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2014.04.01

大友良英「MR-2」インタビュー

さて、先日放送されました「課外授業 ようこそ先輩」でコルグMR-2をお使いいただきました。

実は当初は別の録音機材を予定していたんです。ところがそれはリミッターがかかる会議用のレコーダーだったんです。会議やスピーチ用には適していますけど、今回の用途には不向きだな思ったんですよ。なるべく良い音で録って良い音で再生しないと、(使うのは小学生で)素人だからなおさらね。じゃないと何でも同じ音になっちゃうから、リミッターを解除できることが重要だったんです。それで僕がポータブルでは一番良いと思っているコルグMR-2をダメ元で交渉してみたんです。だけどひとクラス分は無理かなぁって思っていたらOKが出て嬉しかったですね。やっぱリミッターかけて録音しちゃダメですよ。もちろん用途によりますけど。
ちっちゃい音はちっちゃいままで良いんです。で、(使うのは)プロじゃないんだから録音も失敗して良いと思っていて、自分が録りたいなぁって思う音が録れなくても良いの。放送には出ませんでしたが、電車の音を録りたいって子がいて、駅に行ったんです。でも切符買わなきゃ改札を通れないんだよね。だから改札口の外から一所懸命に録っても、大して電車の音は録れない、っていうことにその子は気づき、それでその子は踏切だか高架橋だかへ出直す。これで良いと思うんだよね。あと鳥の声を録りたいって子がいたんだけど、鳥の声なんてそんな簡単に録れないんだよね。あっちのほうでピヨピヨって鳴いていても、実はクルマの音とか風の音のほうがはるかに大きくて、でもそれでも良いと思ってるんです。実際にみんなが耳で聴いてる音っていうのは、自分が聴きたいと思っている音を大きくしたり小さくしてるんだよね、脳内で。でも録音機は正直に録ってくれるから、だからリミッターがかかっちゃダメなんですよ。録音することによって見えてくることもあって、それを(授業の)ステップのひとつにしようと思ったんです。みんなで録音したものを聴きながら、何を録音したのかがハッキリ分かる子もいるんです。さっきの電車の子とかね。だけど雑然としていてよく分からない録音もあって、「これ何?」って聞くと「子どもの声を録りたかった」って言うんだけど、近づいてないんだよね、その子はね。でもその子にはその子どもの声にピントが合ったんだろうね。
技術的なことではなくて、その子はどうしてその音を録りたかったのか、っていう話のほうがよっぽど面白くて。でもなんで録れなかったのか、っていうのは距離が遠いからだね、でもなんで遠かったんだろうね、っていう、そういう話をするのが面白くて。最初録音を聴きながら、その話を聞くだけで実際は2時間以上費やしたかな。でもね、MR-2は音が良いから、その時エンジニアとして参加してくださった伊藤(隆之)さんも「この音を並べるだけでも成り立つわ」ってぐらい音が良くて。さっき言いました即興演奏と一緒ですよ。ちゃんとした良い音で録れてたら、何でも成り立つようなとこはあって、それでみんなでそれを聴きながら喋って、それでこれに合わせてみんなで演奏しようか、って感じでやったのが(番組の)最後の合奏だったんです。

ところで、あの番組で子どもたちが録ってきた音は、その後どうなったのでしょうか?もっとたくさん聴いてみたいと思いましたが…。

そうだよね。コンピュータに入れた時のものが残っていれば残ってると思うけど…。あれを10年後とかにまたみんなで聴いてみたいよね。

家の中で野球の練習をしている子が録った音、良さそうですよね。

あの音、いちばんカッコ良かったよ。完全にオンマイクで録ってあったし、室内だから他の音もほとんど入ってなくて、すごく抜けが良い音でしたよ。あの子はもうひとつ、別の音も録ってて、それはトイレを流す音だったんだけど、それも録音の鉄則を自然にやっていて、MR-2をトイレにほぼ突っ込むような感じで録ってたから、オンマイクですごく良く録れてましたね。まぁ、あの子が録音の世界に進むとは思わないけど、彼はそういう視点を持っていたんだね。目の前の音を録りたいっていうかね。でも色んな子がもちろんいて、全体の音を録りたいっていう、例えば川の流れを環境とともに録りたいって子もいれば、1個の音をシャープに録ろうとする子もいて、こっちから何にも教えてないんだけど、その個性も面白かったですね。

すごく面白かったですね。番組では授業というスタイルでしたが、この形式は他にも応用できそうですね。

「録音させる」っていうことはあの時に初めてやったんですけど、子どもたちと楽器を演奏したりっていう授業はこれまでにもやったことがあるんです。でも録音が面白いなって思ったのは、単に録音の技術とか録音した音をどうこうするというよりも、それをみんなで聴きながら話ができたっていうのもあるし、人によってどこを見ているのかっていうのがすごくよく出てくるのが面白いですね。ホントはね、毎日ひとり決めてね、その人が録ってきた音を聴きながらみんなで話す、っていう形だったらすごく面白い授業になるんじゃないかなぁ。

また、聴こえた音を録る前に書いてもらったのも大きなポイントですね。

そうね。そこから好きな音を選んでもらうっていうのを敢えてやらせたかったんだよね。

あと、マイクが風に吹かれちゃった音もありましたね。

あったね。風の音を録りたいって子がいたんだけど、風の音は録るのが難しいんだよね。風自体の音っていうのはなかなか難しくて、風が葉っぱに当たってそよぐ音とかなら録れるけど。ある意味あの吹かれちゃった音っていうのはリアルな「風の音」なんだよね(笑)。録音の技術を教える授業だったらあれはNGなんだけど、マイクは風に吹かれたらああなるんだってことと、耳も実はああなってんだよね。風に吹かれると耳もボコボコボコって言うもんね。そういうのがあって、「風って何なんだろう?」って考えられるじゃないですか。「どうして風だと分かるのか」ってね。室内だと音で分かることもあるじゃない。そういう根本的なことを考える良いキッカケになるよね。