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2017.04.07

Tom-H@ck「monologue & KORG Gadget for Mac」インタビュー Powered by CINRA.NET

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.32 Powered by CINRA.NET
Tom-H@ckが語る、『けいおん!』の大ヒットから会社設立まで

インタビュー・テキスト: 黒田隆憲  撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
 

社会現象にもなったアニメ『けいおん!』の音楽をはじめ、ロックバンド「SuG」やアイドルグループ「マジカル・パンチライン」の総合プロデュース、でんぱ組.inc、T.M.Revolutionなどへの楽曲提供と、多岐にわたる活動を行なっているクリエーターTom-H@ckさん。最近はOxTやMYTH & ROIDなど、アーティスト活動も展開するなど、ますます活動の場を広げています。

さらに昨年、自身の会社「TaWaRa」を設立し、代表取締役に就任。いったいどんなモチベーションが彼を突き動かしているのでしょうか。最近引っ越したばかりのプライベートスタジオを訪ね、彼の壮大な野望を聞いてきました。

こちらの記事はCINRA.NETでもお読み頂くことができます。

Tom-H@ck(とむはっく)

2008年のデビュー作、社会現象にもなった大ヒットTVアニメ『けいおん!』の楽曲を手がけ、その後、自身のアーティスト活動「OxT」「MYTH & ROID」の2つのユニットでアーティストデビュー。以降、T.M.Revolution、でんぱ組.Inc、ももいろクローバーZ、清 竜人25、SuG、ロッカジャポニカ、LiSA、マジカル・パンチライン、UROBOROSなどのアーティスト、アイドルのプロデュースや楽曲提供、映画、アニメなどの劇伴音楽なども担当。これまで数々のヒットコンテンツをプロデュースしている。2016年5月にTaWaRaを設立。TaWaRaにおいてはサウンドのみならず、エンターテイメント事業全体のプロデューサーを務める。

「音楽で人を救いたい」と思ったきっかけは、大失恋だった
 
宮城県石巻市出身のTom-H@ckさん。父方が建築事務所を代々経営し、祖父は趣味で尺八を、父はギターを弾くオーディオマニアという環境で育ちました。家にはオーディオルームがあり、幼い頃からたくさんのレコードや音響機器に囲まれていたそうです。

Tom-H@ck :自発的に音楽への興味が湧いたのは、確か8歳の頃。当時X JAPANが大好きで、従兄弟にYOSHIKIモデルのドラムスティックを見せられたことがきっかけでした。なので最初はドラムを叩いていたのですが、中学3年でギターと曲作りを同時に始めたんです。

というのも、そのときに大失恋を経験したんですよ。ものすごく大好きで、とにかく夢中になっていた女の子がいて。ようやく付き合うことになったのに、1か月半で破局を迎えたんです。心から愛する人を失うショックが大きすぎて、大雨に打たれながらずぶ濡れで帰宅し、おもむろにギターを持ってポルノグラフィティの“サウダージ”を歌いました(笑)。そのときに、失恋の悲しみを包み込んでもらったような気持ちになれたんです。「ああ、僕もこんなふうに、音楽で人を救いたい」って心から思った瞬間でした。

 

Tom-H@ck



想像のつく未来より、想像できない未来を選びたい
 
その頃はまだ、インターネットやケータイを駆使して情報を集めることができなかった時代。機材に詳しい周りの人たちにアドバイスをもらい、4トラックのカセットMTRを手に入れて録音を始めました。書店に並ぶ音楽理論書を片っ端から購入するほど、熱心に勉強を始めます。

Tom-H@ck :バンドも組んでいて、最初からB'zのカバーに挑戦していました。難易度の高いギターを弾きこなせば、自分のテクニックを証明できるんじゃないかなって。そのうち「上手い」とか「下手」とかどうでもよくなり、とにかく夢中になってギターを弾いていましたね。

影響を受けたのは、LIMP BIZKITやLINKIN PARK、RAGE AGAINST THE MACHINEのような、ギターリフのかっこいいバンド。それと、もうひとつはゲーム音楽です。ギターにハマる前はゲーム、特にセガサターンが大好きだったんです。お気に入りは『グランディア』(1997年に発売されたRPGゲーム)で、そこからゲームのサントラに夢中になっていきました。オーケストレーションなど、アレンジの部分で、今も活きていると思います。

 

Tom-H@ck使用ギター

 

釣りやアウトドア、映画、旅行など、たくさんの趣味にハマっているTom-H@ckさん。しかも、浅く広くではなく、ハマったときにはとことんハマる。そんな姿勢がギターの上達にも、ソングライティング能力の向上にも繋がっているのでしょう。

高校を卒業し、音楽の専門学校へ進むと、すぐ時東ぁみのバックバンドに起用されるなど、プロとしての仕事をもらうようになりました。19歳のときには、ギタリストとしてロサンゼルスに留学した経験も持っています。


Tom-H@ck :ロサンゼルスは街全体に音楽があふれていて、そこで洗礼を浴びましたね。その先のことも、いろいろと考えました。自分が前に立つのではなく、アーティストやコンテンツを支える仕事をしたいという気持ちはずっとありましたが、このままギタリストとしての道を進むとなると、頭のなかで自分の未来がすぐに想像できてしまった。もっと予想できない、安易に想像できないことがしたい、もっと大きなフィールドで活躍したいと思ったときに、「作曲家になるしかない」と。21歳の頃でした。

 

Tom-H@ckの音楽制作用卓



まさか採用されると思ってなかった『けいおん!』の楽曲が、Tom-H@ckの人生を変えた

作編曲家の百石元と出会い、2年ほど師事してアレンジや作曲、さらには対人関係などのコミュニケーション術まで叩き込まれたというTom-H@ckさん。作曲家としての転機はすぐに訪れます。彼にとって、最初の仕事が『けいおん!』だったからです。

Tom-H@ck :そう、実はデビュー作なんですよね(笑)。百石元さん経由で紹介されたコンペに参加したのですが、それまでアニソンなんて書いたことがなかったし、ましてやアニメをちゃんと見たことすらなかった。それで、慌てて『らき☆すた』や『涼宮ハルヒシリーズ』の音楽を聴いて勉強し、短期間で曲を仕上げました。それが『けいおん!』のオープニングテーマ “Cagayake!GIRLS”(2009年)です。

この曲が様々なチャートで上位を記録し、Tom-H@ckさんの名が一躍有名になります。これ以上ないほど順調なスタートですが、最初の大きなチャンスを確実に掴むことができたのは、少年時代から磨いてきたギタリストとしての類稀なるテクニックと、百石に叩き込まれたソングライティング能力があったからこそでしょう。