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2014.04.01

南波志帆 with 矢野博康「KAOSSILATOR」インタビュー

ミュージシャン・南波志帆の在り方とこれから

あらゆるジャンルの音楽性を内包した最新型ポップスとしての楽曲群、そしてそれに重なる透明感ある歌声…。南波志帆は2008年のデビューから常に話題と魅力をふりまき、音楽シーンでの支持を着実に増やしてきた。そして2012年7月には、作曲:秦基博/作詞:尾形真理子という強力なバックアップのもと、ニューシングル『髪を切る8の理由。』をリリース。さらに洋楽カバーアルバム『“Choice” by 南波志帆』をビルボードレーベルより同日リリースするなど、彼女の歩みは止まることを知らない。

9月には、“昨今の日本の音楽シーンのオイシイところ”をそのまますくいとったかのような共演ラインナップも話題の主催ライブイベント「THE NANBA SHOW」の第5回目を開催。屈強なバックバンドを従えた彼女のライブパフォーマンスもまた定評があるが、ライブにおける彼女の役割は“ボーカル”、そして“KAOSSILATOR”。そう、彼女は生粋のKAOSSILATORプレイヤーでもあるのだ。

今回は南波志帆本人、そしてサウンドプロデュースを手掛けるドラマー/音楽プロデューサーの矢野博康氏に、新作のこと、そしてkaossilator 2をはじめとした楽器のことについてたっぷりと話を伺った。

掲載日:2012年8月10日

デビューのキッカケは何でしたか?

南波志帆(以下南波):元々小さい頃から歌うことがすごく好きでして、地元福岡の歌のイベントで歌っているところを、今のレコード会社の方にスカウトしていただきました。それから東京に上京することになったんです。

それが何歳の時だったんですか?

南波:15歳の時でしたね。上京は高校入学と同時でした。

上京したての頃は環境の変化が大変じゃなかったですか?

南波:そうですね。私の地元は福岡のあまり都会じゃない方でして、家の周りは田んぼばかりで、人よりカエルの方が多いくらいで。人口じゃなくてカエル口?(場内爆笑)の方が多い田舎だったので、東京に来てからは戸惑うことばかりでしたね。

その後数々のアルバムやシングルがリリースされますが、作家陣がすごく豪華ですよね。

南波:恐縮です…。

この豪華さはプロデュースの方針と言いますか、狙いのひとつなのでしょうか?

矢野博康(以下矢野):南波さんが上京する前の中学生の時から縁あって僕がプロデュースをすることになったんですけど、その当初から色んな人と組んでやってみたいという話がスタッフ間でもありましたね。それでまずは僕の親しい音楽仲間を中心に、楽しみながら作っていたら、それが徐々に評判になって、「僕にも参加させてよ」って言ってくださる方も増えてきて、今に至っています。

YUKIさんや、サカナクション山口さんなども参加されていますね。

矢野:そうですね。こうやってみんなでワイワイ音楽を楽しんでいる雰囲気というのが、ひょっとしたら人を呼んでいるのかもしれませんね。ありがたいことです。

作家陣の個性と南波さんの歌声がセッションしているように聴こえますものね。

矢野:そうですね。

さて7/25に発売となりましたシングル『髪を切る8の理由』ですが、デビュー当初の頃と比べると、南波さんの歌声が徐々に変化してきているように感じますが、周囲の方々からもそう言われたりしますか?

南波:どうでしょうね。普段ずっと一緒にいますからどうなんでしょうかね。

スタッフ:大人っぽくなったねぇ。

南波:それ全然思ってないですよね、感情ゼロの顔で言っていましたから(笑)。でも、私が15歳の時からずっと詞を提供してくださっている土岐麻子さんは、敏感にキャッチして「声が大人っぽくなったね」と言ってくださいますね。

作品を重ねるごとに徐々に、声に芯があると言いますか、力強さのようなものが前面に現れてくるような感じがしますね。ところで、髪をバッサリと切りましたね?

南波:そうですね、バッサリ切っちゃいましたね(笑)。いま南波チームの中では、髪を切る前の写真を指さしながら「え~この時カワイイじゃん、なんで切っちゃったの~?」と言ういじめが流行っています(笑)。

あ~、それは良くないですねぇ(笑)。

南波:良くないです(笑)。

切ってみてどうでした?

