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2014.04.01

権藤知彦「MR-2000S」インタビュー

「スルーしただけで音が良くなりました」

日本国内では稀な“ポップスがわかるユーフォニウム奏者”、また管楽器のアンサンブルを得意とするアレンジャーという側面を持ちながら、コンピュータや電子楽器を自在に操り、それらを融合した奥行きの深いサウンドを構築する権藤知彦氏。氏のサウンドを支えているのが1 bitオーディオ。1 bit 5.6448MHzによるかつてないサウンドと、「普通のレコーダー」として使えるイージー・オペレーションを高次元で結晶させたMRシリーズ。高橋幸宏率いるpupaのレコーディング、マスタリングで導入したMR-2000Sの話題を中心に、レコーディング中のエピソードなども交えてお話しを伺った。

掲載日:2010年6月28日

MR-2000S

音楽に触れた最初のキッカケは?

中学でブラバンに入ったのと同時に宅録も始めました。宅録はカセットのピンポン録音ですね。音が増えていくのにすごくハマって…。当時はYMOのちょうど全盛期で、同時期に洋楽にも目覚めて…。ブラスバンドも続けていましたので、そのまま大学でも専攻して…。ただ家へ帰るとそういう宅録をずっとしていて、ずーっと平行線をたどっていました。

ブラバンと電子音楽の平行線…。

そうです。そのふたつが一緒にできたらなっていう感じで思っていました。その後東京を出て大学院(ボストン)へ行って、電子音楽のコースを学びました。日本に戻ってきてもやりたいことは前に考えていたこととそんなに変わらなくて、今の事務所に入って、だんだんやっていることが一緒になってきたという感じですね。 事務所に入って最初は楽器を運ぶことからスタートしまして、当時から第一線でやられていたマニピュレーターやプログラマーやプロデューサーの方々の仕事を現場で見て、空いている時間でそこにある山ほどの機材を触ったりとか、空いている時間に自分の作品を作ったりしました。それで何年かして自分のバンドを始めたりして…。そういうふうにして今に至りました。

ところで、宅録時代によく聴いていた音楽は?

YMOはもちろん聴いていましたね。その他にはヒット・チャートのものも聴きましたし、まんべんなく、いろいろ聴いていましたね。 それでサンプリングというのが出始めた時に、「何だコレは?」って思ったんですね。トレバー・ホーン(*1)のZTTレーベル(*2)など当時はよく聴いてました。

(*1)トレバー・ホーン:イギリスの音楽プロデューサー。バグルズ、イエスのボーカリストを経て、1983年にZTTレコーズを設立し、以降音楽プロデューサーとして活躍。初期のサンプリング機材を使用し、オーケストラ・ヒットなど、当時最先端のデジタル機材を駆使した斬新なサウンド・メイキングで時代の寵児に。自身のプロジェクトであるアート・オブ・ノイズをはじめ、グレイス・ジョーンズやプロパガンダ、フランキー・ゴーズ・トゥー・ハリウッドなどのプロデュース作品が有名。近年ではシャルロット・チャーチ、t.A.T.u.の世界デビューのプロデュースを手掛ける。

(*2)ZTTレーベル(ZTTレコーズ):トレバー・ホーンらを中心に1983年にイギリスで設立されたレコード・レーベル。1980 - 90年代のポップ・ミュージックに大きな影響を与え、現在も活動中。

当時、宅録で制作されていた作品もシンセサイザーなどによる電子音楽だったのでしょうか?

いろんなものがありました。例えばリバーブとか空間系エフェクトに興味があったんですが、当時のエフェクターは非常に高価でしたから実際に入手してということはなかったんですけれど、風呂場へ行けば似た音が録れるとか、テープを切り貼りするとどうなるかとか。そういうのは今こそ実験的と言うのはなくなって来ましたが、「音がどうなるか」ということにすごく興味がありまして、音楽的にコードがどうのといったことよりも、入口はそちらでしたね。 サンプラーがなかったときは、リズムだけでイントロが始まる曲のリズムだけひたすらテープでダビングして、リズムができると何となく曲ができるっていうことがあったので、それらが作り方のきっかけにもなってました。 まぁ、当時どんな曲っていう決まった形はありませんでしたし、それは今も基本変わりません(笑)電子の音は単純に一人で作るには向いていました。

楽曲志向というよりは、サウンド志向、音を作っていくようなタイプ…、レコーディングに興味があったという…。

そうですね、はい。

pupa(*3)などで権藤さんの曲は譜面に書いてから制作されるというケースもありますか?

譜面に書いて始めることはあまりありません。メロディや簡単なコード譜だけは書いて始めます。

(*3)pupa:2007年に高橋幸宏の呼びかけで結成されたボップ・エレクトロニカ・バンド。2008年にアルバム『floating pupa』をリリース。メンバーは高橋幸宏、原田知世、高野寛、高田漣、堀江博久、権藤知彦。

このほど完成したpupaのアルバム『dreaming pupa』で使用されたコルグ製品をご紹介して下さい。

まずアナログ・モデリング・シンセサイザーのmicroKORG XLですね。あの色(ベージュ:限定カラー・モデル)が好きで、すぐに買いました(笑)。やっぱり使い心地が良いんですよ。その中の音色も幸宏さんが気に入って。ちょっとクラフトワークっぽい音があって、それも曲で使っていますし、要所要所で活躍しています。あと同じくアナログ・モデリング・シンセのRADIASも使っていますね。
また、今回はΔ(デルタ、1979年発売)を使いました。元々は堀江(博久)君が持ってまして、(高橋)幸宏さんも気に入って、みんなも気に入って。このオルガンの音は独特ですごく良いですね。フィルターの効きも異常に良くて。中古を見つけて入手しました。たぶんライブでも使うと思います。