルグの機材との関わりについて語っていただきました。

 


──音楽制作の環境はどのようなものですか?


松本: 僕はライブは動的な作曲、制作は静的な作曲と捉えていて全く異なる視点で音楽に向かっています。制作は作曲行為をリアルタイムでは行わないため、じっくりパソコンを使います。 しかしパソコンはマウスカーソルの構造上、パラメータ操作には限界があります。一方ハードのシンセなどは複数のパラメータを両手で変化させることができ、オートメーションのカーブを描くより簡単に複雑で有機的な変化の方向性を持たせることができます。ハードウェアを活用することで音楽がのっぺりしてしまうことを防ごうとしています。

ライブパフォーマンスは即興でステージ上で音楽を作っているため、パソコンを中心にしつつハードウェアがないとどうしても演奏性、即興性の面で成立しない部分があるんです。

僕が脚を運ぶエレクトロニック・ミュージックのライブ・イベントを見る限り、より演奏性が期待されてきたのかラップトップ一台でライブパフォーマンスをやる人をあまり見なくなりました。マシンライブのようにハードをたくさん使うか、完パケした自分の音源をDJ機器でどう演奏するかを追求したDJ セットになるかで二極化しているように感じます。


 

KAOSS Replay



──ライブパフォーマーに向けて発売されたKAOSS Replayですが、サウンド開発でもご協力をいただきました。


松本: 実は音楽活動初期の頃からKAOSS MIXERを使っていました。パソコンを2台つないでPad で音を変化させながらプレイしていたんです。

もともと僕はギターから音楽を始めたのですが、シンセを使わずにギターの音を加工してあらゆるサウンドを作りたいと思ったのが原点なんです。KAOSS Pad を使うのもそのような発想でやっているところがあります。特にKAOSS Pad はX軸、Y軸の2つのパラメータを同時に動かす変化が得られるので、この考え方がギタリスト目線で斬新に感じられました。

KAOSS Replay のように16 Pad とKAOSS Pad の両方を備えているものは他にない魅力を感じています。またエフェクトのアルゴリズムがパワーアップしていて相当いろいろなことができると感じています。

DJ セットでは2 mix とあわせてドラムマシンを鳴らしたりする人も最近はいますが、そこにKAOSS Replay のサンプラーを使うと便利そうです。サンプラーとKAOSS Pad を一緒に即興的に鳴らすことができるというのは大きな武器になると感じています。


 

KAOSS MIXER (2001)


──松本さんのシンセサイザーとの出会いについて聞かせてください。


松本: 僕が音楽を始めた頃はインダストリアル系の音楽が好きで、例えばNine Inch Nails のようなバンドではかなり歪んだ電子音が使われていたんです。それまで過激な音色というとディストーション・ギターというイメージがあったのですが、シンセを歪ませるとギターでは不可能なほど刺激的な音が出ることを知り興味を持ったのが始まりです。同じ時代にプロディジーもロック化していき、やはり歪んだシンセサウンドが使われていて魅力を感じました。

その頃に購入したのがKORG Prophecy なんです。歪ませても魅力的ですごく太い音が出たのが印象的でした。一般には物理モデル音源のイメージが強いと思いますが僕はアナログシンセのようなものとして重宝して使っていました。


 

Propehcy for Mac/Win(左)とProphecy (奥、1995)


──Prophecy は最近ソフト音源化しましたので改めていろいろな方に試していただきたいところですね。

松本さんには、先日発表されたopsix のサウンドパック 「Neo Grime」を製作していただきました。とても現代的なサウンドが詰まったものになったと思っています。こちらの製作ではソフト版のopsix native をお使いいただいていますよね。



松本: はい。でも実はハードウェアのopsix も持っていたんです。2年前くらいにopsix だけを使った楽曲もリリースしました。アンビエント、ドローン、ノイズのような音楽です。それを動画撮影したものもありますのでご覧になってください。


 

Korg opsix M Six Star & Ableton Air | Ambient

松本: opsix に関心を持ったきっかけとして、6つのスライダーとノブが使いやすく配置されているところだったんです。FM の醍醐味は6つのオペレータの組み合わせだけでものすごい音色の変化が得られるところだと思いますが、それを一番効果的に表現できるのがあの操作子だと思うんです。指先一つで連続して波形を変形させられるのが面白いところです。


 

opsix mk II


──opsix のソフト版とハード版との使い分けはどのようにされていますか?


松本: ソフトはDAW上で頻繁に修正を加えながら曲を完成させていくときにとても重宝しています。

ハードはパフォーマンスする時ですね。演奏のごとく音色の変化そのものを聴かせたいときなどはハードしか選択肢がない感じです。僕の学問としての専門領域はアルゴリズム作曲なので、MIDI ノート自体はパソコン側の独自プログラムで生成しています。そのためopsix ではマニュアルで両手を使った音色変化に集中することができるため重宝しています。操作子のフィールも、また本体そのもののサイズ感も丁度良いんですよね。


 

opsix native


──他にお使いいただいている製品はありますか?


松本: ソフトはDAW上で頻繁に修正を加えながら曲を完成させていくときにとても重宝しています。

wavestate native もよく使用していて、Pad の音などで必ず使います。グラニュラーのように音がぼやけて奥に引っ込まずにキラキラした万華鏡のような音色変化をする音に適しているんです。僕はオリジナルのPCM 波形も作ってそれをwave sequence に中に組み込んだりしています。こういう使い方ができるのは他にないです。

あと、僕はモジュラー・シンセも使うのでオシロスコープのNTS-2 を常につないで波形をチェックしています。モジュラーは複雑なので、ビジュアル的に波形を把握しておかないと何が起こっているのかわからなくなり再現性が落ちてしまうんです。このパラメータをいじるとこのように波形が変化するのか、と結びつけることですごく理解が深まります。



──なるほど。いろいろ活用していただいているのですね。ありがとうございます。

松本昭彦(まつもと あきひこ)

東京出身。東京藝術大学大学院先端芸術表現科にて現代アート、メディアアートを学び修士号(芸術)を取得。東京大学 知の構造化センター特任研究員を経てフリーランスのアーティスト、プログラマー、サウンドデザイナーとして活動する。

専門領域としてアルゴリズミックなプログラミングを用いた作曲やサウンド生成を中心にアート作品だけでなく、広告や商業施設のインタラクティブ演出、また、大学、放送局、自動車メーカーや建設会社などの研究所との共同制作のプロジェクトも行なっている。

Web
https://akihikomatsumoto.com/
Instagram
https://instagram.com/akihiko_japan/
Spotify
https://open.spotify.com/artist/1tZMmxzZbvNu6klyKXa0L1?si=vHH66rI1RGaFN4bnHItkQg
YouTube
https://www.youtube.com/@AkihikoMatsumoto-Official/

¥1,100
収録データ:30 Programs、1 x Ableton Live 11 Session Data

2015年以降のベースミュージックシーンにおける気鋭のジャンルであるネオグライム。FMからアディティブ、サブトラクティブまでシンセシスの自由度が高いopsix環境を駆使し、煌びやかなFMシンセサイザー特有のリード、破壊的にディチューンされたベース、FMで作られた高解像度なドラムキット、浮遊し続けるパッドなど、ネオグライム特有の美しい音色が網羅されるようにデザインされたプリセットパックです。
制作:Akihiko Matsumoto