南波:なんか軽やかな気持ちになりましたね。これまですごく長かったので、身体的にも、気持ちもフワッと軽くなりました。

こんなに一気に切ったのは初めてでは?

南波:人生初なんですよ、ショートヘアーが。なのに思い切ってアシンメトリーにしちゃったという(笑)。なんでそんなに一気にチャレンジしちゃったんだろう?って(笑)。

切った髪はどうされたんですか?

南波:今回の『髪を切る8の理由』のPVの中で切ったんですね。切った髪が、文字になって現れたりするんです。それで撮影が終わってから、文字にした髪を島田監督からいただきました。今はおうちで額に入れて飾ってあります(笑)。こんなことしているのは私だけなんじゃないかな。

それはすごいですね~。

矢野:他にいるとすれば力士とかね(笑)。

南波:(笑)断髪式的な(笑)。

矢野:そのぐらいの勢いでしたね。19歳までずっと髪が長かったんで。

どうして切ってみようと思ったんですか?

南波:昔からショートヘアーにしたいなぁという願望はあったんですけど、ずっとロングヘアーでしたし、それがトレードマークでもあったので、キッカケがないと切れないと思っていまして。で、私も大学生になったし、変わりたいという気持ちが強くなっていたので、「切りたいなぁ」と雑談の中で話してみたら、「いいよ」と意外にすんなり言われて。でもせっかくこれまでずっと伸ばしていた髪を切るなら、それをテーマにした歌詞にしたら面白いんじゃないかという話になって、それで今回の歌詞のアイディアができました。

この『髪を切る8の理由』は作曲が秦基博さん、作詞は尾形真理子さんですね。

南波:秦さんは、レコーディングの時にアコースティック・ギターやコーラスもやってくださいました。

矢野:秦くん自身も思い入れを持って曲を書いてくれたみたいで、「ぜひギターもやってよ」とお願いしましたらコーラスまでやってくれたんです。

曲展開がドラマティックですよね。

矢野:そうですね。結構「熱い」というか。秦くんと初めて会ったのはいつだっけ?

南波:矢野さん主催の「YANO MUSIC FESTIVAL」(※)ですね。

※「良質なポップミュージック主体のイベント」を旗印に2010年、2011年に開催されたイベント。秦基博が出演したのは2011年6月18日に開催の「YANO MUSIC FESTIVAL 2011」(@渋谷AX)。南波志帆は2010年、2011年ともに全公演でオープニングアクトを務めた。

お会いになった時の印象はいかがでしたか?

南波:一見、怖いのかな?と思ったんですけど、ところどころに面白さがにじみ出ちゃっていて(笑)、すごく気さくで素敵な方ですね。

矢野:背が大きいんで、最初はちょっと怖く見えるけど、飄々としてて、優しい方ですね。

今回の曲はこれまでにあった楽曲の要素を引き継ぎつつ、新しい部分も前面に出ていて、南波さんご自身の声も少し変化して、これまでにない新しい感じがしました。

南波:ありがとうございます。

一方、カップリングの『天国のキッス』はシンセが中心のサウンドですが、この曲を選んだ理由は?

矢野:これはCMのタイアップなんです。この曲ありきでスタートしたんですけど、この時代の松田聖子さんといったら佐野元春さん、細野晴臣さん、大滝詠一さんとか、色んな方と組んでやっていた絶頂の頃ですよね。この曲も細野さんの曲ですし。昨今、自分で作詞作曲もやってしまう方が多い中で、南波さんのように、作詞家や作曲家がいて、そして歌手がいる、というスタイルは少ないと思うんですよ。そう意味では南波さんと松田聖子さんは、スタンスが似てるところもある気がして面白かったですね。で、曲のアレンジは宮川弾さんにお願いして、現代風にというか。

原曲からガラっと変わった雰囲気でビックリしました。

矢野:面白いですよね。変わるもんだなと。

南波さんは、この曲のオケを初めて聴いた時はどんな印象でしたか?

