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2014.04.04

オノ セイゲン「MR-2000S & DS-DAC」インタビュー

「大きなデータで仕上げをやる」ことにこだわる。

今回の、DISC-1の編集画面

今回の、DISC-1の編集画面

今回の、DISC-2の編集画面

今回の、DISC-2の編集画面

DISC-2のもとになっている4本のリールは、このような並びになっている。波形から曲とテイクが区別できる。
リール1; 20130214224032.trk02/3.wsd
リール2; 20130214232853.trk02/3.wsd
リール3; 20130214235059.trk02/3.wsd
リール4; 20130215001806.trk02/3.wsd

テレビだと、いまは地デジがハイビジョンですからDVD画質なんて観ませんよね?観ますか?まあYouTubeと思えばDVDもいいですね。今後、テレビは4Kへと進化していきますが、今やCDプレーヤーは家になくともBlu-rayディスクプレーヤーはテレビに内蔵されていたりしますから、Blu-rayはもっとも普及しているメディアパッケージでもあるんです。Blu-rayディスクで映画なんかを観ているときに、気がついている方もいるかもしれませんが、Blu-rayディスクは、CDよりはるかに大きなデータをパーケージできます。スタジオのミックスそのままのサラウンドで96KHz/24bitや192KHz PCMだって簡単に、しかもハイビジョン画像といっしょに格納できてしまうんですね。ハリウッドに限らず名作映画が4Kスキャンニングで、Blu-rayディスクに1Kデータとして落とし込まれていてもかなり美しいですよね。

最近のBlu-rayディスクレコーダーや4Kプロジェクターの中には、この1KのBlu-rayディスクデータを4Kにアップ・コンバートできる製品もでてきています。例えば1KのBlu-rayディスクをアップ・コンバートして、4Kの画面で顔の表情をイコライジング前、イコライジング後で比較して見せると、引き込まれ方が全然違うんです。サイデラ・マスタリングでは、ミックスデータがProToolsなどで、48KのWAVしかない場合に、私はまずそのPCMをDSDにアップ・コンバートしてから、アナログ領域に戻してマスタリングすることが多いです。写真に例えると判りやすいのですが、写真で小さなデータのまま色補正などをするとガタガタってなっていますが、いったん解像度を上げてからPhotoShopなどでグラデーションをかけたりとかコントラストを調整したりとかできますよね。

写真家の人はRAWデータから、色づけのないモニター画面で色を校正修正してから、指定のサイズにエクスポートして入稿するわけですけど、音もまったく同じ原理なのです。DSDマスタリングの最大のメリットとは、写真で言うRAWデータ、まあDSDもRAWと言えるのですが、とにかく「なるべく大きいデータから仕上げをつくる」ことにこだわっています。その差は歴然です。それ以外の方法は、つまりビット数が少ないことによるデフォルメ具合がイフェクトとして好きならそれでいいのですが、RAWデータ以外で扱うというのは、まあプラグインで顔を変えたり、声を変えたりというのと同じくイフェクトですね。イフェクトが悪いと言ってるんじゃないですよ。もしスッピンで、録ったままのスリルある演奏そのままを届けたいなら、RAWデータ、つまりDSDにして聞くべきです。

非常に重要な前提を申し上げとかないといけないのは、その際、スピーカー、モニター環境は色づけのない状況にしてないと、色づけされるべきなのは、録音素材なのか、いや実は部屋のスピーカーの趣味趣向、つまりスピーカーの色を楽しんでいたのかを、しっかり見極めてないといけません。家電量販店に並んでるテレビで色を観ても、そこに移ってる女優さんの顔色、陰影具合までは、さっぱり判断できませんよね。人間の弱い部分とは、AB比較したときについつい刺激が強い方に、ひかれてしまうというのもあります。

私がマスタリングをやるときにポリシーとしているのは、私の色、趣味趣向をおしつけるのではなくて、まず最初に考えるのは、そのマスターを作った時の状況、ミキシングしたときの状況がどうだったかを再現するようにしています。マスタリングエンジニアとしての自分自身は存在していない状態になれればよいのです。ミキシングをしていたときにこういう音で聴かれていただろうなという状況を想像しながら、まずは、それを再現することが第一歩なのです。例えば、ミキシングしていた部屋のモニター(スピーカー)の低音がすごく出ていた場合、テープとかDSDマスターに録音として入っている低音は少なくなっちゃっているわけです。その部分を補正してあげないと、ミキシングしたときの状況「あの感じ」にならない。これはイコライジングですが、DSDのままできるのがClarity。そういうギザギザしない状態で作ったものをそのまま再生できるのがDSD対応のDACとなるわけです。

