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2014.04.01

権藤知彦「MR-2000S」インタビュー

レコーディングですが、すべてここ(権藤氏のスタジオ)で録音されたのですか?

ラインものはここですね、ギターも結構ここで録りました。みんなそれぞれすごいバックボーンの持ち主ですから、いろんな発想がどんどん出ました。「じゃ、ああしよう、こうしよう」っていう感じで…。ですからレコーディング中に煮詰まったことが一度もなくて。そうすると、その勢いですぐに録ったほうが良いですから、仮に後で差し替えるにしても、ちゃんと本番として録りましたね。でも、後半に別のレコーディング・スタジオに入っても、大抵「これで良い」っていうテイクが多くて、ボーカルとドラム以外はだいたいここで録りました。環境とか勢いとか、そういうのって大事ですからね。

今回のマスタリングではコルグMR-2000Sをお使いになったそうですが、これで録った音がCDになるわけですね。

そうです。2ミックスまでは普通にWAVの24bit/96kHzで作りまして、最終的にMR-2000S(5.6MHz DSD)に落とした、という形です。今までもいろんなプロジェクトでMR-1000をずっと使っていたのですが、MR-1000はどちらかと言うとフィールド向けのコンセプトだったと思うんですけれども、レベルの取り方などはMR-2000Sになってさらにやりやすくなりましたし、すごく良い感じですね。

レベルが取りやすくなったというのは…?

単純なところではメーターが大きくなってピークの良いところまでレベルをシビアに設定できるんです。

やはりDSDは違いますか?

ええ、違いますね。MR-2000Sでは音を(録音せずに)通しただけで音が変わりました。

スルーで音が良くなったということですか?

そうです、スルーで。エンジニアも「エッ!?」って驚いていました(笑)。「オレも買おう!」なんていうノリになって(笑)。音の粒がハッキリして、音の輪郭も見えやすくなりますし。音楽のスタイルによって相性はあるかも知れませんが、pupaの音にはすごく合っていますね。

と言いますと…?

ダイナミクスのある音に合っている感じですね。あとやっぱり空間を録っているような音源、例えばオーケストラとかそういうタイプの音にはもちろん良いですね。奥行き感とかが良く出ますし…。それに定位感が出ますね。定位がすごく良いんです。それはもうMR-1000の頃からそう感じていました。それに、曲によっては聴こえにくかった音が聴こえるようになって、その場でスルーしながら音を変えていって2ミックスに落とすという作業を1日設けて、そういうふうにミックスしました。

スルーでも音が変わるのは面白いですね。

そうなんですよ。どうしてなのか、逆にお聞きしたいぐらいですけど(笑)。AD/DA(コンバーター)がすごく良いのかも知れませんが…。

ということは「最終イメージが分かるエフェクター」としても使えますね?

そうなんです。だから最初のレコーディングの段階で(信号経路の)最後にMR-2000Sを通してスピーカーを立ち上げて、MR-2000Sでレベルを取りながらでも良いのかな?って思いましたね。

マスタリング・エンジニアも驚きましたか?

そうですね、すごく音が良いって驚いていましたね。スターリング(アメリカの有名スタジオSterling Sound )のトム・コイン(Tom Coyne)にやってもらったんですけど、「DSDってどう?」って彼に聞いたら、やっぱりDSDの需要はこれからどんどん伸びるんじゃないかなって言ってましたね。DSDで持ってくる人が多いらしくて…。

そうなんですか!

彼にDSDのデータだけを持って行くって伝えたんですね、向こうに行く1ヶ月ぐらい前に。そしたら向こうから「MR-2000Sを持ってないからMR-2000Sも持ってくるならマスタリングできるけど…」っていう返事だったんです。そうしたら、その2週間後ぐらいに向こうから「ウチも買ったからデータだけ持ってくれば大丈夫だよ」って連絡がありました(笑)。たぶん他からも問い合わせが多かったんだと思います。 DSDを扱える機材は他にもありますけれど、5.6MHzを使えるのは今現在MR-2000SとMR-1000だけですからね。それで使ってる人がすごく増えているんじゃないかと思いますよ。渋谷慶一郎君もよく使ってますよね。3台使ってピアノを録ったりとか、そういう話しをよくしてて、「すごく良いよね」って言い合ったりしています。

今回のpupaのレコーディングで何か面白かったエピソードなどがありましたら…。

そうですね、MR-2000Sについては高野(寛)さんもこの音の変わり方はすごく認めていますね。 あとはTwitter上でセッションの経過を公開したことでしょうか。元々は教授(坂本龍一)が「何やっているのかな」と思って始めたんですけど、その後幸宏さんも始めました。Twitterを使って何かのプロモーションにしようってことはなくはないんですけど、それよりもやっぱり反応を見るのが楽しいですね。「みんな聴きたがってるな」とか。
ここでドラムをラフで叩いたのを録ってそれをそのままサクッとアップしたりするとすごい反応がありましたね(笑)。こういうのは内輪でやっていると日常ですからそうでもないんですけど、(公開すると)逆にそういうファンの心理にも立っていて、「じゃ、こういうところはこうしてみよう」とか、そういうのは曲づくりの段階でも活かしてみて、「あ、だったらもうちょっとこういうのをフィーチャリングしたら」とか、そういうアイディアも出てきますし…。

先ほど「レコーディング中に煮詰まることがなかった」とありましたが、その辺についてもう少しお聞かせいただけますか?

アルバムとして曲を並べるまでは「これ、1枚になるの?」みたいな話がありましたね(笑)。大丈夫かなと思ったこともあったんですが、幸宏さんは最初から最後まで「絶対大丈夫」っていつも言ってるんです。全体ができるとやっぱりちゃんとできてる、何の違和感もないなっていう感じになったんですね。

各楽曲のスタイルとか、pupaとしての統一感というか…。

そうですね、歌詞についてもみんな自由に書いているわりには統一したものを感じられますし、それは幸宏さんが最初にこのメンバーを選んだところがさすがだなって思えますね。

各曲のプロデュースも幸宏さんですか?

みんなそれぞれ1/6の分担でやっています。ただ、意見が合わなかったり、一歩踏み出せない場合には幸宏さんがサッとコメントしてくれてそれでうまく決まるとか、そういうこともあります。やっぱりバンド経験が膨大にありますからさすがですね。

アルバムの曲順などはどのように決めましたか?

曲順は僕がミックスをしている間に勝手に決められちゃいました(笑)。だけど全然問題はありませんでした(笑)。

その決定はスムーズに?

そうですね、スタジオのラウンジで各曲のタイトルを書いたカードを作って入れ替えながら、アナログに(笑)決めてましたね。「これとこれを入れ替えて…」というように。まぁ、前回(アルバム『floating pupa』)もそういうふうに決めたんです。ミックスの段階になると、僕の負担がどんどん増えてきて、細かいところに入れなくなってくるんです。