南波:私は原曲をリアルタイムでは知らない世代なので…。

矢野:新曲として…(笑)。

南波:(笑)新曲として。不思議な展開をしていく曲だなと思いました。神秘的な天国のイメージとマッチするような。

矢野:昔の70年代後半~80年代の曲って、ある意味今より自由ですよね。今のJ-POPやポップスだと“A-B-C-A-B-C-間奏-サビ繰り返し”っていう曲が多くて、実際に南波さんの曲もそうだったりんするんですけど、昔の曲はもっと自由で。“A-B-A-B-C”で「あ、サビ行かないんだ」とビックリしたり。サビ至上主義じゃないというか。この曲を聴きながらそういう発見をしましたね。

当時のポップスは2ハーフじゃない曲が多かったですね。

矢野:そうなんですよ。『天国のキッス』もAメロの部分がすごく特徴的ですけど、実は出てくる回数はそんなに多くないんですよね。

南波:そうなんですよね!確かに。

矢野:そういう面白さというか発見があって、勉強になるよね(笑)。

それとカバー・アルバム『“Choice” by 南波志帆』が出ました。こちらも80年代の洋楽が中心ですが、南波さんが最初からご存知だった曲はありましたか?

南波:半分ぐらいは知っていました。THE NOLANSの『I’M IN THE MOOD FOR DANCING』とかもそうですけど、結構テレビCMで流れていたりしましたし、FRANKIE VALLI & THE FOUR SEASONSの『CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU』は織田裕二さんのカバーで知っていました。THE CARDIGANSは私自身結構好きで、自分のラジオで紹介したりもしていましたから、知っている曲が多かったですね。

じゃ、レコーディングもスンナリと…?

南波:いや~それが…(笑)。聴いて知ってはいても、いざ歌うとなると全然違いますね。日本語の歌みたいに、耳で知っているからといって素直にパッと歌えるわけではなくて、英語の壁がまずありますし、聴いているものをそのまま歌えないという、詰まっちゃう感じを初めて経験して。特にSPICE GIRLSの『WANNABE』は「何言ってんだこれ?」と思って歌詞カードを見たら「ええっ!こうなっちゃうの!?」と。その壁を乗り越えるために、まずひたすら聴いて、耳コピで歌詞をカタカナで起こして。空耳アワーみたいな感じですけど(笑)。それである程度練習して、その後にちゃんと英語の歌詞で歌うという、その作業を入れることで歌えるようになりました。初めての壁でしたね。

英語の歌詞ですと単語と単語をつなぐように歌うものもありますからね。

南波:そうなんですよ!歌詞カードには書いてあるのに曲を聴くと歌ってないとか。訛りっぽいものもあったりして、ホントに難しかったですね。

この『Choice』は全9曲入りですが、選曲は矢野さんですか?

矢野:基本的にはそうですね。せっかく10代の女の子がやるので、学園っぽい、ガールポップっぽいものを中心にやりたいなと思いまして。洋楽カバーといっても広いので、基本的に僕がリアルタイムで知っている女性ボーカルもので、南波さんが歌うイメージができるものを中心に選びました。

THE BANGLESの『MANIC MONDAY』とか渋いですよね。

南波:あ!私も好きなんですよー!

矢野:良いですよね。そのままやるのも芸がないんで、アレンジは変えました。

南波:歌入れしてる時のオケと、完成形のオケがまったく違って、ガラっと変わりましたね。

矢野:たまにあるんですよね。何となく仮のアレンジで歌ってもらって、後からアレンジをガラっと変えることが。この『MANIC MONDAY』も、作曲がプリンスなんで、最初はその方向でアレンジしていたんですけど、ちょっと考え直して。

南波:完成形を聴いた時、イントロから「これ何の曲?こんなの歌っていないけど!」と驚きました(笑)。

リスナーのみなさんからの反響が楽しみですね。

矢野:そうですね。英語曲なので、どういう反応があるか楽しみですね。ラップにもチャレンジしましたし。レギュラーのオリジナル作品だと、なかなかできないようなこともカバー・アルバムではやっているので、面白いと思います。

ラップは大変でしたか?

南波:口の中が血だらけになりました(笑)。言葉がすごく詰まっているし、すごく早口でしたから大変でした。