もうひとつ重要なことを教えましょう。一度、一番大きなRAWデータ、つまり5.6MHz DSDでマスターを作ってしまえば、それ以外の音源は、すべてAudioGateでディザーもなしでダウンコンバートするだけで充分なのです。ハイレゾのほかのレートの音源、CD用のマスターは、私はまずダウンコンバートで仕上げます。これが一番、音色をさらに変形せず、演奏のタッチももっともちかいままで届けることができるからです。『戦場のメリークリスマス -30th Anniversary Edition-』のCDマスターは5.6MHz DSDマスターからAudioGateでダウンコンバートだけでできています。あとはそれぞれのメディアプレーヤーやコンバーターの色づけの違いが加わるだけなのです。

DSDのフォーマットに合う、向いていると思うソースは?

逆に合わないソースを言いましょう(笑)この10年間、私は避けてきたことですが、マスタリングでCDのレベルを上げるためにコンプレッションをかけて、波形を見ると「ソーセージ」とか「羊羹」って言うんですけど、ボリューム戦争の犠牲者、ダイナミック・レンジを必要としない種類の音楽とかはDSDに向いてない、というかDSDである必要はない。あとPCMのAD/DAコンバーターは各社色づけが折り込んであるので、それを楽しむジャンルはそれで聴いて良くて、逆にDSDには向いてないとは言わないけど、DSDだとすっぴんのままで寂しいって言う人も多いのではないでしょうか。さきほど述べた「刺激が強い方が良い」と感じる人が多いのです。例えそれがもとの演奏とは違う音色に聞こえたとしても。それ以外のものは全て。自然音であろうと、朗読であろうと、音楽であろうと、さらにまだマーケットがありませんが語学学習、音楽の練習見本にも、DSDは最適であると断言できます。日本の小中学校の英語教育には、DSDでインターラクティブのカリキュラムを取り入れれば、国際競争力のある人が育つと思うんですけどね。あとは、耳に聴こえているものだけでなく、身体に入ってくるもの。それはスピーカーの再生帯域に関わらず、例えレベルが低くても20kHz以上に音が入っているかが無意識のうちに重要な意味を持ってくることがあるんですが、その領域はDSDにしかできないですね。

ありがとうございました。

【SHM-CD版】

【SHM-CD版】

『Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-/坂本龍一』
MDCL-5017/18 3,800 (4,104)円 /2013.11.27

今年で公開30年となり、さきのベネチア国際映画祭クラシック部門でも上映された大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」。 坂本龍一が手掛けたそのオリジナル・サウンドトラックが83年リリース以来、初めてオノセイゲン氏の手により全曲リマスタリングされました。 さらに別バージョン、別ミックスなど未公開テイクを多数収録したディスク2を加えて初回完全限定生産2枚組仕様でリリース。サウンド&レコーディングマガジン編集長國崎氏による、エンジニア田中信一氏が語ったレコーディング当時の証言を克明に綴ったライナー・ノーツも封入。

【ハイレゾ版】

『Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-/坂本龍一』
(未公開テイク26 曲含む、全45 曲収録)

DSD5.6MHz(アルバム:¥7,200 単曲:¥720)
DSD2.8MHz(アルバム:¥4,629 単曲:¥463)
flac 192kHz/24bit(アルバム:¥4,115 単曲:¥411)
flac 96kHz/24bit(アルバム:¥3,909 単曲:¥360)
PCM192kHz/24bit(アルバム:¥4,115 単曲:¥411)
PCM96kHz/24bit(アルバム:¥3,909 単曲:¥360)/2013.12.16

※アルバム購入特典として、PDF ブックレットが付属します
URL: http://www.e-onkyo.com/music/album/mdcl5017/

オノ セイゲンさんの前回のインタビューはこちら。 http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/SoundBytes/OnoSeigen/